目次
1.痴漢事件とは
痴漢事件の多くは、電車などの公共の場所で、被害者や周囲の乗客が、痴漢行為を指摘することで発覚します。痴漢の疑いをかけられた人は、駅員室等に連れて行かれた上、事実関係の確認がなされます。駅側担当者からの通報を受けて現場に臨場した警察官に、そのまま痴漢事件の被疑者とされて逮捕・勾留されてしまうケースも少なくありません。
痴漢事件は、満員電車で行われることが多いため、被害者や周囲の乗客が犯人の特定を誤るケースも多く、実際に痴漢をしていない人が「痴漢犯人」と疑われてしまう、いわゆる「冤罪」の生まれやすい犯罪類型です。
このように痴漢事件は「冤罪」が生まれやすい一方で、電車などの一般の方に馴染みの多い公共の場所が犯罪発生現場となることが多いため、ある日突然、自分が「痴漢犯人」と疑われてしまう可能性のある、私たちに極めて身近な犯罪といえるでしょう。
痴漢を疑われたときに、線路上に降りてその場を離れようとしたり、走ってその場を離れたりする方もいます。しかし、このような行為は、新たな問題を起こしてしまう可能性もあります。電車の運行を止めたりなどすれば、威力業務妨害罪が成立する可能性がありますし、走って逃げる際に他人にぶつかってケガをさせてしまうことも考えられます。突然痴漢と言われてあわててしまうとは思いますが、まずは落ち着いて行動することが大切です。
2.痴漢事件を起こすとどうなるのか
痴漢事件の刑事法上の取り扱い
「痴漢」と一言で言っても、着衣の上から身体の部位を触った場合、下着を触ってしまった場合、下着の中に手や指を差し入れた場合など、その行為態様は様々であり、行為態様に応じて成立する犯罪も異なります。行為態様が軽微であれば、各都道府県が定める「迷惑防止条例」違反とされることが多い一方で、行為態様が強度のものであれば、刑法176条に規定される「強制わいせつ罪」にあたる場合もあります。
都道府県ごとに迷惑防止条例に違反した場合の罰則に多少の幅がありますが、東京都の定める迷惑防止条例(「公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例」(東京都条例第103号))の法定刑は「6月以下の懲役又は50万円以下の罰金」と定められています。
一方で、「強制わいせつ罪」(刑法176条)にあたるとされた場合は、その法定刑は「6月以上10年以下の懲役」となります。
3.痴漢事件で逮捕されてしまったら…
身体拘束が予想される期間
逮捕された場合、検察官による最終処分(起訴・不起訴を決める処分)まで最大23日間、身柄拘束されることがあります。その流れは以下のとおりです。
逮捕から検察庁への身柄送致 最大48時間
身柄送致から勾留請求 最大24時間
勾留 10日~20日間
起訴後勾留 期限の定めなし(最長判決が出るまで)
痴漢事件においても被疑者が「否認」をしている場合、逮捕される可能性が高まります。逮捕後、検察官から勾留請求をされた場合には、原則10日間身体を拘束されることになります。勾留延長請求がなされれば、さらに10日間身体を拘束される場合もあります。
身体拘束されてしまった場合の不利益
被疑者とされて、10日を超えて勾留されてしまうと、勤め先に対する説明が困難になってしまいます。刑事法上は、逮捕・勾留は、罪を犯したと疑われている状態に過ぎず、犯罪の成否については未確定というのが大原則ですが、勤務先によっては、逮捕・勾留されたということだけで働き続けることが困難になる場合も珍しくありません。
勾留決定の取消しは、被疑者が証拠を隠すことが十分に疑われる(罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由がある)場合や、逃亡することが十分に疑われる(逃亡し又は逃亡すると疑うに足りる相当な理由がある)場合には認められませんが、そもそも痴漢の疑いをかけられた被疑者は一般的に、家庭(住所)や定職がある場合が多いため、隠滅すべき証拠がほとんど存在せず、罪証隠滅のおそれもなく、かつ、逃亡する可能性もきわめて低いと主張できるケースが多い印象です。
もっとも、被疑者に家庭、定職があって、かつ今後の捜査に協力することが見込まれるにもかかわらず、または勾留期間中に何ら具体的な取調べをしていないにもかかわらず、検察官が勾留を延長する場合などもあります。そのような場合、当事務所の弁護士は、検察官や裁判官に対し、「勾留の必要性がない!」と訴えていきます。私たちは、法律家としての視点から、罪証隠滅の可能性がないこと、逃亡のおそれがないことを主張立証し、被疑者の立場に置かれた方へ、以下のようなお力添えをさせていただきます。
すなわち、被疑者として勾留された場合は、起訴された後に認められる保釈制度はありませんので、「準抗告」という手続きにより、勾留決定の取消しを求めてまいります。また、そもそも検察官が裁判官に対して勾留を請求するときに、私たちは弁護人として、「勾留されるべきではない!」という意見を、裁判官や検察官に積極的に伝えることができます。
4.まずはお電話を
痴漢事件は冤罪が生まれやすい事件です。身体拘束期間中に一度でも「自白」をしてしまえば、後から「痴漢はしていない。」と言っても、それを信用してもらうこと極めて難しいです。「痴漢をしてしまった。」という供述が調書に記載されていた場合には、裁判でこれを覆すことは極めて困難となります。他方で、「痴漢をしていない。」と「否認」を続ければ最大20日間以上身体拘束されてしまう可能性が高いため、捜査機関に対して「否認」を続けるには精神的なサポートが必要です。そのため逮捕直後の早期の段階から弁護士が接見し、適切なアドバイスを受けること極めて重要です。
仮に本当に痴漢をしてしまった場合であっても、早期に被害者の方と示談をさせていただくことによって不起訴処分を得られる可能性が高まります。
また、仮に公判請求されてしまった場合でも、弁護士が早期から適切なアドバイスをすることで不当に処分が重くなることがないようにお力添えをすることができます。
5.痴漢事件の際に弁護士がお力添えできること
早期の身柄解放
痴漢事件の被疑者とされてしまったときは、早急に弁護士に連絡をすることが重要です。
仮に痴漢行為を行っていないとして、容疑を「否認」する場合には、20日間身体を拘束されてしまう可能性も高まります。会社に勤めている方であれば、事件のことを伏せたまま20日もの間、欠勤を続けることは困難でしょう。痴漢事件で逮捕されたことが会社に明らかになれば、痴漢行為をしたかどうかに関係なく会社を辞めさせられてしまう可能性もあります。
もっとも、早期にご相談いただければ、弁護士は、あなたの生活状況や証拠隠滅の可能性について捜査機関や裁判官に説明し、身体拘束を事前に防止したり、その期間を短縮する活動をするなど、上記のような事態を防止することができるのです。
近年では、身元がはっきりしている人については、検察官も勾留請求をせず、裁判官も勾留を認めないことが多くなってきております。
被害者との示談交渉
罪を認めている場合は、痴漢は被害者のいる犯罪であるため、被害者と示談が成立すれば、不起訴処分になったり、もしくは刑事処分が軽くなる可能性が高まります。
しかし、被害者は、基本的に被疑者本人やその家族に会いたがらないことが多いため、通常は弁護士が間に入って交渉することになります。弁護士が、被害者に対して、被疑者の弁護人として、被疑者の反省・謝罪の弁を誠実にお伝えすることにより、結果として示談が成立する可能性が高まります。
罪を否認する場合(痴漢冤罪事件)
痴漢冤罪において厄介な点は、被害者の供述が重視される傾向があるということです。
最近では、示談金目的で被害をでっち上げた痴漢冤罪事件の報道もあり、「被害者の供述は100パーセント正しい」という決めつけや偏った見方は減ってきているとは思われます。しかし、現場の警察官は被害者の供述を前提にして取調べ等の捜査活動を行うため、実際の取調べにおいて、「被害者が嘘をつく理由はないだろう。本当のことを供述しなさい!」などと、被疑者に対し、厳しい質問を繰り返し続けることがあるため、被疑者は日々の取調べの中で精神的に追い込まれる可能性もあります。このような場合、被疑者のご家族と弁護士が緊密に連絡をとりながら、弁護士が被疑者とされてしまった方との接見を重ねることで、その精神面を支える必要があります。身体拘束をされている期間が長引けば長引くほど、さまざまな面において負担が大きくなりますから、まずは早期に弁護士にご相談いただくことが重要と言えます。
6.痴漢事件に強い弁護士とは
一度起訴された事件を後から不起訴にすることはできないため、事件の発覚後はできるだけ早く法律相談を受け、依頼する弁護士を選びましょう。
その際のポイントは、
・同様の事件に取り組んだ経験があるか
・動きはスピーディか
・スケジュールは確保してもらえるか
という3つの点です。既に逮捕・勾留されてしまった場合は、勾留取消や勾留延長請求却下を求める弁護活動が必要ですし、逮捕・勾留されていなかったとしても、被害者との示談等を速やかに進めることが肝要です。このように、痴漢事件では通常、急を要する弁護活動が必要となることが多いので、動きの速い弁護士を見つけることが大切です。当事務所は、刑事事件に強い経験豊かな弁護士が迅速に動けるよう態勢を組んでおります。
また、当事務所では当然のことながら、上記のような勾留を争う弁護活動や示談に向けた行動の他、不起訴処分に向けた弁護活動も積極的に行っております。
解決事例
被害者と示談を成立させ、不起訴処分を獲得したケース
【事案】二人の女子高生に対する痴漢行為
ある会社の正社員であるAさんは、通勤で利用する電車の中で、二人連れの女子高生から「痴漢です」と言われ、次の駅で電車を降ろされました。Aさんは駅の事務室に移動した後、駅員の通報により臨場した警察官により、東京都迷惑防止条例違反で逮捕されてしまいました。
【解決方法】
■Aさんとの初回接見
当事務所は、警察からAさん逮捕の知らせを受けたご家族より、ご依頼を受けました。その時、既に逮捕から2日が経過していました。
早速、私たち弁護人がAさんと接見したところ、Aさんから次の話を聞きました。
「私は今後どうなってしまうのでしょうか。確かに私はつい、出来心から二人連れの女子高生のお尻をスカートの上から触ってしまいました。でも、それを認めてしまったらどうなってしまうのか、怖くて怖くて、今日会った検察官に対して、触っていないとつい、嘘を言ってしまいました。」
私たち弁護人は、Aさんに対し、
・Aさんが女子高生のお尻をスカートの上から触ったことを見ている人がいる可能性が高いこと。特に被害者が二人である本件では、その可能性が高いこと。
・最近の電車には防犯カメラが設置されている車両もあり、Aさんの行動が映っている可能性があること。
・Aさんの手のひらに、どのような繊維が付着していないか既に調べられていたら、Aさんの手のひらから女子高生のスカートや下着と同じ繊維が検出されたという結果が出てしまう可能性が極めて高いこと。
・Aさんの痴漢行為が客観的な証拠から明らかであるにもかかわらず、否認を続けていると、20日間の勾留になる可能性が高いこと。
などを説明しました。
Aさんは落ち着きを取り戻し、翌日の裁判所における勾留質問では素直に本当のことを話すと言いました。
Aさんとの接見を終えた後、私たち弁護人はAさんから聞いた話をまとめ、翌日の勾留質問に間に合うよう、裁判官に対する「勾留の必要性はない」旨の意見書の作成に取り掛かりました。
しかし、翌日、意見書を裁判所に提出したものの、10日間の勾留が認められてしまいました。逮捕直後、Aさんが否認していたことが、罪証隠滅や逃亡のおそれがあると、裁判官は判断してしまったようでした。
■女子高生のご両親との示談交渉
その後、私たち弁護人はAさんと相談し、被害者に謝罪を尽くすべく、担当の検察官に被害者との仲介を頼みました。被害者は未成年者であることから、被害者のご両親との間で謝罪・示談を進めることになり、すぐさま示談交渉のための面談のスケジュールを組みました。
大切な娘が痴漢行為を受けたことにつき、どちらの被害者のご両親も、最初は私たち弁護人からの示談の申し入れに対し、応じてくださる気配はありませんでした。しかし、被疑者の謝罪の気持ちや、被疑者が通勤ルートを変更して、事件を起こした路線は二度と使用しない旨の誓約などを伝え、丁寧にご説明した結果、示談金を受け取っていただき、また被害届の取下げもしていただけることができました。
■釈放と不起訴処分
私たち弁護人は示談契約書と共に、謝罪を行ったAさんにはもはや逃亡や罪証隠滅のおそれは皆無であることをまとめた意見書を、担当検察官に提出しました。
その結果、裁判官が認めた10日間の勾留期限を待たずして、検察官はAさんを釈放しました。
逮捕から釈放まで1週間ほどが経過していましたが、途中、土日の休みがあったこともあり、勤務先を休んだ日数がそれほど多くなかったことから、Aさんは会社を解雇されることなく、再び、元の生活に戻ることができました。
それから数週間経過後、Aさんは不起訴処分となりました。
「逮捕直後は突然のことで、色々と怯えてしまい、とても精神的に不安定でした。でも、先生たちが会いに来てくれ、私の置かれた状況や今後の対応などを説明してくれてからは、少し心が楽になりました。先生たちが女子高生に謝罪を伝えてくれて、また今こうして出勤できるなんて、信じられません。本当にありがとうございました。」というお言葉をいただきました。