交通事故の加害者になってしまった看護師・自衛官の解決事例を弁護士が解説

交通事故の多くは過失により生じるものであるため、飲酒運転やひき逃げなど特段の悪質性がない場合でも、加害者となり刑事罰を受ける可能性があります。
特に公務員や国家資格を持って働いている方は、禁錮以上の刑が確定すると免職や資格の剥奪となってしまうことが法に定められている場合があるので注意が必要です。ただ、略式起訴(100万円以下の罰金や科料)になった場合でも、懲戒処分を受ける可能性があります。そのため弁護士は、このような不利益を回避するために不起訴処分獲得に向けた弁護活動を行っていきます。
本記事では、公務員や国家資格を持つ方の交通事故の解決事例を紹介します。

ケース1 看護師資格を持つ方の交通事故

・事案の内容

「3日後に東京地検へ来てほしい」と検察官から電話連絡を受けた三村さん(仮名)。 三村さんは非常に驚き、相談にいらっしゃいました。

弁護士  検察官は何の件で、三村さんから話を聞きたいと言っているのでしょうか?

三村さん
今から5か月ほど前、私は自動車を運転していたところ、バイクと衝突事故を起こしてしまいました。そのことだと思います。保険会社に間に入ってもらっていたので、てっきりこの事故の問題は終わっていたと思っていたんです。なのにいきなり検察官から連絡があって…私は今後、どうなるのでしょうか?

≪三村さんから聞いた事故の詳細≫
二車線道路を走行中、交差点を右折しようとしたところ、後ろから被害者運転のバイクが、三村さん運転の自動車を右側から追い越そうとしたため、交差点にて衝突したという事故。被害者は足を骨折し、全治2ヶ月と診断されました。

三村さん 
私は看護師をしています。この事故のことで前科がつくと、私は看護師を続けられなくなってしまいませんか?

弁護士 
医師の場合と異なり、看護師の方の刑事事件は、検察庁から厚生労働省への事案報告が義務化されていません。ですので、相当悪質な事案であったり、社会的耳目を集める事案等でなければ検察庁から厚生労働省へ報告がなされないとは思われます。検察庁から厚生労働省への事案報告がなされることがないよう、不起訴処分の獲得を目指しましょう。

三村さん わかりました。

・懲戒処分の可能性

看護師は、「罰金以上の刑に処された者」について資格を制限される場合があります。すべてではありませんが医道審議会で懲戒に関する審議がなされ、行政処分が下されます。行政処分の内容は、戒告、3年以内の医業停止、免許取消となります。
厚生労働省「2021年1月25日 医道審議会保健師助産師看護師分科会看護倫理部会議事要旨」によれば、・免許取消:2件(窃盗1件、準強制わいせつ及び窃盗1件)

 ・業務停止3年:1件(大麻取締法違反1件)

 ・業務停止2年:2件(窃盗2件)

 ・業務停止1年6月:1件(過失運転致傷及び道路交通法違反1件)

 ・業務停止6月:1件(過失運転致傷及び道路交通法違反1件)

 ・業務停止3月:7件(道路交通法違反6件、徳島県迷惑行為防止条例違反1件)

 ・業務停止2月:1件(保健師助産師看護師法違反1件)

 ・戒告:1件(窃盗1件)
という行政処分が、看護師の方に出されました。

・不起訴処分獲得のための弁護活動

1 担当検察官への連絡
弁護士はすぐに弁護人選任届を検察庁に送付し、担当検察官に連絡をしました。

検察官
本件のように被害者の怪我の程度が重い案件では、略式起訴、罰金となるのが一般的だろうと考えています。3日後の取調べで、三村さんから、略式請書に署名をいただき、略式罰金にしようと考えていました。

弁護士 被害者に謝罪を尽くしきれていませんので、示談の機会をいただきたいのですが

検察官 わかりました。では、三村さんの検察庁呼出を少しだけ延期します。

2 被害者への連絡

担当検察官を通じ、被害者に連絡を取った弁護士。
事故から5カ月以上も経過した今になって、ようやく謝罪をしてきた三村さんに対し、被害者は当初、強い怒りを持っていました。しかし、保険会社から「当事者同士が連絡を取り合うと、新たなトラブルになってしまう可能性もあるので、控えてほしい。」と言われていたことを伝えると共に、三村さんの謝罪文をお渡ししたところ、被害者も段々と弁護士に対して耳を傾けてくださるようになりました。

3 被害者との示談成立
被害者
医療費は保険で賄えましたが、バイク修理費用は全然認めてもらえませんでした。ただでさえ少ない金額から、バイクのレッカー費用などが差し引かれ、私の手元に残ったのは本当に微々たる金額だったんです。私は貯金が全くなかったので、自分で修理することもできず、結局2カ月前に廃車にしてしまったんです。今はバスで通勤しているのですが、1時間に2本しか来ないし、終バスは早いし、本当は前みたいにバイクで通勤したいんですよね…」弁護士は、被害者の要望を三村さんに伝えました。

三村さん 
新しいバイクを購入できる費用に充てていただけたらと思うので、示談金をお支払いしたいと被害者に伝えてください。

そして、三村さんと被害者の間で示談が成立しました。

4 検察官への報告
示談成立後、弁護士は担当検察官に報告をしました。

検察官
「宥恕文言」(ゆうじょもんごん。加害者・被疑者を許すという意味。)入りの示談が成立したことを確認しました。被害者に被害感情がないということや、この事故で被った損害が填補されていることに鑑み、上司と相談し、三村さんを不起訴処分にすることにしました。三村さんにはもう、検察庁に来ていただかなくて結構です。

5 最後に…

三村さん
一時はどうなることやらと、すごく心配でしたが不起訴処分となり、安心して、看護師の仕事が続けられること、とても嬉しいです。本当にありがとうございました。

 

ケース2 自衛官の方の交通事故

・事案の内容

「半年以上前のことになりますが、自転車に乗っていた際、交通事故を起こしてしまったんです。」暗い表情でそう話をするのは、大竹さん(仮名)です。
検事から、この事件について詳しく話を聞きたいと言われ、1週間後に東京地検に行くことになっていました。

弁護士 
大竹さんが起こしてしまった交通事故とは、一体どのような事故だったのでしょうか。

大竹さん
仕事が終わり、家に帰るために自転車を運転していたときのことです。ちょうど丁字路に差し掛かったところで、私の右手から直進してきた自転車と衝突してしまったのです。相手は高齢のおばあさんで、腕や鼻の骨を折るなどの重い怪我を負ったようです。お年も相俟って、なかなか怪我が良くならず、かなり長期間入院されたと聞いています。被害者の方には本当に悪いことをしてしまったと思っています。まずは被害者の方にきちんと謝りたいです。私は、自転車保険に入っているので、治療費の支払いなどについても責任を持って対応したいと考えています。

弁護士
では、被害者の方には、弁護士を介して謝罪を尽くし、示談成立を目指しましょう。

大竹さん 
ありがとうございます。それから、検察官に呼ばれるなんて経験は初めてで、どのように対応したらよいか分からず、困っています。取調べの日は、どのようにしたらよいのでしょうか。

弁護士 この後、取調べを受ける際の注意点などをご説明しますので、ご安心ください。

大竹さん 
ところで、私は自衛官の仕事をしています。今回の事故は仕事から帰宅する途中の事故だったので、上官にも報告しましたが、「相応の処分を受けることは覚悟しておいてほしい。」と言われてしまいました。私は、仕事を辞めなければならないのでしょうか。

弁護士 
自衛官の方が、刑事事件を起こした場合、隊員としてふさわしくない行為があったとして、懲戒処分を受けるおそれがあります。刑事事件の終局処分の結果と組織としての懲戒処分の判断は必ずしも連動しない部分もあるようですが、不起訴処分を取ることができれば、懲戒処分をしない、あるいは懲戒処分がなされてもその内容を少しでも軽くすることができるものと思われます。まずは、不起訴処分の獲得を目指しましょう。

・懲戒処分の可能性

自衛官は、自衛隊法(以下「法」といいます。)の規律を受けます。
懲戒処分については、法第46条に定められており、第1項では、隊員が、「職務上の義務に違反し、又は職務を怠つた場合」、「隊員たるにふさわしくない行為のあつた場合」、「その他この法律若しくは自衛隊員倫理法(平成十一年法律第百三十号)又はこれらの法律に基づく命令に違反した場合」のいずれかに該当する場合には、「免職」「降任」「停職」「減給」又は「戒告」の処分をすることができると規定されています。

 (参考:懲戒の効果)

法第47条 懲戒処分としての降任は、階級又は職務の級の一級又は二級だけ下位の階級又は職務の級にくだすものとする。
2 停職の期間は、一年以内とする。停職者は、隊員としての身分を保有するが、特に命ぜられた場合を除いては、職務に従事することを停止される。
3 停職者には、法令で別段の定をする場合を除き、給与を支給しない。
4 減給は、一年以内の期間、俸給の五分の一以下を減ずるものとする。

「令和4年9月22日 防衛省 令和3年度における懲戒処分の状況について」によると、令和3年度中に懲戒処分を受けた自衛隊員は、1、066人にのぼります。処分理由では、私行上の非行(その他類するものを含む)が249人(全体の約23%)と最も多く、次いで、ハラスメントが173人(全体の約16%)、私有車両運転に伴う悪質な交通法規違反が130人(全体の約12%)となっています。

・不起訴処分獲得のための弁護活動

1 担当検察官への連絡
弁護士は速やかに弁護人選任届を検察庁に送付するとともに、今回の事件の担当検察官に連絡をしました。

検察官 
本件は、被害者の怪我の程度が極めて重く、入通院期間も相当長期にわたっています。更に、被害者は、被害届の提出だけでなく告訴も行っており、処罰感情が極めて強いです。正直、示談をしても、不起訴処分は難しいと考えています。

弁護士 
大竹さんは、被害者に対し、誠意を持って謝罪を尽くしたいと考えています。まずは、示談交渉をさせてください。その結果を見て、再度終局処分の内容を考えていただきたいのです。

 

検察官
わかりました。検察官としても、被害者の被害が回復されることは非常に大切だと思っています。少しだけ待ちたいと思います。

2 示談交渉
検察官との電話を終えたA弁護士は、早速、大竹さんの加入している保険会社の担当者と連絡を取りました。保険での賠償範囲を確認するためです。

担当者 大竹さんの保険の内容ならば、被害者の治療費を全額賄うことができます。

弁護士 それならよかったです。ありがとうございました。

弁護士は、大竹さんと相談し、被害者の治療費は全額保険で支払うこと、それとは別に大竹さんのお金でお見舞い金を準備することにしました。

被害者には、既に代理人としてA弁護士が就いていたので、A弁護士に連絡を取りました。弁護士は、被害者への謝罪を伝えるとともに、示談の申入れを行いました。A弁護士曰く、被害者はもちろん、そのご家族も非常にお怒りであり、示談を受け入れることは難しいとのことでした。

弁護士 
お怒りはごもっともだと思います。ですが、大竹さんは、保険も活用しながら、最後まで被害者の方に生じた損害を補填したいと考えております。これとは別に、大竹さん自身が、お見舞い金をお支払いしたいという意向もございます。実は、大竹さんが書いた謝罪のお手紙を預かっております。まずはこちらをお送りするので、よろしければ手紙に目を通していただき、再度示談について考えてはいただけませんでしょうか。

手紙を送ってから数週間後、A弁護士から、連絡がありました。

A弁護士
被害者に手紙を渡し、示談を受け入れるのかどうかよく考えてもらいました。被害者は、「今も事故のときの怪我が治りきらず、しんどい思いをしている。こんな身体になってしまって、とても悔しい。でも、手紙を読んで、相手にも悪気があったわけじゃないことが分かった。今後もきちんと損害を補填してくれるようだし、示談を受け入れる。」と言っています。

こうして、大竹さんと被害者の間で示談が成立しました。

4 検察官への報告
示談成立後、弁護士はすぐさま担当検察官に報告をしました。

検察官 
宥恕文言入りの示談が成立したことを確認しました。それだけでなく、先日、B弁護士が、被害者を代理して、被害届と告訴の取下げを行ったという報告も受けています。被害者が受けた損害については、お見舞い金の支払いで終わりにするのではなく、保険を使って、今後も継続的に被害回復を続けていくようですね。…当初、示談をしても不起訴処分は難しいと話しましたが、少し上司と相談させてください。

数日後、検察官から、上司との協議の結果、本件は不起訴処分にすることにしたとの連絡がありました。

 

5 最後に…
大竹さん 
被害者の方に、きちんと謝罪をすることができて、本当によかったです。ずっと抱えていた胸のつかえがとれました。頂いた不起訴処分告知書は、上司に提出します。本当にありがとうございました。

執筆者

ヴィクトワール法律事務所

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