自転車運転の赤切符で前科はつく?厳罰化のポイントを弁護士が解説

自転車は、子どもから高齢者まで、誰でも気軽に乗れる乗り物です。特にコロナ禍になってからは、電車での密を回避するために、自転車を移動手段とする人が増えたといいます。自転車による事故は、自動車による事故と比べると、テレビで報道されることが極めて少ないせいか、「自転車で人身事故を起こしても、車と違って刑事事件にはならないだろう。」「少しぐらい危険な運転をしても、前科がつくようなことにはならないから大丈夫。」と考えている方も多いのではないかと思います。
しかし、自転車による交通事故でも、過失傷害罪や過失致死罪、重過失致死傷罪として、刑事事件化することがあるのです。
また、令和4年10月31日からは、警視庁が自転車の危険な運転行為に対する取締りを強化するようになり、右側通行や一時停止違反等の行為に赤切符が交付されるようになりました。つまり、人身事故を起こさなくても、罰金等の刑事罰を受ける可能性が出てきたということです。

悪質な自転車運転の取り締まり強化

(1)平成27年改正

平成27年6月1日より施行されている改正道路交通法では、一定の危険な違反行為(信号無視、一時不停止、酒酔い運転など)をして3年以内に2回以上摘発された14歳以上の自転車運転者に自転車運転者講習が義務付けられました。この受講命令に従わず受講しない場合には5万円以下の罰金を科せられることがあります。

 

(2)令和4年の警視庁による運用変更

警視庁は令和4年10月31日から自転車の交通違反に対する取り締まりの強化を始めました。重点的に取り締まるのは、「信号無視」「一時不停止」「右側通行」「徐行せずに歩道通行」の4項目についての違反です。
これまでの違反者の取り締まりの大半は、処罰はなく注意を促すだけの「自転車指導警告カード」(イエローカード)の交付にとどまっていました。今回の運用変更により、前述の4項目の悪質な違反行為が赤切符の交付対象になりました。

 

自転車事故で前科が付く可能性も!

自動車の場合、悪質な違反に赤切符が交付されます。比較的軽微な違反で取締りを受けると、交通反則通告制度に基づいて青切符が交付され、反則金を納付する形で手続は終了します。
一方で、自転車には自動車のような青切符反則金の制度はありません。赤切符が交付されれば、取り調べを受けて書類送検されることもあり、懲役や罰金が科せられれば前科が付いてしまう可能性もあります。前述の通り、取り締まりの厳格化により赤切符の交付が増えることが予想されるため、それに伴って刑事罰を受ける人も増えるでしょう。
また、自転車を運転している最中に人を死傷させてしまった場合、過失傷害罪、過失致死罪、重過失致死傷罪のいずれかで、刑事罰に問われる可能性が出てきます。態様が悪質であったり、被害結果が大きかったりする場合には、略式起訴の方法ではなく、正式裁判にかけられる可能性もあります。

(略式)起訴の結果、罰金刑や懲役刑になった場合、当然前科がつくことになりますが、罰金刑の場合であっても、医師、看護師、薬剤師等の医療関係の職業に従事している方は注意が必要です。
例えば、医師の場合、医師法7条1項において、「医師が第四条各号(※第4条3号に「罰金以上の刑に処せられた者」とあります。)のいずれかに該当し…たときは、厚生労働大臣は、次に掲げる処分をすることができる。」と定め、7条1項各号において、具体的な処分として「戒告」「三年以内の医業の停止」「免許の取消し」を掲げています。
すなわち、こうした職業に就いている方が自転車の危険運転行為で赤切符を交付されて罰金を納付したり、自転車に乗っている最中に人に怪我を負わせてしまい、過失傷害罪等で罰金刑となったりした場合には、就労に制限が生じてしまう可能性もあるのです。

刑事事件化する自転車事故とは

自転車は免許なしに老若男女誰でも乗ることのできる便利な乗り物ですが、一歩間違えば大きなけがにつながる可能性もあります。
自転車で大きな事故に発展するケースは、自動車と比較すると少ないと言えるでしょう。ただ、相手に重大な怪我を負わせてしまった場合では、刑事事件化する可能性もあります。
自転車保険に入っている場合でも、保険の内容は専ら民事的な損害を填補する内容であり、刑事事件に関しては何らサポートがない…ということがありますので、そのような場合はご自分で弁護士を選任することが必要でしょう。

自転車で人身事故を起こした場合に成立しうる犯罪

過失傷害罪・過失致死罪・重過失致死傷罪

自転車を運転中に、人を死傷させてしまった場合、過失傷害罪(刑法209条)又は過失致死罪(刑法210条)が成立します。赤信号や一時停止を無視して交差点に進入した際に通行人を死傷させてしまった場合など、過失の程度が大きい場合には、重過失致死傷罪(刑法211条後段)が成立します。
過失傷害罪は30万円以下の罰金又は科料、過失致死罪は50万円以下の罰金、重過失致死傷罪は5年以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰金が法定刑となっています。

 救護義務違反・報告義務違反

交通事故の当事者(車両の運転手と同乗者)は、すぐに運転を停止して、負傷者を救護し、道路における危険が生じないように措置を講じなければなりません。適切な措置を講じることなく現場から逃げてしまった場合、救護義務違反に該当します。
また、当該交通事故に係る車両の運転手は、警察官に対し、当該事故の発生日時、場所、死傷者の数等の交通事故に関する情報を報告しなければならず、これを怠った場合には道路交通法の報告義務違反に問われることがあります。
自転車の運転手がひき逃げ行為をした場合、救護義務違反については1年以下の懲役又は10万円以下の罰金(道路交通法117条の5第1項1号)、報告義務違反については3月以下の懲役又は5万円以下の罰金(道路交通法119条1項10号)の法定刑が定められています。
スマートフォンをいじりながら自転車を運転していたところ、一時停止の標示に気付かず、歩行者と接触し、怪我をさせてしまったという事案で、救護をせずに立ち去り、事故に関する情報を警察官に報告しなかったという場合には、重過失傷害罪、救護義務違反、報告義務違反の3つの罪に問われる可能性があります。

逮捕の可能性

自転車の運転で人を死傷させた場合、過失傷害罪、過失致死罪、重過失致死傷罪のいずれかに該当する可能性がありますが、逮捕に至ることは少なく、在宅での捜査となることが多いです。また、逮捕されてしまった場合でも、罪証隠滅行為をしないこと(例えば、被害者をはじめとする関係者に接触しないことを確約することがこれに当たります。)や逃亡のおそれがないこと(例えば、定職に就いていて身分が安定していることがこれに当たります。)を適切に主張すれば、早期の身柄解放が望める類型でもあります。

 弁護士のできること

過失犯の場合、事故態様(過失の程度や内容)、事故に至る経緯、被害結果の重大性などが検察官の終局処分(起訴するか不起訴とするかを決めることです。)に大きく影響します。被害者との間で示談を行うことは、被害結果を事後的に回復する行為として、極めて重要なものといえます。特に、過失傷害罪の被疑者となっている場合、同罪は親告罪であり、被害者の告訴がなければ公訴を提起できませんので、被害者との間で示談を成立させて告訴を取り下げてもらう等の対応をすることが極めて重要であるといえます。
そうはいっても、被害者やその家族が加害者との直接交渉に応じてくれることは極めて少ないですし、被害者やその家族の心身になるべく負担をかけないような方法で速やかに交渉を進めていくというのは、なかなかに難しいものです。弁護士に依頼した場合、「加害者と直接連絡を取るのは嫌だけれど、弁護士が間に入るなら、とりあえず話だけは聞いてみよう。」という気持ちになってくれる被害者やその家族も多く、早期に被害者やその家族と連絡を取って示談交渉を行うことが可能となります。また、被害者の心身の状態が落ち着くまで示談交渉を進められそうにないという場合には、弁護士から担当検事に状況を報告し、終局処分の判断を待ってもらえないか交渉することもあります。

 

 

 

当事務所には示談の経験が豊富な弁護士が所属しています。ご依頼があった場合、終局処分の権限を握る検察官とも連絡・連携を取りながら、被害者との接触を試み、速やかに示談交渉を進めていきます。当事務所の弁護士は、被害者に対し、ご依頼者様の謝意を伝えるため、粘り強く交渉をしていきます。

執筆者

ヴィクトワール法律事務所

刑事事件について高い専門性とノウハウを有した6名の弁護士が在籍する法律事務所です。

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