少年事件①(観護措置まで)

少年事件①(観護措置まで)

▶ 少年事件とは

刑法は,14歳以上の者に対する処罰を規定しています(「14歳に満たない者の行為は,罰しない。」(刑法41条))。
そして,少年法は,20歳未満の者に対して,刑法に加えて特別な規定を置いています。少年法では,20歳未満の者を少年と呼称しているため,少年が犯した事件については,少年事件や少年犯罪といわれています。

▶ 逮捕されてから(身柄の解放について)

逮捕や勾留の手続きは,少年事件と一般の刑事事件で概ね違いはありません。
少年が逮捕された場合は最大で72時間,警察署の留置施設などで身体を拘束されます。逮捕された後は,事件の記録が警察から検察官に送られます。

勾留期間は検察官が少年の勾留を延長,継続する必要があると判断した場合,裁判官に勾留の請求をします。裁判官が,勾留の決定した場合は最大で10日間身体拘束が継続されます。検察官が裁判官に勾留延長の請求をし,裁判官が勾留の延長を決定すると,さらに最大で10日間は身体拘束が継続されます。
もっとも,少年事件の場合「やむを得ない場合」でなければ勾留をすることができないと定められています(少年法48条1項,同法43条3項)。すなわち,少年法上においては,勾留は例外的な取扱いであり,場合によっては,勾留に代わる観護措置(勾留中に少年鑑別所等に身柄を送致してもらうこと)をお願いすることもできます。この場合は,少年鑑別所は,少年の健全な育成のための支援を含む観護処遇を行うので,警察の留置所で勾留されているよりも良い環境で時を過ごせます(裁判所の運用上,勾留に代わる観護措置が認められることは多くはありません)。

長期間にわたって身柄を拘束されると,少年の学業(停学,退学)等に支障が出ますので,いかに逃亡のおそれがないか,長期拘束されると如何に少年の健全な育成に支障が出るか等につき証拠をもって裁判所に示して,勾留されないようにすることが,早期の身柄解放には肝要となります。
また,共犯事件(複数犯)の場合,接見禁止処分(弁護士以外の者は面会を禁ずること)を付されることがありますが,少年事件の場合,通常,両親とは面会できる場合が多いです。もっとも,まれに両親との面会にも接見禁止処分が及ぶ場合がありますので,その場合は,接見禁止の一部解除(両親には面会できるようにする手続)を申し立てることが考えられます。

▶ 家庭裁判所送致(全件送致主義)

20歳以上の成人の刑事事件においては,警察から検察官へ事件が送致され,検察官が最終的に起訴不起訴を判断します。不起訴処分となった場合は,事件はそれで終了します。
しかし,少年事件の場合には,検察官が直ちに起訴不起訴の判断をするのではなく,すべて家庭裁判所へ送られます。これを,全件送致主義といいます。これは,少年に対しては,刑罰よりも保護(少年の健全な育成を目指す処分)を行うことが少年法の目的(少年法1条)であるからです。

▶ 観護措置について

また,家庭裁判所の送致された日に,観護措置がとられるかどうかが判断されます。観護措置が取られると最大4週間,少年の鑑別のために少年鑑別所にいることとなります。なお,「鑑別」とは,医学,心理学,教育学,社会学などの専門的知識や技術に基づき,鑑別対象者について,その非行等に影響を及ぼした資質上及び環境上問題となる事情を明らかにした上,その事情の改善に寄与するため,適切な指針を示すことです。
いずれにしろ,観護措置が決定されると少年は長期間鑑別所にいることになりますので,社会生活上,更なる支障が出る可能性が高いです。そこで,家庭裁判所送致当日に,裁判所は,観護措置をするか否かを決定するための審問を行うので,付添人(家庭裁判所に送致された後は,「弁護人」から「付添人」という名称に変わります。)としては,事前に裁判所に対し意見書を提出し,裁判官と面談して観護措置をとらないような働きかけをすることが考えられます。仮に,観護措置をとらない判断がなされた場合は,その日に身柄が解放されます。

鑑別所では,鑑別技官により今までの生い立ちや非行事実を行ったときの心理状態等を事細かに聞かれます。鑑別技官による意見(鑑別結果通知書)がその後の処分の大きな影響を与えますので,どのような回答をするか,しっかり準備をする必要があります。その間,家庭裁判所の調査官による面談も行われます(観護措置が取られなかった場合でも,調査官による調査が行われます。)。家庭裁判所の調査官が作成する調査票は審判に向けた大きな手掛かりとなります。

少年事件②(家裁送致から審判まで)

▶ 家庭裁判所送致から少年審判まで

事件が家庭裁判所に送られてから少年審判(成人事件における刑事裁判に当たります。)までは,より良い処分をもらうための準備の期間となります。
既に述べた調査官の調査などに対する準備の他,そもそも審判を始めさせないように働きかけることが考えられます。すなわち,事件の送致を受けた家庭裁判所は,まず,審判をするか否かを判断するので,付添人としては審判が開始されないように裁判所に意見書を提出することなどが考えられます。
仮に,審判が開始されなかった場合は,事件自体が終了します。

▶ 逆走事件について(例外)

家庭裁判所は,少年が死刑,懲役又は禁錮に当たる罪の事件について刑事処分が相当だと認めた場合,事件を検察官へ送致します(いわゆる「逆走事件」。検察庁から家庭裁判所に事件を送致する通常の流れとは逆になるので「逆走」といいます。)。故意の犯罪行為により被害者を死亡させた事件で,事件時に満16歳以上の少年も,原則として検察官に送致しなければなりません。家庭裁判所から事件送致を受けた検察官は,一部の例外を除き,起訴しなければならなりません。

▶ 少年審判の流れ

家庭裁判所による審判開始決定があれば,少年審判という手続きによって少年の処分を決定します。観護措置がとられている事件であれば,家庭裁判所送致から通常4週間以内,観護措置がとられていない事件であれば,審判までの期間は,特に定めはございません。

少年審判は,裁判官が主導して話を進めていき(成人の裁判では,弁護人と検察官主導で進んでいくので,対照的です。),その間,①非行事実の審理,②要保護性の審理がされ,最終的に処分が決定されます。

非行事実に争いがない場合,通常は1回で処分がくだることが多いです。審判期日は,大抵,1時間以内で終了します。

①非行事実の審理

少年が実際に行った事実に争いがないか確認するための審理です。
非行事実に争いがある場合は,成人の刑事事件と同様,証人尋問が行われることがあります。

②要保護性の審理

「要保護性」とは,少年による再非行の危険性があり,少年に対しふさわしい保護処分(「保護処分」については後ほど,ご説明します。)を行うことにより再非行の防止をする必要性のことをいいます。

「要保護性」は,ⅰ少年の性格,環境等から判断して,再び非行をする危険性があるか,ⅱ保護処分により矯正教育を施すことで再び非行をする危険性を取り除くことができるか,ⅲ保護処分による保護が少年の健全な育成にとって最もふさわしいかの3要素で判断されることが多いです。

仮に,少年が非行事実を認めていた場合は,本人の反省(特に,具体的に誰にどのような迷惑をかけて,その点についてどのように反省しているか,今後どのようにして償うつもりであるかということを様々な角度から確認されることが多いです。),本人のための更生の環境が整備されているか,両親の今後の監督の意向はあるか等で判断されます。
要保護性の審理では,裁判官は,ご両親にも質問します。事件前の監督状況,今後の監督体制等聞かれることが多いので,綿密な準備が必要です。

少年事件③(少年審判の種類と弁護士の役割)

▶ 少年審判の種類

少年審判の処分については,軽い順から,①不処分(処分をしない),②保護観察,③少年院送致があります。②,③を合わせて,保護処分といいます。

①「不処分」は,文字通り,今回限り処分をしないという判断です。
少年に前歴や非行歴がなく,事案が軽微で,相手方と示談ができ,かつ本人も反省が十分といった事案では,要保護性は解消され,不処分という判断がされることがあります。

②「保護観察」は,一定期間,保護観察官及び保護司の監督(通常は月1回程度の面談)を受けるという処分です。もっとも,身柄が拘束されるわけではないので,日常生活は支障なく送れます。

③「少年院送致」は,一定期間,少年院に送致するという判断です。少年院には,主として3種類あります。

【第1種少年院】

保護処分の執行を受ける者であって,心身に著しい障害がないおおむね12歳以上23歳未満のもの(第2種少年院対象者を除く。)を対象とします。

【第2種少年院】

保護処分の執行を受ける者であって,心身に著しい障害がない犯罪的傾向が進んだおおむね16歳以上23歳未満のものを対象とします。

【第3種少年院】

保護処分の執行を受ける者であって,心身に著しい障害があるおおむね12歳以上26歳未満のものを対象とします。

少年院の収容期間は,審判時に処遇期間に勧告がない場合,平均的には約1年と言われております。
勧告がある場合の目途としては,以下のとおりです。

ⅰ 特修短期処遇:4ヶ月以内で仮退院を目指す処遇
ⅱ 一般短期処遇:6ヶ月以内程度での仮退院を処遇
ⅲ 長期処遇:原則2年以内の処遇

当然,付添人としては,少しでも軽い処分を目指すこととなります。そのために,裁判官や調査官に面談をして,少年の良いところを知ってもらったり,更生のための環境が整備できていることを知らせたりします。
なお,少年審判では,「試験観察」といって,一時的に最終処分をくださず,少年に職務経験やボランティア等を経験してもらい,その様子を見て,最終判断をするという中間的な処分がなされることもあります。

▶ 少年事件における弁護士の役割

少年事件において,弁護士に依頼する意義は大きく分けて3つあると考えられます。それは,1早期の身柄解放,2より良い処分の獲得,3環境整備です。

1 早期の身柄解放

①勾留請求時

既に述べたとおり,勾留をされないため,検察官や裁判所と交渉します。

②家庭裁判所送致時

既に述べたとおり,観護措置を取られない様,裁判所と交渉します。

2 より良い処分の獲得

①取調べ対応

少年事件とは言え,逮捕及び勾留の手続きは刑事事件そのものですから弁護人を選任することができます。
少年は,成人に比べ法的知識が少ない事などから,取調べ時に取調官に迎合しやすい傾向があります。もっとも,一旦,作成した調書の内容を覆すのは,簡単ではありません。
そのため,成人の場合と比較して,より一層弁護士と取調べへの対応について慎重に話し合い,適切な対応をしていく必要があります。

②裁判官,調査官,鑑別技官への対応

より良い処分獲得のため,少年に有利な事情を示すため,裁判官,調査官,鑑別技官に面談をしたり,意見書を提出したりします。

③被害者対応

少年が,被害者に対し怪我や損害を与えてしまった事件の場合,相手方と示談が成立すれば,最終処分が軽くなる可能性が高いです。
しかし,被害者は少年本人やその家族に会いたがらないときが多く,また少年の身柄が拘束されていれば被害者と会うことが物理的にできませんので,通常は,弁護士が間に入って交渉することになります。

3 環境整備

①ご家庭とのお話合い

仮に非行事実を認める場合,何が問題であったのか,今後どうすれば,非行を起こさないかをご家族と付添人が一緒に考えていくこととなります。

②社会(学校)への対策

捜査機関から会社や学校に連絡がいってしまっている場合は,弁護士が事情を話し,できるだけ穏便な対応をお願いすることが考えられます。

▶ さいごに

少年事件を含めた刑事事件は,スピードやタイミングが非常に重要です。
ご相談だけでも結構ですので,ご家族がお早めにご対応することこそが,より良い結果をもたらす第一歩です。

執筆者

ヴィクトワール法律事務所

刑事事件について高い専門性とノウハウを有した6名の弁護士が在籍する法律事務所です。

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