ストーカー規制法について

はじめに

ストーカー規制法(ストーカー行為等の規制等に関する法律)は、2000年11月から施行されている法律で、明治時代から施行されている刑法などに比べればかなり新しい法律です。ストーカー行為に当たる行為自体は古くから存在しましたが、「つきまとい」そのものを規制する法律がなかったため、十分な取締りがなされていませんでした。しかし、その後、桶川ストーカー殺人事件(1999年)を契機に、特別にストーカー行為等を刑罰で禁止する必要性が認められ、ストーカー規制法が制定・施行されることとなりました。

このページでは、ストーカー規制法の内容や、ストーカー行為等に問われてしまったとき、反対に、ストーカー行為等の被害に遭ってしまったときに取るべき対応などについて解説します。

 

ストーカー規制法の内容は?

つきまとい等とは?

ストーカー規制法は、特定の者に対する恋愛感情等またはそれが満たされなかったことに対する怨恨の感情を充足する目的で、その特定の者やその親族等に対して次の8つの行為を行うことを、「つきまとい等」と定義しています。

 

① つきまとい、待ち伏せし、進路に立ちふさがり、住居等の付近において見張りをし、住居等に押し掛け、または住居等の付近をみだりにうろつくこと

(例)自宅付近において待ち伏せをする。なお、姿を隠して待ち伏せすることまでは必要ないとする裁判例があります。

② その行動を監視していると思わせるような事項を告げ、またはその知り得る状態に置くこと

(例)相手方を監視し、相手方が帰宅した瞬間に「おかえり」とメッセージを送信する。

③ 面会、交際その他の義務のないことを行うことを要求すること

(例)嫌がっているのにしつこく会うことを要求する。なお、ツイッターのリプライを使っても「要求」になるとする判例があります。

④ 著しく粗野または乱暴な言動をすること

(例)大声で相手方を罵倒する。

⑤ 電話をかけて何も告げず、または拒まれたにもかかわらず、連続して、電話をかけ、文書を送付し、ファクシミリ装置を用いて送信し、もしく電子メールの送信等をすること

(例)無言電話を繰り返す。

⑥ 汚物、動物の死体その他の著しく不快または嫌悪の情を催させるような物を送付し、またはその知り得る状態に置くこと

(例)猫の死骸を郵送する。

⑦ その名誉を害する事項を告げ、またはその知り得る状態に置くこと

(例)中傷ビラを送り付ける。

⑧ その性的羞恥心を害する事項を告げもしくはその知り得る状態に置き、その性的羞恥心を害する文書、図画、電磁的記録に係る記録媒体その他の物を送付しもしくはその知り得る状態に置き、またはその性的羞恥心を害する電磁的記録その他の記録を送信しもしくはその知り得る状態に置くこと

(例)わいせつ写真やそのデータを送り付ける。

以上のとおり、多種多様な嫌がらせ行為が、幅広に「つきまとい等」に含まれます。

 

位置情報無承諾取得等とは?

ストーカー規制法は、特定の者に対する恋愛感情等またはそれが満たされなかったことに対する怨恨の感情を充足する目的で、その特定の者やその親族等に対して次の2つの行為を行うことを、「位置情報無承諾取得等」と定義しています(目的や対象者の部分は「つきまとい等」と同様です)。

① その承諾を得ないで、その所持する位置情報記録・送信装置により記録 され、または送信される当該位置情報記録・送信装置の位置に係る位置情報を政令で定める方法により取得すること

(例)相手方のスマホのGPS情報を取得する。

② その承諾を得ないで、その所持する物に位置情報記録・送信装置を取り付けること、位置情報記録・送信装置を取り付けた物を交付することその他その移動に伴い位置情報記録・送信装置を移動し得る状態にする行為として政令で定める行為をすること

(例)相手方の自家用車にGPS機器を取り付けたり、GPS機器を取り付けた財布をプレゼントしたりして、相手方の位置情報を取得する。

「位置情報無承諾取得等」は、近年のストーカー行為の実情を踏まえ、法改正を経て、令和3年8月からあらたに規制対象となっています。

 

ストーカー行為とは?

ストーカー規制法は、同一の者に対し、以上見てきた「つきまとい等」や「位置情報無承諾取得」を反復してすることを、「ストーカー行為」と定義しています(一部、方法に関する限定があります)。

判例は、「反復」に関し、特定の一種類の行為が反復されることまでは必要なく、つきまとい等のうち、いずれかの行為が反復されれば足りると考えています。要するに、待ち伏せだけが反復されなくても、①待ち伏せ、②著しく粗野な言動、③猫の死骸の郵送、といった順番でつきまとい等が行われた場合も、つきまとい等を「反復」したことになるのです。

 

警告・禁止命令とは?

ストーカー規制法は、警告・禁止命令といった制度を設けています。

警告(ストーカー規制法4条)とは、被害者からの申出に基づいて、警察本部長等が、行為者に対して警告書等を交付する制度です。もっとも、警告は行政指導であり、行為者に対する法的拘束力はないものと理解されています。

より強力なのが禁止命令(ストーカー規制法5条)です。禁止命令は、被害者からの申出や職権で、公安委員会が、行為者に対して禁止命令書等を交付する制度です。こちらは、行政指導ではなく行政処分で、行為者にはつきまとい等の該当行為をさらに反復してしてはならないという法的義務が課されます。

どのような責任を問われる?

刑事責任

①ストーカー行為をした人は、1年以下の懲役または100万円以下の罰金に処されます。

②禁止命令等に違反した人は、6月以下の懲役または50万円以下の罰金に処されます。

③禁止命令等に違反してストーカー行為をした人は、2年以下の懲役または200万円以下の罰金に処されます。

以上のとおり、禁止命令等に違反しただけの場合は比較的軽い刑事罰が定められていますが、禁止命令等に違反してストーカー行為をしたと認定されれば、2年以下の懲役等という重い刑事罰が科される可能性があります。

 

民事上の損害賠償責任

他の多くの犯罪にもいえることですが、加害者は、刑事罰のみならず、被害者から民事上の損害賠償責任を問われるおそれもあります。民事上の損害賠償においては、民事訴訟等を提起され、場合によりますが、慰謝料、引っ越し費用等の賠償を求められ、賠償額が高額に上ることもあります。

また、ストーカー規制法違反の罪は、脅迫、強要、傷害など他の罪とセットで成立することもある犯罪です。このように、他の罪がセットで成立している場合は、刑事罰はより重くなり、賠償額はより高額に上ることが多いです。

 

弁護士への依頼と弁護士の対応

ストーカー行為を行ってしまった場合

どのような経緯があるにしても、法に違反するストーカー行為は絶対に行ってはならないものです。しかし、万一、ストーカー規制法違反の罪に問われてしまった場合には、早期に、刑事事件に明るい弁護士に相談されることをお勧めします。

万一、ストーカー規制法違反の罪に問われてしまった場合でも、その状況次第では、法律が定める「つきまとい等」の要件に該当せず、最終的に刑事罰に問われない可能性もあり得ます(嫌疑不十分)

また、被害者との示談状況や被害者に対する誓約内容(二度と被害者に連絡、接近しないなど)次第で、起訴を免れたりすることもあります(起訴猶予)

そのため、ストーカー規制法や刑事事件について熟知した弁護士に早期に相談することが必要となります。現行犯逮捕されてしまった場合も、同様です。

ご相談・ご依頼を受けた場合、弁護士は、依頼者や関係者から詳しい事情をうかがい、関係証拠を収集・保全します。その上で、依頼者の意向を最大限尊重しながら、ストーカー規制法違反の罪の成立を争うべきか、争わずに示談の方向に進むべきかなどを検討し、方針を定めて実行していきます。

 

ストーカー行為の被害に遭ってしまった場合

上記とは反対に、ストーカー行為の被害に遭ってしまった場合、即時に、証拠を収集・保全されることをお勧めします。メッセージ、ライン等の履歴の保存はもちろんのこと、例えば無言電話・嫌がらせ電話の日時、内容、状況などをすべて記録・保存しておくことが有効です。

ストーカー行為が執ように行われる場合、110番通報すれば、通常、警察の記録に残りますので、それも有効です。また、弁護士は、通常、嫌がらせ行為がストーカー行為に該当するかどうかを早期に判断することができますので、迷う前にまず弁護士に相談することをお勧めします。

反対に、相手方と直接のやり取りを繰り返すことはやめた方が良いといえます。相手方が逆上するリスクもありますし、やり取りの内容次第では、連絡や交渉自体を拒否しているわけではないと捉えられ、後から不利に働く可能性があるからです。そのような場合、相手方をストーカー規制法違反に問うこと自体が難しくなったり、そのために警察から民事不介入の事案であると判断されたりするリスクがあります。本当に被害に遭っているのであれば、相手方とのやり取りは控えるべきでしょう。

さいごに

ストーカー規制法は、規制対象となる行為が幅広く、その行為も日常生活と密接に関連しています。そのため、誰しもが加害者・被害者になってしまうリスクがあります。中には、相手方をストーカーであるとして事実に反する訴えがなされるケースもあります。ストーカー規制法に関する事案は、加害者側・被害者側ともに難しい対応を迫られることが多いといえます。

当事務所の弁護士は、刑事事件を多く取り扱う中で、ストーカー規制法に関する刑事事件について取り扱った経験も豊富に有しています。ストーカー規制法に関する刑事事件については、事件の段階を問わず、できる限り早期に、当事務所の弁護士に相談されることをお勧めします。

 

 

 

 

 

 

執筆者

ヴィクトワール法律事務所

刑事事件について高い専門性とノウハウを有した6名の弁護士が在籍する法律事務所です。

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