警察からお子様の逮捕の連絡を受けた場合、ほとんどの方がどうしたらいいのか驚き、パニックになってしまうことと思います。
逮捕の連絡からどのように動くかが、お子様とご家族の今後を大きく左右します。お子様の将来のためにも、早期の釈放を実現できる弁護士に依頼することが重要です。
この記事では、少年事件の流れと弁護士の役割について解説していきます。
目次
少年事件の概要 ~少年事件で逮捕されるとどうなる?~
刑法は、14歳以上の者に対する処罰を規定しています(「14歳に満たない者の行為は、罰しない。」(刑法41条))。
そして、少年法は、20歳未満の者に対して、刑法に加えて特別な規定を置いています。少年法では、20歳未満の者を少年と呼称しているため、少年が犯した事件については、少年事件や少年犯罪といわれています。少年に対しては、刑罰よりも保護(少年の健全な育成を目指す処分)を行うことが少年法の目的(少年法1条)であるため、成人の刑事裁判とは違ったプロセスで行われます。
少年事件の例外
年齢切迫事件
少年の年齢が20歳まであと数ヶ月で、審判の時点で成人となってしまう可能性のある場合には、「年齢切迫」事件として、成人事件として扱われることもあります。
逆送事件
少年が死刑、懲役又は禁錮に当たる罪の事件について刑事処分が相当だと認めた場合、事件を検察官へ送致し、成人の刑事事件と同じプロセスで手続きが進行します。
身体拘束が予想される期間
⇒勾留が却下されると2、3日
⇒勾留、勾留に代わる観護措置が決定するとさらに10日(例外的)
⇒家庭裁判所に送致され観護措置が決定すると
最終処分を決定する審判までさらに2週間~4週間
⇒審判で少年院送致の決定が出た場合には決定に応じて身体拘束が継続
もちろん事件の内容によっては数日で釈放となる場合もありますが、最長の場合には捜査段階で23日間、家庭裁判所送致から審判までさらに4週間身体拘束を受けることになります。観護措置が決定してしまうと、長期に渡る身体拘束を受けることとなり、お子様の学校や会社への影響は避けられません。
少年事件の流れ
逮捕された場合の流れは、以下のようになります。
①警察による捜査、検察への身柄送致
②検察の勾留、勾留に代わる観護措置決定(例外的)
③家庭裁判所送致・観護措置の審判
④審判
逮捕された場合
①逮捕から身柄送致
逮捕や勾留の手続きは、少年事件と一般の刑事事件で概ね違いはありません。
少年が逮捕された場合は最大で72時間、警察署の留置施設などで身体を拘束されます。逮捕された後は、事件の記録が警察から検察官に送られます。
②勾留と勾留に代わる観護措置
勾留期間は検察官が少年の勾留を延長、継続する必要があると判断した場合、裁判官に勾留の請求をします。裁判官が、勾留の決定した場合は最大で10日間身体拘束が継続されます。検察官が裁判官に勾留延長の請求をし、裁判官が勾留の延長を決定すると、さらに最大で10日間は身体拘束が継続されます。
もっとも、少年事件の場合「やむを得ない場合」でなければ勾留をすることができないと定められています(少年法48条1項、同法43条3項)。すなわち、少年法上においては、勾留は例外的な取扱いであり、場合によっては、勾留に代わる観護措置(勾留中に少年鑑別所等に身柄を送致してもらうこと)をお願いすることもできます。この場合は、少年鑑別所は、少年の健全な育成のための支援を含む観護処遇を行うので、警察の留置所で勾留されているよりも良い環境で時を過ごせます(裁判所の運用上、勾留に代わる観護措置が認められることは多くはありません。なお、勾留に代わる観護措置には延長がありません。)。
長期間にわたって身柄を拘束されると、少年の学業(停学、退学)等に支障が出ますので、いかに逃亡のおそれがないか、長期拘束されると如何に少年の健全な育成に支障が出るか等につき証拠をもって裁判所に示して、勾留されないようにすることが、早期の身柄解放には肝要となります。
また、共犯事件(複数犯)の場合、接見禁止処分(弁護士以外の者は面会を禁ずること)を付されることがありますが、少年事件の場合、通常、両親とは面会できる場合が多いです。もっとも、まれに両親との面会にも接見禁止処分が及ぶ場合がありますので、その場合の付添人活動としては、接見禁止の一部解除(両親には面会できるようにする手続)を申し立てることが考えられます。
③家庭裁判所送致・観護措置の審判
20歳以上の成人の刑事事件においては、警察から検察官へ事件が送致され、検察官が最終的に起訴不起訴を判断します。不起訴処分となった場合は、事件はそれで終了します。
しかし、少年事件の場合には、検察官が直ちに起訴不起訴の判断をするのではなく、すべて家庭裁判所へ送られます。これを、全件送致主義といいます。これは、少年に対しては、刑罰よりも保護(少年の健全な育成を目指す処分)を行うことが少年法の目的(少年法1条)であるからです。
〇 観護措置
家庭裁判所の送致された日に、観護措置がとられるかどうかが判断されます。鑑別所での収容期間は2週間ですが、多くの場合は継続の必要があると判断され、4週間の収容となります。また、事件が、死刑や懲役刑にあたる重大事件であればさらに2回更新される場合があり、その際は最大で8週間収容されます。仮に、観護措置をとらない判断がなされた場合は、その日に身柄が解放されます。
なお、「鑑別」とは、医学、心理学、教育学、社会学などの専門的知識や技術に基づき、鑑別対象者について、その非行等に影響を及ぼした資質上及び環境上問題となる事情を明らかにした上、その事情の改善に寄与するため、適切な指針を示すことです。
観護措置が決定されると少年は長期間鑑別所にいることになりますので、社会生活上、更なる支障が出る可能性が高いです。そこで、家庭裁判所送致当日に、裁判所は、観護措置をするか否かを決定するための審問を行うので、付添人(家庭裁判所に送致された後は、「弁護人」から「付添人」という名称に変わります。)としては、事前に裁判所に対し意見書を提出し、裁判官と面談して観護措置をとらないような働きかけをすることが考えられます。
事件が家庭裁判所に送られてから少年審判(成人事件における刑事裁判に当たります。)までは、より良い処分をもらう、または審判を開かないよう求める弁護活動を進めていきます。鑑別所では、鑑別技官により今までの生い立ちや非行事実を行ったときの心理状態等を事細かに聞かれます。鑑別技官による意見(鑑別結果通知書)がその後の処分の大きな影響を与えますので、どのような回答をするか、しっかり準備をする必要があります。その間、家庭裁判所の調査官による面談も行われます(観護措置が取られなかった場合でも、調査官による調査が行われます。)。家庭裁判所の調査官が作成する調査票は審判の重要な判断材料となります。
仮に、審判が開始されなかった場合(不開始)は、事件自体が終了します。
④少年審判
家庭裁判所による審判開始決定があれば、少年審判という手続きによって少年の処分を決定します。観護措置がとられている事件であれば、家庭裁判所送致から通常4週間以内、観護措置がとられていない事件であれば、審判までの期間は、特に定めはありません。
少年審判は、裁判官が主導して話を進めていき(成人の裁判では、弁護人と検察官主導で進んでいくので、対照的です。)、その間、①非行事実の審理、②要保護性の審理がされ、最終的に処分が決定されます。
非行事実に争いがない場合、通常は1回で処分がくだることが多いです。審判期日は、大抵、1時間以内で終了します。
・非行事実の審理
少年が実際に行った事実に争いがないか確認するための審理です。
非行事実に争いがある場合は、成人の刑事事件と同様、証人尋問が行われることがあります。
・要保護性の審理
「要保護性」とは、少年による再非行の危険性があり、少年に対しふさわしい保護処分(「保護処分」については後ほど、ご説明します。)を行うことにより再非行の防止をする必要のことをいいます。
「要保護性」は、ⅰ少年の性格、環境等から判断して、再び非行をする危険性があるか、ⅱ保護処分により矯正教育を施すことで再び非行をする危険性を取り除くことができるか、ⅲ保護処分による保護が少年の健全な育成にとって最もふさわしいかの3要素で判断されることが多いです。
仮に、少年が非行事実を認めていた場合は、本人の反省(特に、具体的に誰にどのような迷惑をかけて、その点についてどのように反省しているか、今後どのようにして償うつもりであるかということを様々な角度から確認されることが多いです。)、本人のための更生の環境が整備されているか、両親の今後の監督の意向はあるか等で判断されます。
要保護性の審理では、裁判官は、ご両親に事件前の監督状況、今後の監督体制等について質問をします。弁護士はご両親と共に回答の綿密な準備をしていきます。
〇少年審判の種類
少年審判の処分については、軽い順から、①不処分(処分をしない)、②保護観察、③少年院送致があります。②、③を合わせて、保護処分といいます。
①「不処分」は、文字通り、今回限り処分をしないという判断です。
少年に前歴や非行歴がなく、事案が軽微で、相手方と示談ができ、かつ本人も反省が十分といった事案では、要保護性は解消され、不処分という判断がされることがあります。
②「保護観察」は、一定期間、保護観察官及び保護司の監督(通常は月1回程度の面談)を受けるという処分です。保護観察官や保護司の指導・監督を受けながら社会内で更生できると判断された場合に、付される処分です。施設に収容されることなく、社会で生活しながら、保護観察官や保護司と月に数回の面会を行い、生活や交友関係などについて指導を受けていきます。
③「少年院送致」は、再非行のおそれが強く、社会内での更生が難しいと判断された場合に付される処分です。少年院では、再び非行に走ることのないように、少年に反省を深めさせるとともに、社会に復帰した後規律ある生活を送ることができるように、生活習慣、教科教育、職業指導をするなど、矯正指導を行います。
少年院の収容期間は、審判時に処遇期間に勧告がない場合、平均的には約1年と言われております。
勧告がある場合の目途としては、以下のとおりです。
ⅰ 特修短期処遇:4ヶ月以内で仮退院を目指す処遇
ⅱ 一般短期処遇:6ヶ月以内程度での仮退院を処遇
ⅲ 長期処遇:原則2年以内の処遇
当然、付添人としては、少しでも軽い処分を目指すこととなります。そのために、裁判官や調査官に面談をして、少年の良いところを知ってもらったり、更生のための環境が整備できていることを知らせたりします。
なお、少年審判では、「試験観察」といって、一時的に最終処分をくださず、少年に職務経験やボランティア等を経験してもらい、その様子を見て、最終判断をするという中間的な処分がなされることもあります。
弁護士に依頼するメリット
お子様が逮捕されたからといって、必ずしも長期の身体拘束が決定したというわけではありません。弁護士は専門的知識や経験をもとに弁護活動を行い、少しでも早く社会生活へ復帰できるよう尽力します。
逮捕直後の接見で今後の見通しを立てることができる
弁護士は逮捕されている少年と、時間等の制限なく接見をすることができます。特に、逮捕直後は弁護士以外の接見は認められていないため、詳しい状況を把握するためには、弁護士に接見を依頼することが必要です。
当事務所では、基本的に弁護士は依頼を受けたその日のうちに接見へ向かい、少年の現在置かれている状況の確認や、取調べへのアドバイスなどを行います。
取調べのアドバイスをすることができる
取調べでは、警察や検察は被疑者に事件に関する供述を求め、被疑者の話した内容を調書にまとめます。この調書は、捜査において重要性の高い証拠となります。少年は、成人に比べ法的知識が少ない事などから、取調べ時に取調官に迎合しやすい傾向があります。もっとも、一旦、作成した調書の内容を覆すのは、簡単ではありません。そのため、成人の場合と比較して、より一層弁護士と取調べへの対応について慎重に話し合い、適切な対応をしていく必要があります。
また、脅迫や誘導などの手段による不当な取調べが行われた場合には、弁護士が警察や検察、裁判所に抗議をすることもできます。
早期の身柄解放を目指すことができる
早期の身柄解放ができる可能性が高いのは、事件が家庭裁判所に送致され観護措置決定がなされるまでです。この段階では、弁護士は意見書の提出や面談などを行い、検察官や裁判官に勾留の必要性がないことの説明や、身柄解放の交渉を行います。
裁判官、調査官、鑑別技官へ少年に有利な証拠を示すことができる
弁護士は、より良い処分獲得のため、裁判官、調査官、鑑別技官に面談をしたり、少年に有利な事情を示す意見書を提出したりします。
最終処分を決める審判では、家庭裁判所調査官の作成した調査票が重要な判断材料とされます。弁護士は調査官と連絡を取り合い、調査票の内容が少年にとって不利なものにならないよう働きかけます。
被害者との示談交渉ができる
少年が、被害者に対し怪我や損害を与えてしまった事件の場合、相手方と示談が成立すれば、少年が被害者と起こした罪に対して十分に向き合う環境ができているということを示すことができ、最終処分が軽くなる可能性が高まります。
しかし、被害者は少年本人やその家族に会いたがらないときが多く、また少年の身柄が拘束されていれば被害者と会うことが物理的にできませんので、通常は、弁護士が間に入って交渉することになります。弁護士が、被害者の立場にも理解・共感を示しつつ、丁寧な事情説明等により被害者のストレスを軽減し、結果として示談が成立する可能性が高まります。
少年の置かれている環境を整備することができる
①ご家庭とのお話合い
仮に非行事実を認める場合、何が問題であったのか、今後どうすれば、非行を起こさないかをご家族と弁護士が一緒に考えていくこととなります。
②学校への対策
逮捕された学生を退学処分にするかどうかは、学校側の裁量によります。
基本的に警察から学校へ逮捕の連絡が行くことはありませんが、少年事件では少年の置かれている環境について調査が行われるため、調査の連絡が入り逮捕の事実が明らかになる場合もあります。
そのような場合においても、弁護士が事情を話し、できるだけ穏便な対応をお願いする、学校に事件を知られることが無いように捜査機関などに交渉するといった活動も行うことができます。
国選付添人と私選付添人の違い
国選付添人と私選付添人とではできる業務自体には変わりがありません。
もっとも、両者には、以下の違いがあります。
① 自ら選任できるか
国選付添人は国選付添人名簿に登録している弁護士からランダムに選任されますが、私選付添人は自らが選任できます。
私選付添人であれば、自らと相性が良さそうだな、信頼できそうだなと思う弁護士を選任することができます。
② すべての少年審判事件に国選付添人が選任されるわけではない
成人で起訴された場合に弁護人がいない場合は、原則、国が国選弁護人を付することとなります。
少年審判においても、国選付添人が付される範囲が拡大しましたが、少年事件のすべてで付添人が付されるわけではありません。そのため、少年の更生にとってふさわしい処分を家庭裁判所に出してもらうことをお考えなら、事件が家庭裁判所に送られた段階(捜査段階であればなお弁護士の活動範囲が広がります)で、弁護士を付添人として選任することをお勧めします。
●解決事例●
~逮捕直後のご依頼により、早期の身柄解放及び不処分を得た事例
=結果として大学を退学はおろか休学せずに復帰できた事例~
【事案】
依頼者の大学1年生(未成年)Aさんを含む複数名グループがサークルの新人歓迎コンパで飲酒しすぎ、店退出後に、外で出会った3名のグループと喧嘩になり、一方的に相手方複数名に重症(歯が複数本折れる、顔面挫傷等)を負わせてしまったという事案です。
【解決方法】
◇身柄の釈放について
逮捕直後にAさんのお父様からご依頼いただいたことから、極めてスムーズに動くことができました。
お父様が立場ある方であったので、詳細な記載をした嘆願書兼身柄引受書をいただきました。また、Aさんの通っている大学のシラバスを調べると、必修の授業を2回以上欠席すると、大学2年次以降希望する学科に進めなくなる可能性が高いことが判明いたしましたので、弁護人は、その点についての資料を丁寧に作成し、勾留をするしないを判断する裁判官に対し意見書や本人の反省文とともに提出し、面談しました。そこにおいては、今後の監督態勢は十分であること、長期の勾留が如何にAさんの今後の生育にあたり悪影響を与えるか(希望の学科に進めなければ、その大学に入学した意味も半減してしまうことなど)につき熱心に説明をいたしました。
その結果、裁判官からは勾留請求却下(勾留しない)という判断をいただき、Aさんは逮捕から2日で釈放され、無事に学業に復帰することができました。弁護人が釈放されるAさんを警察で出迎えたときに涙を浮かべながら、「ありがとうございました。」と感謝の言葉をいただいたことは、弁護人冥利に尽きました。
◇処分について
Aさんの身柄が釈放されても、当然ながら、事件自体は続きます。
その後、一緒に暴力を振るってしまった学生と共同で、被害者の方々3名と示談を成立させました。相手方も弁護士を付けましたので、示談交渉は若干難航いたしましたが、丁寧にAさんの立場(当日の経緯、その後の反省の状況等)を説明した結果、被害者の方々3名全員との間で示談が成立いたしました。
事件が家庭裁判所に移っても、当初提出したものよりもさらに内省を深めた少年の反省文等を家庭裁判所に提出をし、付添人(事件が家庭裁判所に移ると「弁護人」は「付添人」として活動します。)が調査官や裁判官とも面談し、少年本人の反省ぶり、家庭の監督状況や示談状況をお伝えしました。
その結果、家庭裁判所の裁判においては、不処分(今回の事件については処分しない)という望外の結果を得ることができました。本件は少年、少年のご両親、弁護人・付添人が密な連携をとり固い信頼関係に結ばれていたからこそ得られた結果だと思い、大変、嬉しく思います。