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公務妨害罪とは
「公務執行妨害罪」とは、『公務の執行を妨害する罪(刑法95~96条の3)』の内の、刑法95条1項である「公務執行妨害罪」のことです。
刑法95条1項が該当する者は、『公務員が職務を執行するに当たり、これに対して暴行又は脅迫を加えた者』です。それに対して有罪判決が言い渡されれば、3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金が処されることになります。
公務の執行を妨害する罪には「公務執行妨害罪」のほかにも、職務強要罪(刑法95条2項)、封印等破棄罪(刑法96条)、強制執行妨害目的財産損壊等罪(刑法96条2条、強制執行行為妨害等罪(刑法96条の4)、加重封印等破棄等罪(刑法96条の5)、公契約関係競売等妨害罪(刑法96条の6第1項)、談合罪(刑法96条の6第2項)などがあります。
公務執行妨害罪が保護しようとしているのは「公務の円滑な執行」であり、公務を執行する公務員を客体とすることで、公務の執行という抽象的な概念を明確化していると言えます。
公務執行妨害罪の客体とは
この法律上の公務員とは警察官だけでなく、国又は地方公共団体の職員その他法令により公務に従事する議員、委員その他の職員のことを指します。
公務員にはさまざまな種類がありますが、役所等から委託を受けて公務にあたる民間企業の職員や、街頭で違法駐車を取り締まる駐車監視員といった、いわゆるみなし公務員の場合でも公務執行妨害罪の公務員に当たります。
公務執行妨害に当たらないケース
公務執行妨害罪とは、公務員の職務の執行時にのみ適応されるので、職務時ではない警官等に暴行又は脅迫を加えても公務執行妨害罪には当たりません。ただし、傷害罪や、脅迫罪に問われる可能性があります。
例えば、警察が事件の証拠をもって捜索にきている時に暴行を加えてしまえば公務執行妨害ですが、明日行われる捜査を妨害しようと非番の警察官に暴行を加えた場合は当てはまりません。
職務の適法性
公務員の職務が適法なものでない場合には公務執行妨害罪に問われることはありません。
公務の適法性については、当該職務行為が、
①公務員の抽象的職務権限に属すること
②職務を行う具体的権限を有していること
③有効要件として定められている手続・方式に従っていること
上記3点に当てはまることが必要とする考え方があります。
判例では警察官が逮捕を執行する際に、逮捕状を呈示しなかったケース、被疑事実の要旨を告げなかったケースについて、③が満たされていないとして逮捕行為を違法としています。適法性については、個別具体的に事例に応じた判断が下されることになります。
公務執行妨害罪で逮捕されたら
公務執行妨害罪では、初犯で犯行態様が悪質でない場合は、不起訴になる可能性が高いです。犯行態様が悪質であったり、前科があったり、傷害まで加えてしまっている場合など他罪が成立する場合は起訴される可能性は高くなります。
起訴された場合でも、罪を認めていて、犯行動機や経緯が悪質でない、犯行態様が悪質でない、同種前科がないなどの事情がある場合には、罰金刑が選択され、略式手続により処理されることが多いです。罰金の金額は、犯行態様や結果の重大性、前科の有無などで変わるので場合によって様々です。
専門の弁護士に依頼するメリット
刑事事件を起こしてしまった場合、公務執行妨害事件について経験豊富な弁護士に依頼をすべきです。
適法な職務の執行ではなく、違法な職務や不必要な暴力を振るわれていた場合などは公務執行妨害には当てはまりませんし、もしその様な場合は正当防衛が成立する余地があります。弁護士に事件当時の状況などを詳しく話すことで、より良い解決策を導き出すことができます。
示談交渉
被害者のいる刑事事件の多くは、被害者と示談をすることにより処分が軽くなるケースが多く、弁護士も積極的に示談交渉を進めます。しかし、公務執行妨害罪では被害者が警察官や公務員になるため、示談を受けてもらえない場合が多いです。また、公務執行妨害罪の保護法益は公務の執行であるため、保護法益が被害者の生命・身体である犯罪と比べると示談が意味をなさない場合があります。
贖罪寄附
弁護士は個別の事案に即し示談ができない場合でも、贖罪寄附などさまざまな方法を検討することができます。
贖罪寄附とは、被疑者・被告人が、罪を認めて反省し、その気持ちの現れとして、公的団体等に金銭を寄附することです。公務執行妨害罪のように、公益に対する罪であって、個人との示談が終局処分との関係であまり意味をなさない犯罪においては、反省を示すための方法として、贖罪寄附が行われることがあります。交通犯罪や性犯罪など個人の法益を侵害する罪において、被害者の方に示談を受け入れてもらえないが反省の意を示したいという場合にも贖罪寄附が行われることがあります。贖罪寄附を受け入れている団体は、各都道府県の弁護士会や日本司法支援センター(法テラス)、日本財団のほか、東京ダルク、交通遺児育英会など、実に様々です。数ある贖罪寄附の受け入れ先から、寄付金の使途や団体の理念等を見つつ寄附先を選択します。
贖罪寄附の額として、一つの目安になるのは、「見込まれる処分と同程度の額を寄附する」ことです。公務執行妨害罪の法定刑は、3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金となっていますが、上述のとおり、公務執行妨害罪は罰金刑が選択されることも多い犯罪です。罰金の額は、犯行態様や結果の重大性、前科の有無等を総合的に考慮して決定されますが、過去の事例報告によると、検察官が罰金刑を選択する場合、20万円から30万円の範囲で求刑する事例が複数見受けられます。そうすると、20万円から30万円の範囲で贖罪寄附を行うことが一つの目安にはなるでしょう。
当然ですが、贖罪寄附をするだけで当然に反省の気持ちが伝わり、処分が軽くなるというわけではありません。弁護士は、贖罪寄附と併せて、被疑者・被告人作成の反省文を提出したり、被疑者・被告人の犯罪傾向が強くないことなどを記した弁護人意見書を提出したりして、適切な処分がなされるよう力を尽くします。
公務執行妨害の事例
公務執行妨害罪というと、職務質問をしてきた警察官を突き飛ばしてしまったというような、公務員の体に直接暴行を加えた事例を思い浮かべる方も多いと思います。しかし、公務執行妨害罪は、公務員が職務を執行するに当たり、これに対して「暴行又は脅迫」を加えた場合に成立する犯罪とされているところ、この「暴行」は、必ずしも公務員の身体に接触することは要しないとされています。
また、公務執行妨害罪は、他の犯罪と一緒に行われることが多く、公務執行妨害罪のみで起訴されることは少ないのですが、起訴された場合も、罰金刑となることが多い犯罪類型です。そんななかで、1年2か月の実刑判決が下された事例(神戸地裁尼崎支部判決平成30年10月1日)を紹介します。
この事案は、被告人が、市役所職員に対し、ハンマーを床にたたきつけ、「血を見ることになるぞ」等と怒号して脅迫した行為により公務執行妨害罪に問われた事案です。裁判所は、被告人の犯行態様は職員の生命身体を脅かすような強烈かつ悪質なものであったこと、動機に酌量の余地はないこと、7年6か月前に同種前科があること等を勘案して、懲役1年2か月の実刑判決を言い渡しました。
それぞれの置かれた事情により、処分の見通しや必要な弁護活動も異なってきます。ご不安な日々を過ごされている方は、ぜひ一度弁護士にご相談ください。