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侮辱罪の現状
インターネットの匿名性を利用した特定の個人や会社に対する誹謗中傷が、近年社会問題となっています。誹謗中傷には、他人の悪口を言うだけではなく、根拠のない事実を言いふらすという意味も含まれています。
令和3年には、SNS上での誹謗中傷により芸能人の女性が自死した事件もきっかけとなり、刑事罰の厳罰化や、発信者情報の特定をより容易にするための法改正が行われました(後述します)。
どのような書き込みが誹謗中傷にあたるのか
どのような書き込みが誹謗中傷にあたるかについて、判例では名誉感情は本人の主観によるものが大きいとしながらも、その基準として「社会通念上許される限度を超える侮辱行為」があると認められる場合に不法行為が成立すると判断されています。この「社会通念上許される限度を超える侮辱行為」とは、事件に応じてその悪質性や与えた影響の大きさなどを鑑み個別に判断されることになります。
厳罰化については悪質な誹謗中傷を抑止する効果がある一方、どこまでの書き込みが侮辱罪に該当してしまうのかという明確な基準は存在しないため、表現活動に対する萎縮が生じてしまうのではないかという問題もあります。
侮辱罪の内容
侮辱罪は、事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱する書き込みがなされた場合に適用されます(これに対し、名誉毀損罪が成立するためには、事実(真実とは限りません。)を摘示する必要があります。)。
「公然」とは、「不特定又は多人数が認識できる状態」を意味します。すなわち、限られた特定の人間に限定されず、誰でも見聞きし得た状態であることが必要です。現実に見聞きしていなくても、そのような状態に置かれていれば、「公然」といいます。
「人」とは、自然人だけでなく、法人やその他団体も含むと考えられています。
「侮辱」とは、他人に対する軽蔑の表示であって、表示方法は、言葉だけでなく、図画や動作でも含まれるとされています。
なお、改正前の刑罰は、「拘留又は科料に処する」と定められていました。
侮辱罪の厳罰化
令和4年、侮辱罪を厳罰化する改正法が施行されました。改正案では、「1年以下の懲役・禁錮または30万円以下の罰金」が追加されました。また、他人をそそのかして犯罪を実行させる「教唆犯」、犯罪の手助けをする「幇助犯」の処罰が可能になり、公訴時効も延長されました。
なお、改正法の適用対象となるのは、改正法施行後に書き込まれたもののみです。
教唆犯・幇助犯の処罰
令和4年改正後は、他人をそそのかして(犯罪を決意させることです。)侮辱罪を実行させる「教唆犯」や、侮辱罪を物理的または心理的に手助けをする「幇助犯」について処罰することが可能になりました。
具体的には、書き込みをするかどうか迷っていた人に励まし決意させて、人に誹謗中傷の書き込みをさせた場合は教唆犯に問われますし、誹謗中傷の書き込みをすることを承知した上で自分のスマートフォンやタブレットを貸す行為は幇助犯に問われる可能性があります。
公訴時効の延長
刑事事件では犯人を起訴して刑事裁判にかけますが、犯罪行為が終わってから一定の期間が過ぎると、起訴することができなくなります。これを公訴時効と言います。
侮辱罪が厳罰化される前の公訴時効は1年で、1年を過ぎてしまうと侮辱罪で起訴することはできませんでしたが、法改正により3年に延長されました。
つまり書き込みをしてから3年間は侮辱罪を理由に、逮捕や起訴されて処罰されてしまう可能性があるのです。
逮捕の可能性
改正前は法定刑が拘留又は科料であったために、「①被疑者が定まった住居を有しないこと②被疑者が正当な理由がなく、警察などの出頭の求めに応じないこと」のいずれかを満たさない場合でしか逮捕をすることができませんでした。
ですが今回の厳罰化でこの制限がなくなり、罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由がある時に逮捕が可能になりました。
改正後の令和4年10月15日、石川県内で侮辱の疑いにて、男性が逮捕される事件が起きました。この男性は日中、ショッピングセンター内にて他の男性客に対し、「こいつ頭おかしい」などと大声で言い、公然で男性を侮辱した疑いで逮捕されました。
勾留についても「罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき」や「逃亡し又は逃亡すると疑うに足りる相当な理由があるとき」という要件を満たした場合に可能になります。
以上から、改正後は、侮辱罪で逮捕・勾留されてしまう可能性が高くなったということができます。また、誹謗中傷がきっかけとなり自死につながってしまった場合など、侮辱行為によって生じた結果の大きい事案では逮捕等の可能性が上がると言えます。
誹謗中傷をしてしまったら
・示談交渉
誹謗中傷の事実が明らかになり、書き込んだ本人が特定された場合、被害者から刑事告訴や民事裁判をする前のタイミングで示談の連絡が入ることがあります。そのような場合では、誠実に示談交渉に応じることで事件化が避けられる可能性があります。
また、被害者から刑事告訴や民事訴訟を提起された場合、こちらから示談を申し入れる方法も考えられるところです。
その他、被害者から刑事告訴等で事件化される前、もしくは民事訴訟をされる前に加害者側から被害者にコンタクトを取り、示談の申入れを行うことも可能です。
いずれのタイミングであっても、心情的に加害者と直接連絡を取りあうことを避けたいと考えるのが多くの被害者が有する感情です。ゆえに、弁護士に依頼し、弁護士が加害者の代理人として示談の申入れ、示談協議を行うことが、被害者との間のより円滑な示談交渉に必須といえます。
・自首
被害者が示談に応じない場合や、居所がわからない場合には、自首をすることで刑が軽くなる可能性があります。
自首が有効に作用するためには、犯罪事実及び犯人が捜査機関に発覚する前にする必要があります。既に被害者が警察に対して、被害相談をしているなど、捜査機関が犯罪事実及び犯人を把握していた場合、警察署に自身の犯行を申告しても自首に該当しません。現在の状況が自首にあたるのかといったご相談も当事務所ではお受けしております。
もっとも、自身の犯行の申告が自首に該当しなかったとしても、後日、その犯行申告行為が反省の元に行われた行為であるとして、検察官の終局処分判断や裁判所の判決において有利に斟酌してもらえる可能性があります。
当事務所では、そのときの状況・事情に応じて、ご相談者様にとってより良い解決を導ける方法をご提案いたします。その他、自首に弁護士が同行し、捜査機関に適切な主張や説明をするといった活動も、当事務所では承っています。
侮辱罪の弁護活動
今まで、侮辱罪で立件されたり、処罰されることは多くありませんでしたが、法改正後は、強制捜査(捜索差押・逮捕)も想定しうるような犯罪となったので、名誉毀損罪並みの弁護活動が必要になったといっても過言ではありません。
具体的には、被害者(被侮辱者)に対する示談交渉、インターネット・リテラシー(インターネットの情報や事象を正しく理解し、それを適切に判断・運用できる能力)を高めるための学び、それを踏まえた反省文の作成などが肝要になるはずです。
インターネットで、侮辱的な表現をしてしまったとお考えの方は、是非、お気軽に当事務所にご相談ください。