前科があっても執行猶予付き判決をとれる?弁護士が事例で解説

執行猶予とは

仮に、検察官から起訴され、その後の正式裁判において有罪判決を言い渡されたとしても、執行猶予が付されれば、ひとまず刑務所に入る必要はありません(執行猶予付き判決)。これに対し、執行猶予が付されない場合(実刑判決)には、被告人は直ちに刑務所に収容されてしまうこととなり、それまでの生活や社会から隔離された暮らしを送らなければなりません。
このように、執行猶予とは、文字どおり刑の執行を猶予する制度ですが、執行猶予期間中に新たな犯罪で有罪判決を言い渡されると、執行猶予が取り消され、猶予されていた刑の執行と新たな有罪判決にかかる刑の執行とを同時に(ダブルで)受けなければならないことがあります。

執行猶予の条件

執行猶予を受けることができるのは、①禁錮以上の刑に処されたことがない者、②その執行を受け終わった日またはその執行の免除を受けた日から5年以内に禁固以上の刑に処せられたことがない者が、3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円いかの罰金の言い渡しを受けた場合には、情状により、その刑の全部の執行を猶予することができるとしています。(刑法26条1項)

前科のある人の執行猶予

前科がある場合でも執行猶予判決を受けることはできます。
前科が執行猶予付きの刑だった場合、執行猶予期間が終了すると「刑の言渡しは効力を失う」(刑法27条)とされているので、前述の「禁錮以上の刑に処されたことがない者」に該当することになります。
懲役・禁錮刑で執行猶予がつかなかった場合でも、5年が経過すれば前述の「その執行を受け終わった日またはその執行の免除を受けた日から5年以内に禁固以上の刑に処せられたことがない者」に該当するので執行猶予の可能性があります。
つまり、条文上は前科がある場合でも執行猶予判決を受けることは可能ですが、前科の有無は量刑判断の重要な材料になります。特に、短期間に同種の犯罪を繰り返しているなどの場合は執行猶予判決を得ることは難しいでしょう。

執行猶予中の再犯

前科が、執行猶予付の懲役・禁錮で、執行猶予期間中に、再犯をしてしまった場合、再度の執行猶予付きの判決が認められることがあります。これを「再度の執行猶予」といいます。ただ、再度の執行猶予の条件は厳しく、再犯における裁判で1年以下の懲役または禁錮の言渡しを受けた場合で、かつ、「情状に特に酌量すべきものがあるとき」となっています(刑法25条2項柱書)。「情状に特に酌量すべきものがあるとき」とは、例えば、被害が軽微な場合や示談が成立している場合など一定の場合に限定されます。
また、初回の執行猶予の際、保護観察が付されていた場合は、再度の執行猶予が付されることはありません(刑法25条2項但書)。そして、再度の執行猶予の場合は、保護観察が必ず付されることになります(刑法25条の2第1項後段)。

前科のある方の執行猶予判決獲得に向けた弁護活動

不起訴に向けて弁護活動をする場合と異なり、起訴後にご依頼を受けた場合は、可能性がある限り、執行猶予に向けて弁護活動をすることになります。もっとも、執行猶予付き判決は有罪判決ですので、被告人が無罪を主張する場合は執行猶予付き判決ではなく無罪判決の獲得を目指すことになります。そのため、執行猶予付き判決を目指すのは、原則として被告人が罪を認めている場合となります。

執行猶予付き判決の獲得には、弁護士による情状面での立証が非常に有効となる場合も多々ありますので、弁護士としては、同種事件における判決(判例、裁判例)とのバランスに加え、当該事件において、被害者と示談が成立していること、再犯のおそれがないこと、更生に向けてご家族や周囲の方々の十分な協力が得られること、被告人が十分に反省、悔悟していること等を真摯に訴えかけるための活動に尽力いたします。前科がある場合には、執行猶予判決を獲得することがより難しくなるため、刑事事件の経験豊富な弁護士に依頼し主張を尽くすことが求められます。以上のとおり、弁護士は、事件内容や被疑者・被告人となってしまった依頼者様の言い分に応じて、持てる知識と経験とをフル活用し、不起訴・執行猶予を目指します。
様々なご事情から不起訴・執行猶予にしてほしいとお考えの方は、早期に当事務所の弁護士に相談されることをお勧めします。

執行猶予判決が先行した後の余罪起訴

【例】
1)令和4年1月15日、令和3年6月1日に起こした窃盗事件について、「懲役6月・執行猶予2年」の判決を受ける。
2)令和4年1月30日、令和3年8月1日に起こした窃盗事件について、起訴された。
3)1)の判決が確定した後、令和4年3月1日に起こした窃盗事件について、起訴され、正式裁判となった。 

 

では、2)の裁判で、裁判所は執行猶予判決を出すことができるでしょうか?

答えはYESです。
2)の窃盗事件で執行猶予の要件を満たしており、執行猶予判決が出される場合は、「再度の執行猶予」ではなく、「初度の執行猶予(刑法25条1項)」と位置付けられます。
2)の窃盗事件は、1)の窃盗事件の有罪判決「言渡し前に犯した他の罪」(刑法26条2号)であり、1)の窃盗行為と2)の窃盗行為とは、併合罪(刑法45条後段)の関係に立つからです。

ただ、2)の裁判で、(初度の)執行猶予判決ではなく、実刑判決になってしまった場合は、1)の裁判で下された執行猶予も取り消されてしまいます(刑法26条2号)。

次に、3)の場合はどうでしょうか。
1)の判決確定後の罪に対する裁判ですので、3)の窃盗事件で再度の執行猶予の要件を満たし、執行猶予判決がなされる場合は、初度ではなく、「再度の執行猶予」(刑法25条2項)が付されることになります。
そして、3)の裁判でこの「再度の執行猶予」判決ではなく、実刑判決になってしまった場合は、1)の裁判で下された執行猶予も取り消されてしまいます(刑法26条1号)。

解決事例

【事案】 給付金詐欺で執行猶予判決を得た後、警察から再度、呼出が来てしまった!!

Bさんが不正受給した持続化給付金の詐欺事件に関与したとして起訴された山下さん(仮名)は、ヴィクトワール法律事務所の弁護士の弁護活動を受け、「懲役1年6月・執行猶予4年」の判決を受け、確定しました。
しかしその執行猶予判決の2カ月後、山下さんから、「Cさんを受給者とする持続化給付金の不正受給の件で取り調べたいと、警察から言われた。」と当事務所に連絡がありました。
「先生、私はまた刑事裁判を受けなければならないのですか?正直言って、もう精神的にクタクタです。妻にもまた、情状証人として出廷を頼むのも辛いです。どうにかなりませんか…」

【解決方法】

当事務所の弁護士はすぐに、①山下さんは前の逮捕・勾留時からCさんの持続化給付金不正受給関与を供述していたこと、②前の裁判の中でCさんの件についても審理をすることができたのに、検察官が追起訴をしなかったこと等の事情を意見書にまとめ、担当検察官に送りました。
その後、検察官より、Cさんの持続化給付金の件について、山下さんに対し、不起訴処分にする旨の連絡があり、山下さんは2回目の刑事裁判を受ける必要がなく、無事事件が終わりました。

 山下さん 
「先生、Cさんの件で不起訴処分が決まり、安心しました。
もし、Cさんの件でも起訴されて、正式裁判になっていた場合、私はどうなっていたのでしょうか?」

弁護士
「まず、Cさんの持続化給付金不正受給に関する詐欺事件は、余罪にあたります。山下さんがCさんの件で刑事裁判を受け、実刑判決であった場合、Bさんの件で認められていた執行猶予は取り消されてしまいます(刑法26条1号)。」

山下さん
「Cさんの件で、私に2回目の執行猶予判決を得ていた可能性はありましたか?」

弁護士
「Cさんの事件は、Bさんの事件で有罪判決を得る前に起きた余罪です。ですので、Cさんの事件で刑事裁判を受けていたとしても、裁判官は、山下さんが「前に禁固以上の刑に処せられたことがない者(刑法25条1項1号)」、「前に禁固以上の刑に処せられたことがあっても、その執行を終わった日又はその執行の免除を得た日から五年以内に禁固以上の刑に処せられたことがない者(刑法25条1項2号)」、の両方に該当しないとして、「山下さんが初度の執行猶予を受ける要件を満たすか・満たさないか」という観点から審理をしたはずです。Cさんの件でも、情状に認められるところがあれば、執行猶予判決が得られた可能性があります。」

山下さん 
「そうだったんですね…。でも、起訴されて、裁判に出廷しなければならなかったら、とても緊張しますし、仕事を休む必要も出てきます。不起訴処分になって、Cさんの件で裁判を受ける必要がなくなったことはとても助かりました。先生、本当にどうもありがとうございました。」

執筆者

ヴィクトワール法律事務所

刑事事件について高い専門性とノウハウを有した6名の弁護士が在籍する法律事務所です。

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