替え玉受験は犯罪?逮捕される?弁護士が解説

替え玉受検とは

2022年に就職試験で行われるウェブテスト(適性検査)について、就活生になりすまし不正に代行する、いわゆる「替え玉受験」による逮捕者が出ました。ウェブテスト代行をした男性が逮捕され、依頼した就活生も書類送検されました。男性はSNSを利用し、受験代行を希望する就活生を募っていたとされています。
また、2025年には英語能力テスト「TOEIC」の複数の試験会場で、受験者が小型マイクなどを使って不正に解答を伝えていた疑いで逮捕されるという事件がありました。

どのような刑事罰に問われる可能性があるか

一般的に、代行を請け負った人と依頼した人には、依頼した人を主犯とする共犯関係が成り立ちます。では、替え玉受検のような行為にはどのような犯罪が成立するのでしょうか。

〇電磁的記録不正作出・同供用罪(刑法第161条の2第3項)

本罪は、「人の事務処理を誤らせる目的で、その事務処理の用に供する権利、義務又は事実証明に関する電磁的記録を不正に作った者、不正に作られた電磁的記録を不正な目的で人の事務処理の用に供した者」について処罰されるとしています。(刑法第161条の2第3項)

ウェブテストは、本来、本人の能力を測るためのものですから、当然、本人が受験することを前提としています。しかし、代行行為は、本来、その企業を受ける者が受けるべきテストの解答(点数)を、代行業者が、替え玉受験目的という不正な目的で作ったと言えるので、本罪が適用される場合があります。
なお、同罪の法定刑は「5年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金」で、公訴時効は5年です。上限刑が5年ということで、有印私文書偽造にも類すべき重い犯罪です。

〇偽計業務妨害罪(刑法第233条)

本罪は「虚偽の風説を流布し、又は偽計を用いて、人の信用を毀損し、又はその業務を妨害した者」について処罰すると規定しています。(刑法233条)

今回のような場合、特に偽計業務妨害の成立が問題となります。
「偽計」とは、人を欺き、あるいは、人の錯誤・不知を利用したり、人を誘惑したりするほか、計略や策略を講じるなど、威力(人の意思を制圧するような勢力)以外の不正な手段を用いることをいいます。つまり、人を錯誤に陥らせるような手段を用い、相手の仕事などの邪魔をした場合に、偽計等業務妨害罪が成立することになります。
「業務」は、営利を目的したものである必要はなく、精神的・文化的なものでも良いとされています。したがって、政党、労働組合、慈善団体の行う事務、学校における教育事業なども「業務」といえます。そして、「妨害」の程度については、実際に業務の妨げとなる被害が発生していなくても、発生するおそれ(危険)があれば成立します。

今回のような「替え玉受験」のような場合、通常は、業務の「公正」を害するにとどまり業務の遂行そのものを「妨害」するような性格ではないとも考えられますが、大量の「替え玉受験」が発生するなど、不正の規模が大きく、再試験を実施する必要が発生した場合には、試験の実施自体の妨害する危険を有するものとして「偽計」による「妨害」と判断される場合があります。

なお、同罪の法定刑は「3年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金」で、公訴時効は3年です。本罪の法定刑は、前述の電磁的記録不正作出・同提供罪よりも軽いので、電磁的記録不正作出・同提供罪が成立しない場合に、本罪に問われる可能性があると言えるでしょう。

○そのほかに問われる可能性のある犯罪

前述の他にも、正当な理由がなく建造物に侵入したとして「建造物侵入罪」に問われる可能性があります。替え玉受検のために試験会場に立ち入ることは、正当な理由にはあたらないため、不法に侵入したとされてしまうことがあるからです。
また、答案用紙に別人名義で回答をする行為は、「有印私文書偽造・同行使罪」にあたる可能性があります。

刑事事件化、逮捕の可能性

〇受験代行業者の方

実際に代行業者として対価を得て代行を行っていた方は、捜査機関に露見した場合は、比較的刑事事件化及び逮捕される可能性が高いと言えます。依頼者を逮捕するだけでは、いわゆる「いたちごっこ」になるだけで、代行業者を罰した方が、違法行為を根絶しやすいからです。
昨今は発信者情報開示も容易になりましたので、SNS上で匿名のやり取りをしていたとしても、特定される時期は早いかも知れません。また、社会的関心も高い事件であるため、積極的に捜査が行われ、逮捕された場合には実名報道となる可能性も考えられます。

〇受験代行を依頼した方

受験代行を依頼しただけでは、すぐに刑事事件化しない可能性もありますが、代行業者が摘発された場合は、いわゆる「芋づる式」で刑事事件化する可能性が高いです。この場合は、依頼した方は基本的に在宅事件で捜査されることが多いでしょう。
もっとも、在宅事件といえども捜査機関が、事情を確認し証拠を集めるため、会社に問い合わせる可能性が高いので、書類送検となった場合でも、刑事処分される可能性がある上、会社にも事実が露見し処分される可能性があります。

弁護士ができること

〇受験代行業者の方

代行行為が明るみに出た場合は、すぐに弁護士に依頼するなど対応した検討すべきです。ご自身がしたことを証拠化した上で、その顛末を文書化しすることをおすすめします。その上で、件数が少ない場合には、自首等自ら捜査機関に申告することも検討する必要があります。
状況に応じて、とるべき対応が異なってきますので、当事務所までご相談いただければと存じます。

〇受験代行を依頼した方

代行を依頼した方は捜査機関への対応と、代行を使って試験を受け会社や大学などに入ってしまった場合には、会社や大学への対応が必要になります。

①対捜査機関については、先ほど述べたとおり、自らが依頼した業者が摘発されない限り、個別に立件される可能性は高くないかも知れません。もっとも、業者が摘発された場合に備え、準備しておく必要があります。

どのような準備が必要かなどは、事案や状況によっても変わってきますので、お気軽にお問い合わせください。
②対会社などについては、代行を依頼して試験を受けた会社から内定を得たようなケースで、会社に対し業者に代行を依頼した事実が明らかになった場合、懲戒等の処分を受ける可能性があります。
必要に応じては、会社のコンプライアンス部に自ら申告すること等も考えられますが、どのような方針を取るべきかは、そのときの状況や就職試験の内容次第とも考えられます。

Q&A

Q友人の受験代行をしてしまったのですが、逮捕の可能性はありますか?

金銭のやり取りが発生していない場合は、刑事事件化されない可能性も考えられますが、何かの拍子に刑事事件化しないとも限りません。いずれにしろ違法行為ですので、差し控えることをオススメします。

Qウェブテストの解答集を作成し販売していたのですが、逮捕の可能性はありますか?

著作権者の許諾を得ていることは想定できませんので、無断二次的創作となり著作権法違反(10年以下の懲役もしくは1000万円以下の罰金)となります。その他に、損害賠償請求を受けることが考えられます。
また、そのような解答集が違法にアップロードをしていることを知って、ダウンロードすることも著作権上違法となり、損害賠償請求等を受ける可能性があるのでご注意ください。

解決事例

就活ウェブテストの替え玉受験をしていた男性が、当事務所に対処の相談をした事案につき、協議の上で、弁護士が付き添い、警察に同行し、その代わりに逮捕は行わずに在宅取り調べを行う旨の了解を取り付け、さらに、捜査の結果、事件を不立件とする取り扱いを得ました。

執筆者

ヴィクトワール法律事務所

刑事事件について高い専門性とノウハウを有した6名の弁護士が在籍する法律事務所です。

毎年500件以上のご相談が寄せられており、高い実績にもとづいた最良のサービスを提供いたします。

豊富な実績を元に刑事事件に関するコラムを掲載しております。

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