警察から夫の逮捕の連絡を受けた際,おそらくほとんどの方がどうしたらいいのかパニックになってしまうでしょう。
最初の逮捕の連絡からどのように動くかが,夫とご家族の今後を大きく左右します。現在の生活を維持するためには,早期の釈放のための弁護活動が必要です。
この記事では,「夫が逮捕された」と連絡があったときに妻がした方がよいことを紹介していきます。
目次
夫が逮捕されたとき妻がした方がよいことは?
よくある質問Q&A
Q「夫が逮捕されたと警察から連絡がありました。まったく状況がわからないのですが,どうしたらよいでしょうか?」
A「連絡があったのはどちらの警察署かおわかりになりますか。逮捕されている警察署が分かれば弁護士が接見に向かうことができます。」
〇弁護士に依頼
逮捕されてから最大72時間は,ご家族の方でも面会をすることは殆どできません。
携帯電話で連絡を取ることもできない(逮捕された方の携帯電話の電源は切られます。)ため,早いうちに状況を詳しく把握するためには,弁護士に接見を依頼することが必要です。
警察から逮捕の連絡があった場合には,心を落ち着かせて可能な限り情報を聞き取りましょう。
具体的には,「いつ,どこで,誰に,なにをしたか。どのような罪(盗撮,窃盗,痴漢など)で,いつ逮捕されて,現在,どこの警察署にいるのか(共犯事件などは,逮捕した警察署と留置される警察署が違う場合があることにご注意ください。)。」といった内容です。
このような事項がわかれば,弁護士も事案の内容を把握しやすくなり,より迅速に動くことができます。
〇衣類や現金の差入れをする
弁護士への依頼のほかに,家族ができることとして差入れがあります。接見禁止(弁護士以外面会禁止)がついたとしても,差入れは可能です。
留置場では,必要なものがすべてそろっているというわけではないため,家族が差入れをすることが役に立ちます。
衣類,メガネ,手紙を書くための便箋と封筒,本などが喜ばれます。留置場では食事(弁当)などを購入することもできるため,現金の差入れも有効です。
2妻から依頼を受けた弁護士ができることは?
〇接見で状況確認ができる
接見では弁護士が夫から事実関係を確認することで,拘束がどれくらい続くか,起訴される可能性が高いか低いか,などの見通しを立てることができます。
日本では,現行法上,弁護士が警察官の取調べに立ち会うことは認められていません。
そのため,弁護士は早期に接見することで夫から事実関係を確認し,黙秘権の行使などを検討し,取調べに対するアドバイス行います。
特に,容疑を否認しているような事件については,弁護士による迅速な初回接見が重要です。警察で不当な取調べを受け,虚偽の自白調書(犯行を認める内容の供述をした調書)に署名押印をしてしまうことがあります。
自白調書は,捜査や後の刑事裁判においても重要性の高い証拠となり,一旦,署名押印をすると,捜査機関は,なかなか訂正に応じてくれません。そのため,署名押印をする前に内容をしっかりと確認し,内容に相違がないか確認し,相違がある場合は署名押印する前に訂正を求めることが大切です。
〇早期の釈放へ向けた活動ができる
逮捕されたとしても,必ずしも長期の身体拘束が予想されるとは限りません。
勾留がなされなければ逮捕から2,3日で釈放となり,勾留が決まれば10日から20日となります。
釈放されない限り,起訴が確定した場合には期限の定めはなく,刑事裁判で懲役刑となった場合は,刑期を終えるまで拘束が続くことになります。
依頼を受けた弁護士は,警察,検察,裁判所に対し,被疑者の早期の会社復帰のために拘束を継続しないよう働きかけをしていきます。
〇身柄解放には早期の依頼が重要!
早期の身柄解放ができる可能性が高いのは,勾留決定がされる前である逮捕から2日目~3日目です。
この段階で,弁護士は意見書の提出や面談などを行い,検察官や裁判官に対して勾留する必要がないことを説明して,身柄解放の交渉を行います。
弁護士は,勾留期間を短くする活動をすることでご本人やご家族をサポートします。第一に早期の身体開放,そして次に不起訴処分・処分保留を目指し活動していきます。
このように,逮捕の連絡からすぐに弁護士に依頼をすることで,弁護士が活動できる範囲も広がり選択肢も増えます。
私選弁護人を選任する際のメリットについてはこちらのページをご覧ください。
3逮捕された夫の状況は?
逮捕された場合,検察官による最終処分(起訴・不起訴を決める処分)まで最大23日間,身柄拘束されることがあります。その流れは以下のとおりです。
逮捕から身柄送致 最大48時間
身柄送致から勾留請求 最大24時間
勾留 10日~20日間
起訴後勾留 期限の定めなし(最長判決が出るまで)
〇逮捕から勾留請求まで
逮捕された夫は,逮捕された警察署で取調を受けることになります。逮捕から48時間以内に事件と身柄が検察庁に送致されます。
そこで,検察官が夫を取り調べ,さらなる身柄拘束の必要があると判断した場合は,裁判官に被疑者を勾留するように請求します。
また,逮捕から勾留が確定するまでの間(最大で72時間)は,弁護士以外の面会は認められない場合がほとんどです。
〇勾留
勾留とは逮捕に引き続き身柄を拘束する処分のことを言います。
勾留するには,「罪を犯したことを疑うに足る相当な理由があること」に加え,以下の3点のうち,ひとつ以上該当することが必要となります。
・決まった住所がないこと
・証拠を隠滅すると疑うに足る相当の理由があること
・被疑者が逃亡すると疑うに足る相当の理由があること
検察官の勾留請求が裁判所に認められた勾留決定が出された場合には,最大で10日間の身体拘束を受けることになります。
さらに,捜査が必要と検察官が判断した場合にはさらに10日間勾留が延長されることがあり,最大で20日間勾留される可能性があります。
したがって,この段階で検察官または裁判官と交渉して,夫の身柄を解放してもらうことが早期の身柄解放の肝となります。
〇検察官による最終処分
検察官はこの勾留期間に取り調べの内容や証拠を審査し,起訴か不起訴かを判断します。
日本の刑事裁判の有罪率は99%以上といわれているように,一旦,起訴されれば,ほぼ確実に刑事罰を受けることとになります。
不起訴となれば前科がつくことはありません。もし,被疑者が犯行を認めていたしても,犯行を立証するに足る証拠がない,情状(被疑者の性格・年齢・境遇・行為の動機や目的など)を鑑みて処罰の必要がないなどの理由から検察官が不起訴の判断する場合があります。
☆4/1午前8時に出社中の夫が電車内トラブルでの傷害事件で逮捕されたものの早期に身柄解放する場合のシミュレーション
【4月1日(金曜)】
午前08時:警視庁管轄の警察署から妻のもとに夫を逮捕した旨の一報。容疑は電車内トラブルでの傷害とのこと。妻,気が動転しながらも,当事務所に連絡。弁護士と話した結果,夫と接見をして,必要に応じて弁護人となることに。妻,夫が勤務する会社へ欠勤の連絡。
午前11時:当事務所の弁護士,警察署の留置で夫と接見。夫の話では,傷害はしており,警察署でもそのような内容の調書を既に作成したとのこと。夫が早く出たいとの希望であったので,夫に対し今後の刑事事件の流れと取調べにおける留意点などを伝え,弁護人選任届(正式に弁護護人に選任することを証する書類)を夫からもらう。 弁護人,接見後,担当警察官と面談し,被害男性の連絡先を教えて欲しい旨を伝える。
午後0時 :接見を終えた弁護士が妻に状況を報告。妻,ショックを受けるも,夫を支えることを決意。
午後03時:妻,当事務所に来所。当事務所と委任契約を締結するとともに,身柄引受書(身柄が解放されたら,捜査機関に呼ばれた際,責任をもって出頭させることを誓約させる書類)にも署名する。また,弁護人は妻に対し予め想定される示談金を弁護士の預り金口座に振り込むことを依頼する。
午後05時:被害男性と連絡が取れた警察官が弁護人に被害女性の連絡先を伝える。
午後06時:弁護人,被害男性と電話にてコンタクト。明日午後7時に被害男性宅近くのファミリーレストランで面会することを約束。
午後08時:弁護人,警察署の留置で夫と面会。夫は,被害男性に対する謝罪文と通勤時間と通勤ルートを変える旨の誓約書を留置にて一緒に作成。弁護人,夫から謝罪文と誓約書の宅下げを受ける。
【4月2日(土曜日)】
午前07時:夫,東京地方検察庁に押送。
午後00時:弁護人,検察庁に連絡をして担当検事を確認。
午後02時:弁護人,担当検事に勾留しないことを希望する意見書をFAX送信。
午後03時:担当検事,夫を取調べ。ひとまず,勾留請求をすることに。
午後07時:弁護人,被害男性とファミリーレストランで面談。夫の謝罪文,誓約書を渡し,示談金をお支払いして示談が成立。
同時刻ころ:夫,検察庁から留置されている警察署に帰還。
午後09時:弁護人,夫と接見。検察調べの様子をうかがうと同時に示談が成立したことの報告と明日の裁判官面談での注意点等を伝える。
【4月3日(日曜日)】
午前10時:弁護人,東京地方裁判所令状部(勾留するかしないかを決定する部)に対し夫を勾留しないことを希望する意見書(身柄引受書も提出)をFAX提出。
午前11時:弁護人,電話にて裁判官面談。如何に勾留する必要がないかを説明。裁判官,夫に会ってから決めるとの回答。
午後01時:裁判官,夫の言い分を確認(勾留質問といいます。)
午後03時:裁判所から弁護人に対し勾留却下(勾留しないこと)決定した旨の連絡。
午後07時:留置されていた警察署に戻り,夫,身柄解放。
【4月4日(月曜日)】
午前8時:夫,通勤ルートは変えたものの,通常通り,出社
4逮捕されるとどうなる?
Q「夫が逮捕されたことは,会社にバレてしまうのでしょうか?」
A「基本的に警察から会社へ逮捕の連絡がいくことはありませんし,必ず会社に伝えなければいけないというわけでもありません。しかし勾留が長期になると,その期間会社を休むことになるため不都合は避けられないでしょう。」
会社にバレる?
基本的に警察から会社へ連絡がいくことはありません。
ただ,会社の職務に関する犯罪で逮捕されたような場合には職場で捜査が行われることもあります。
そのほかにも,無断欠勤を理由に会社が家族や警察に連絡を取り,逮捕の事実が判明することがあります。
また,実名報道によって逮捕の事実が明るみに出る可能性もあります。
実名報道に明確な基準はありませんが,殺人や強盗といった重大事件,社会的関心の高く「公共の利害に関する事実」といえる事件では実名報道がされやすい傾向にあります。
被疑者の職業が公務員や医師,弁護士,大手企業の社員,有名大学の学生などの場合も同様です。
会社を解雇されてしまう?
刑事事件で逮捕されたことが会社に知られた場合,必ずしも懲戒解雇となるとは限りません。
会社ごとの判断になりますが,起訴か不起訴といった検察の終局処分を待ってから判断を決める場合も多いでしょう。
何日間休む?
逮捕されてしまった場合には,逮捕されてから勾留の要否を決めるまでに2,3日,勾留が決定した場合には,10日もしくは20日間欠勤することとなります。
特に,逮捕されてからの48時間は弁護士以外との面会はできないため,家族に会社への連絡を頼むこともできません。
無断欠勤を避けるためには,弁護士を通じて家族に会社への連絡を頼んだり,弁護士に会社へ連絡をしてもらったりすることが必要となります。
再就職に前科は不利?
前科があるにも関わらず,虚偽の申告をした場合には経歴の詐称を理由に解雇されてしまう可能性もあります。
また,法律で前科が「欠格事由」となる職業も一部存在します。
前科があると海外に行けない?
海外へ行くためにはパスポートが必要ですが,法律に定められた事項に該当する場合には,パスポートの発行が制限される場合があります。
具体的には,渡航先の法規により入国を認められていない者や,現在刑事裁判にかけられている者,身体拘束が予定されている者,仮釈放中で刑期を満了していない者などがあげられます。
前科があるからといってパスポートの発行が制限されるとはわけではありませんが,アメリカなど,逮捕歴・犯罪歴のある者の入国に厳しい制限を設けている国もあります。
5弁護士に依頼するメリットは?
Q「弁護士に依頼をすることによって,弁護士をつけない場合と何か変わるのでしょうか。」
A「弁護士は勾留や起訴を回避するために手を尽くします。その分,早期の釈放の可能性も高まります。」(シミュレーション参照)
〇本人との連絡
・早期の接見で見通しを立てられる
逮捕直後の48時間は弁護士以外の接見は認められていません。逮捕事実に関することだけでなく,会社への対応の方針なども相談することができます。
・制限なく接見ができる
勾留期間には,家族も接見が認められていますが,警察官立会いの下で平日の9時~17時ころの間で一回15分あるいは20分までとされていることが多く,1日に1組(3人まで)しか面会ができないのが一般的です。
しかし,弁護士が接見を行う場合は土日祝日・深夜早朝の面会も可能で,時間制限もありません。
ただし,裁判所が接見禁止の処分が下されると,家族でも一切の面会ができなくなります。その場合においても,弁護士には時間の制限もなく,自由に面会する権利が認められています。
・不利な証拠を作らせない
取調べでは,警察や検察は被疑者に事件に関する供述を求め,被疑者の話した内容を調書にまとめます。
この調書は,捜査において重要性の高い証拠となります。
供述調書を作成するのは被疑者ではなく警察や検察であるため,供述調書の内容に本人の認識とは異なる内容が記載されてしまうこともあります。
また,厳しい取調べや精神的ストレスから,やっていないことについて罪を認めてしまい,自白調書がつくられてしまうこともあります。
供述調書は署名押印をすると訂正をすることは簡単ではありません。
そのため,署名押印をする前に内容をしっかりと確認し,内容に相違がないか確認することが大切です。
弁護士に調書の内容について相談をすれば,訂正すべき文言などについて専門的見地から適切なアドバイスをすることができます。
脅迫や誘導などの手段による不当な取調べが行われた場合には,弁護士が警察や検察,裁判所に抗議をすることもできます。
〇早期の身柄解放
・身柄解放のための弁護活動
逮捕されたとしても,10日ないし20日の勾留が確定したわけではありません。勾留下されれば,2,3日で釈放されるため,早期に会社への復帰することができます。ます。
早期釈放を実現するために,弁護士は以下のような弁護活動を行うことができます。
- ①検察官に勾留請求をしないように求める
- ②裁判官に検察官の勾留請求を却下するように求める
- ③裁判所に裁判官の勾留決定を却下するように求める
一般的に裁判官がより中立な立場で判断できるとされる,②の勾留決定の前段階が早期釈放の可能性が最も高くなります。
・早期釈放のために弁護士ができること
勾留は,「罪を犯したことを疑うに足る相当な理由がある場合」で,「1決まった住所がないこと,2証拠を隠滅すると疑うに足る相当の理由があること,3被疑者が逃亡すると疑うに足る相当の理由があること,」この3点のうちどれかひとつでも該当する場合に勾留が認められます。
弁護士は,検察官や裁判官に意見書などの書面を提出や,面談をすることによって,被疑者は証拠を隠滅したり,逃亡したりする恐れがないことを主張します。
具体的には,「証拠品は警察に押収されているため,証拠の隠滅は不可能である。」「妻・子供がいて会社でも要職に就いているため,それらを捨てて逃亡する可能性は低い。」といったものです。このような主張が認められれば勾留請求が却下され早期釈放となります。
〇不起訴獲得
・不起訴処分の分類
勾留が決まったとしても不起訴となれば,前科がつかないため,将来的なデメリットが排除できます。
不起訴には理由に応じて種類があり,主に,嫌疑なし,嫌疑不十分,起訴猶予の3つに分類されます。
嫌疑なしとは被疑者が犯人でないことが明らかになったときに出される処分で,嫌疑不十分とは犯人であると立証するに足る十分な証拠が用意できなかった時に出される処分です。
不起訴となる場合の約9割を占めるのが起訴猶予で,犯罪を証明するだけの証拠があり,起訴しようと思えばできるものの,罪の重さや,情状などの点を考慮し,検察官が起訴をしないと判断した際に出される処分を言います。
・略式起訴
起訴された場合でも略式起訴となれば正式裁判を避けることができます。
略式起訴の対象となるのは,罰金100万円以下の罰金または科料に相当する比較的軽微な犯罪です。
略式起訴のメリットは,迅速に手続きが進行するという点にあります。正式な裁判は,約1,2か月間の勾留の後,公開された法廷で証人尋問など厳格なプロセスをもとに行われます。これに対して略式起訴は,最大で20日間の勾留満期までには釈放され,裁判官が書面を審理することで処分を決定します。
略式起訴は,前科はついてしまいますが,被疑者にとって時間的負担の少ない手続きであると言えます。
被疑者が罪を認めている場合であれば,弁護人は起訴猶予処分獲得もしくは略式起訴へ向けて弁護活動を進めていきます。
・不起訴処分獲得のために弁護士のできること
起訴,不起訴の判断は検察官によって下されます。弁護士は,検察官へ意見書などの書面を提出や,面談をすることによって不起訴(場合によっては略式起訴)とすべき事情があることを主張します。
弁護士は主に,①罪の重さ,②被疑者の情状という点から被疑者に不起訴とすべき事情があることを検察官へ主張し,不起訴獲得への弁護活動をしていきます。
①ついては,「犯行が比較的悪質ではない,計画性がない,被害が重大なものではない,」②については,「被疑者が反省をしている,被害者と示談が成立している,家族の監督が誓約されている」といった事由です。
・示談交渉
情状について主張をしていく上で,弁護士の役割が大きいのが示談交渉です。
検察官は,慰謝料や被害弁償がなされているか,被害者から宥恕(加害者のしたことを許す)はあるのかなどの被害者の心情や事情を考慮した上で処分を決めます。
被害者の多くは,加害者である被疑者に会うことを拒否します。そこで,弁護士が示談交渉に臨むことによって,被害者の立場にも理解・共感を示しつつ,丁寧な事情説明等により被害者のストレスを軽減し,結果として示談が成立する可能性が高まります。
まとめ
早期の身柄解放を目指すためには,勾留が決定するまでの72時間以内に弁護士に依頼をすることが重要です。早めの弁護士への依頼が,早期の身柄解放や不起訴処分獲得への第一歩となるのです。
刑事事件について専門の知識を持った弁護士は,夫とその家族に寄り添い,勾留や起訴を回避するために尽力します。
夫が逮捕され困っている方の相談をお待ちしております。お問い合わせはこちらのページもしくはお電話でお願いいたします。