嘘を言って、持続化給付金をもらうと逮捕される!?

持続化給付金とは

中小企業庁が所管する持続化給付金制度は、新型コロナウィルスの感染拡大により、休業を余儀なくされるなどして、売上が前年同月比50パーセント以上減少した事業者に対し、事業全般に広く使うために支給される給付金です。中堅・中小企業・小規模事業者の方には上限200万円が、フリーランスを含む個人事業主の方には上限100万円が支給されます。
緊急性を重視し、簡易迅速な事前審査が行われたこともあり、支給後の審査で多くの不正受給が確認されました。不正受給が確認された場合には、遅延損害金を請求されたり、悪質な場合には詐欺容疑で逮捕されたりする可能性があります。
持続化給付金制度は、新型コロナウィルスの影響により、営業が立ち行かなくなった多くの自営業者に対する救済措置です。逮捕者が続出している背景には、国が不正受給者の根絶のために、不正受給者は法律上罰せられることを示す目的があると思われます。

事例で解説!

嘘を言って持続化給付金を受給したAさん、申請をしたBさんに詐欺罪は成立する?

Aさん
「私は会社員なのですが、コロナの流行で在宅勤務が増えた結果、残業代も減り、給料が下がってしまったんです。そんなとき、知り合いのBから、『持続化給付金を申請しない?申請の手続きを代わりにやってあげるから名前を貸してよ。もし、給付金が100万円振り込まれたら、20万円ちょうだい。80万円手元に残るんだから超ラッキーだよね。』と、話を持ち掛けられて…。給料が下がってしまい、月々のクレジット払いも苦しかったので、『まぁやってみるか!』と安易な気持ちで、Bさんに名前を貸してしまったんです。」

弁護士 「そうだったのですね…」

Aさん
「令和2年の5月に、事業をやっているという形で名前を貸して申請して、同じ年の6月に給付金100万円が私の口座に振り込まれたんです。Bさんに、報酬として20万円を振り込みました。こんなに簡単に大金が入ってくるなんて夢にも思いませんでした。でも、持続化給付金詐欺で逮捕された人のニュースを見て、急に怖くなってしまって…先生、私も逮捕されてしまいますか?」

弁護士
 「Bさんの行為は、詐欺罪(刑法第246条1項)に該当します。そして、残念ながら、AさんはBさんの共犯として、やはり詐欺罪に該当します。Aさんに、定まった住所や職場があって逃亡のおそれがない、さらには証拠隠滅のおそれがないなどと判断されないと、Bさんとの関係次第では逮捕される可能性はあります。」

Aさん
「えーっ!やっぱりそうなんだ…。でも先生、私はBさんから誘われなかったら、こんなことしませんでしたよ。Bさんは私がたこ焼き屋を経営していることにして、架空の確定申告書や売上台帳、そして持続化給付金申請書を作りました。実際に申請行為をしたのもすべてBさんでした。私は何もしていません。それなのに、私にも詐欺罪が成立して、逮捕されるおそれもあるなんて、あんまりですよ…。」

持続化給付金詐欺

持続化給付金給付規程によると、不正受給については「不正の内容により申請者を告発する」と定められています。
詐欺罪は、「人を欺いて錯誤に陥れ、その錯誤に基づいて財物を交付させる犯罪行為」を指します。この「人を欺く行為」を欺罔行為と言います。給付の対象となる事業者ではないのに給付金を受け取ろうと、申請の際に提出する書類の情報、収入などを偽造する行為は欺罔行為に当たります。欺罔行為の例としては、事業の実体がない、賃料を通常よりも高く偽る、コロナの影響によらない売上の減少であることを認識しつつ申請するといった場合などが挙げられます。
つまり、持続化給付金を不正受給した場合、給付金という財物を書類の偽造という欺罔行為によって交付させたとして詐欺罪で告発される可能性があると言えます。

 今回の事例に当てはめると、Aさんは会社員で、通常、就業規則で副業が禁止されていることが多いので、支給対象者に該当しません。にもかかわらず、Bさんは、Aさんがたこ焼き屋を営む個人事業者であるとして、令和2年の売上が令和元年の売上より50パーセント以上減少したとする虚偽の売上台帳や確定申告書を作成し、持続化給付金の申請をしています。そして、Bさんの申請を真実と誤信した国の担当者は、Aさんに100万円の持続化給付金を振り込んでしまいました。
 BさんはAさんが持続化給付金を詐取するにあたり、重要な役割を果たしたといえるので、詐欺罪が成立します。
 そしてAさんは、仮に名前を貸しただけであっても、Bさんが「虚偽の事実を元に、架空の関係書類を作成・提出するなどして、持続化給付金を申請すること」を知っていたので、Bさんの一連の行為を利用して、持続化給付金という利益を得たといえますので、詐欺罪の共犯となります。

嘘を言って持続化給付金を受給したAさん、申請をしたBさんは逮捕されてしまう?

Aさん
 「確かに私も悪いですね…。先生、私はどうしたら良いのでしょうか。このまま怯えながら、警察に逮捕される日を待つしかないのでしょうか。」

弁護士
 「捜査機関がAさんやBさんの行為にまだ気づいていないならば、Aさんから警察に自首しても良いかもしれません。また、中小企業庁では誤って持続化給付金の給付を受けた場合の返還に関する窓口を設けています。Aさんには持続化給付金を受領する資格がないことは明らかですから、給付金の返還を進めることも必要だと思います。自首と返還を並行して行うのも良いかもしれません。
なお、返還する金額ですが、受領した給付金全額はもちろんですが、ここに利息や違約金が付くので注意が必要です。1年で3パーセントの利息がつきます。Aさんの場合、受給から既に2年経過していますので、1年で3万円ずつ、合計6万円の利息が発生しています。受給額と合計した106万円をベースに違約金が20パーセント発生しますので、総額127万2000円を返還する必要があります。」

Aさん
 「えーっ!そんなに上乗せして返還する必要があるんですね…。でも、早く返さないと利息や違約金額が増えてしまいますよね…急いだ方が良いですね。」
 「もし、自首したら、私は最終的にどのような罪になるのでしょうか。」

弁護士
 「詐欺罪には、罰金刑がありません。ですので、起訴された場合は必ず公判廷で行う正式裁判を受けなければならなくなります。そこで、弁護士を早期に依頼して、不起訴処分にしてもらえないか、検察官に働きかける必要があります。不起訴処分を勝ち取ることはなかなか困難な作業ですが、実際に不起訴処分で終わったケースもありますし、最初から諦めることなく、できる限りの捜査弁護活動を行った方が良いと思います。
捜査弁護活動を精一杯尽くしても、起訴されてしまった場合ですが、次の判例をご紹介します。」

【事案の概要】
*令和3年6月30日 広島地方裁判所・判決 懲役2年10月・執行猶予5年

共犯者2名から申請名義人になるよう声をかけられ、持続化給付金を不正受給し、その一部を取り分として得た後、自らも勧誘役となって別6名に申請を勧誘し、他の共犯者らが虚偽の確定申告書等を作成、実際の申請手続を代行したことにより、合計700万円の持続化給付金を不正受給した。
【主な判決理由】
・ 多数の虚偽申請を繰り返した職業的犯行と評価でき、被害額も多額。
・ 1人当たり17万円を手数料として受け取っており、本件各犯行にとって重要かつ不可欠な役割を果たしているといえるが、上位の共犯者らと比較すると、やや従属的な立場である。
・ 被告人は、自己名義の申請によって受領した給付金については延滞金等を含めて全額弁償し、他の申請名義人6名も、それぞれ受領した分の全額を返金。財産的被害が全て回復している。
・ 被告人は、申請名義人ら6名に対して、1人当たり35万円を支払い、自らの返金分と併せ、被告人自身で合計310万円の被害弁償に努めた。

  
【事案の概要】
*令和3年2月24日 那覇地方裁判所・判決 懲役1年4月・執行猶予4年

自称コンサルタント業者の勧めもあり、被告人は、自己が小売業を営む個人事業主であると偽って、内容虚偽の事業内容・事業収入等を記載した上で、持続化給付金を申請し、100万円の持続化給付金を得た。
【主な判決理由】
・ コンサルタントによる勧誘が契機とはいえ、知人らにも不正申請の勧誘をしていたことなどの犯行態様・経緯にも照らすと、被告人自身の給付金詐取行為に対する規範意識が鈍麻しているといえる。
・ 投資等により約8000万円の借金があり、その返済金を得る必要があったという動機にも酌むべき点はない。
・ 親族の助けを得て、詐取した金銭を全額返還した。
・ 法律上の自首は成立しないにせよ自ら警察に出頭して本件犯行を自白した。

Aさん
 「いつ逮捕されるかビクビクしながら暮らすのは嫌なので、自首や持続化給付金の返還なども積極的に進めていきたいと思います。先生、私の弁護人になってくれますか?」

弁護士
 「もちろんです。まずは不起訴処分が得られることを最優先目標に、一緒に頑張りましょう。」

逮捕を防ぐために弁護士のできること

持続化給付金の不正受給は社会的注目度の高い事件と言えます。知人から勧められるなどして、罪の意識のないまま犯罪に加担してしまった方もいるのではないでしょうか。逮捕された場合には、長期にわたる勾留や、家宅捜索、実名報道、起訴され前科がついてしまうなどさまざまな不利益が予想されます。そのような状況になれば、将来の社会生活に大きな影響を与えることは避けられません。
自首をしているか、給付金を返還しているかなど被疑者それぞれの状況によって、警察や検察の判断も異なってきます。逮捕や、長期の勾留、前科がつくことを防ぐためには、早期に弁護士に相談することが重要です。弁護士は警察や検察へ書面や面談を通じた働きかけやなど被疑者やその家族のために動くことができます。専門の知識を持った弁護士は、被疑者とその家族に寄り添い、勾留や起訴、実刑判決を回避するために尽力します。
不正受給をしてしまった方、ご家族が逮捕されてしまった方のご相談をお待ちしております。

解決事例

持続化給付金詐欺で逮捕され不起訴処分となったケース

持続化給付金詐欺で起訴され求刑よりも軽い刑を獲得できたケース

1 事案の概要

  会社員であるAさんが自営業をしていると見せかけて、架空の売上帳簿や確定申告書等を作成し、これを添付して、持続化給付金を申請し、実際に100万円の持続化給付金を受給したという事件が発覚しました。
インターネットを通じて持続化給付金申請を行ったBさんが、全く関係ない事件で逮捕されたことをきっかけに、この事件が明らかとなり、架空の売上帳簿や確定申告書等を作成する役割を担った山下さん(仮名)も、詐欺罪の被疑者として逮捕されてしまいました。

2 弁護活動の経過・結果

  この事件では、以下のような経緯を辿り、執行猶予付き判決と一部不起訴処分という結果となりました。
⑴ 接見禁止の一部解除
  山下さんは、逮捕直後からご自身が詐欺事件に関与してしまったことを認め、積極的に事件について供述するなど、捜査に協力されました。しかし、裁判所は検察官による「接見禁止」請求を認めてしまったため、山下さんは弁護人以外の人と面会することや、手紙のやりとりをすることができなくなってしまいました。
一般的に共犯者がいる事件では、接見禁止がつくことが多いです。それは、「家族との面会を認めれば、家族を通じて、共犯者らに対し、口裏合わせの連絡をするのではないか。」と危惧感を抱かれてしまうことが原因です。
山下さんには妻と幼いお子さんがいました。子どもたちは父親がいつ帰宅するか不安が尽きず、精神が不安定になってしまいました。また、山下さんの逮捕によって収入が途絶えてしまい、一家全体がパニックに陥ってしまいました。
そこで、当事務所の弁護士は、これら家族の事情をこと細やかに記載した意見書を作成し、山下さんと奥さんそれぞれから、「面会の場では家族の話しかしない。」ことの誓約書をいただき、裁判所に対して、『準抗告』を行いました。結果、奥さんとの面会に限り、認められました。
奥さんはすぐに山下さんと面会し、家族の心身に関することや、生活費の相談等を行うことができました。
 ⑵ 余罪について
 ある日の接見で、山下さんから相談を受けました。警察官から、「Aさん以外の人の持続化給付金不正申請にかかわっただろ。」と言われてしまい、どのように対応すれば良いかというものでした。
 山下さんはBさんから、Aさん以外の人の持続化給付金不正申請に用いるため、虚偽の確定申告書や売上台帳を作るよう、頼まれ、これに応じていました。別の人が持続化給付金を受給した後、その都度、山下さんはBさんから報酬として20万円を受け取っていました。
 逮捕・勾留の原因となった事件(「被疑事実」といいます。)以外の別件について、捜査機関から聞かれた場合、話す必要はありません。それどころか、取調べを受けること自体、断ることもできるのです。自己に不利益となる供述はしないという『黙秘権』が保障されていますし、被疑事実の取調べのために身柄拘束を受けているのであって、別件の取調べを受けるための身柄拘束ではないからです。
 当事務所の弁護士も当初、山下さんに対してこのような説明をしました。しかし、捜査機関もそれなりの証拠があるからこそ、山下さんに別件について尋ねているのですから、ここで話さなかったら、後日、再逮捕をされて、山下さんの身柄拘束が更に20日以上伸びる危険性があります。山下さんは、一日も早く、妻子の元に戻りたいというお気持ちが強く、また、ご自身がしてしまったことを全て話して、罪に服したいとおっしゃいました。そこで、何度も話し合った結果、再逮捕による身柄拘束長期化を回避できるよう、別件についても捜査に協力することにしました。山下さんは、Bさんの依頼を受けて、CさんとDさんの架空の売上台帳等を作成し、持続化給付金の不正受給に加担してしまったことを、捜査機関に打ち明けました。
⑶ 報酬の返還
 不正受給した持続化給付金は、原則、受給した本人が国に返還しなければなりません。Aさん、Cさん、Dさんは持続化給付金を返還できますが、山下さんはできません。そこで、当事務所の弁護士がAさんらに直接連絡を取り、山下さんが受領した報酬を各人に返還し、それぞれが100万円の持続化給付金を国に返還する際に役立てていただきたい旨を伝えました。
⑷ 起訴後の保釈が認められたこと
20日間の勾留満期後、山下さんはAさんの持続化給付金不正受給について、起訴されました。
起訴の3週間後、上のお子さんの七五三が予定されていました。一生で一度の七五三を父親不在で迎えてしまっては、ますますお子さんの精神状態が悪化することが懸念されました。また、山下さんの勤務先から山下さんの業務用パソコンも押収されていたため、パソコン内データを知る山下さんが出社しないことには、滞ってしまう業務もあり、会社も山下さんの一日も早い戻りを待ちわびていました。
そこで、当事務所の弁護士は、起訴直後、これらの事情を記載し、保釈請求を行い、実際に裁判官と電話面談も行いました。結果、山下さんの保釈が認められました。
⑸ 保釈後、Cさんの持続化給付金不正受給について、追起訴を受けたこと
 山下さんの保釈が認められた2週間後、検察庁より、Cさんの件で詐欺の追起訴を行う旨、連絡がありました。山下さんは捜査機関からの出頭要請に従い、自宅から警察署へ赴き、取調べを受けました。
⑹ 2件の持続化給付金詐欺事件において、執行猶予判決を得られたこと
 被告人質問の準備や、情状証人である奥さんとの間の打ち合わせなどを綿密に行い、裁判の日を迎えました。その結果、執行猶予判決を得ることができました。
⑺ 余罪が立件されたものの、不起訴処分を得られたこと
 執行猶予判決の2カ月後、山下さんから、「Dさんを受給者とする持続化給付金の不正受給の件で取り調べたいと、警察から言われた。」と当事務所に連絡がありました。
 当事務所の弁護士はすぐに、①山下さんは前の逮捕・勾留時からDさんの持続化給付金不正受給関与を供述していたこと、②前の裁判の中でDさんの件についても審理をすることができたのに、検察官が追起訴をしなかったこと等の事情を意見書にまとめ、担当検察官に送りました。
 その後、Dさんの持続化給付金の件について、不起訴処分が決まりました。

 

執筆者

ヴィクトワール法律事務所

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