どのような場合に自殺幇助罪に問われる?殺人罪との違いを弁護士が解説

自殺幇助罪とは

令和5年7月28日、著名な歌舞伎俳優が、両親に多量の睡眠薬を手渡して服用させ、自殺の手助けをしたとして、自殺幇助罪で起訴されました。被告人が著名人であったことやあまり聞き慣れない「自殺幇助罪」での起訴ということもあって、多くの人の関心を集めた事件の1つかと思います。

自殺とは、自ら命を絶つことを言います。自殺することは犯罪ではありません。
幇助とは、すでに自殺を決意している者に対して、自殺行為を容易にさせることや自殺行為の援助をすることです。つまり、自ら命を絶とうとしている人の自殺行為を手伝った場合に自殺幇助罪に問われることになります。

自殺すること自体は犯罪ではないのに、自殺行為を容易にしたり、援助したりすると、犯罪になってしまうのはなぜでしょうか。
この点、自殺関与行為は、他人の生命・存在を否定し、その生命を侵害するものとして違法と解するべきである、生命の自己処分に他人が関与することは排除されるべきである等という理由から、違法性がある、可罰性があると言われることが一般的です。

自殺教唆罪を自殺幇助罪と合わせて自殺関与罪と言います。
自殺幇助罪・自殺教唆罪の刑事罰は、6か月以上7年以下の懲役または禁錮です(刑法202条)。

・自殺教唆罪とは

教唆とは、自殺の意思のない者に対し、自殺を決意させることです。
自殺教唆罪と自殺幇助罪は被害者に自殺の意思があるか否かで区別されます。

 

同意殺人罪

自殺幇助罪と同じ条文に同意殺人罪(嘱託殺人罪・承諾殺人罪)があります。
被害者から殺害を依頼されて、同被害者を殺害した場合には嘱託殺人罪が成立します。
一方で、被害者が殺害されることに同意している場合に、同被害者を殺害した場合には承諾殺人罪が成立します。

 

自殺幇助罪が認められるケース

・令和3年3月29日大阪地方裁判所判決

認知症の妻であるA(当時80歳)と共に自殺しようと考えた夫が、自殺用の縄を準備し、公園に設置された鉄棒に紐をかけて輪を作り、妻の首に輪をかけさせ、窒息死させた行為について、自殺幇助罪に問われ、懲役2年、執行猶予4年の刑に処されました。

・令和3年11月17日静岡地方裁判所浜松支部判決

被告人は、SNS上で自殺願望がある旨を明らかにしていたAと一緒に集団自殺を図ろうと考え、キャンプ場において、Aと共に設営したテントの各所にテープで目張りをした上、そのテント内で、コンロ及び七輪に入れた練炭を燃焼させて、睡眠薬を服用して就寝し、Aを一酸化炭素中毒により死亡させた行為について、自殺幇助罪に問われ、懲役3年、執行猶予5年の刑に処されました。

 

殺人罪との違い

自殺関与罪と殺人罪を分けるのは、「被害者が、真に死の意味を理解し、任意で自殺を決意しているかどうか」です。
例えば、死の意味を理解できない幼児が自殺を望んだとしても、自己の生命を処分することの意味合いを理解していないものであり、その意思表示は無効となり、殺人罪が成立します。
また、自殺の意思は任意でなされなければなりませんから、脅迫や威迫等の方法で強制的に自殺を決断させたような場合には、殺人罪が成立します。

 

自殺幇助罪で逮捕されたら

逮捕された場合、身体拘束が予想される期間は下記の通りです。

⇒逮捕されてから72時間
⇒勾留決定がなされると10日間(勾留延長があれば、さらに最大で10日間)
⇒起訴された場合は保釈が許可されるまで身体拘束が継続

もちろん事件の内容によっては、数日で釈放となる場合もあり得ますが、自殺幇助罪のように生命を侵害する重大な犯罪の場合には、捜査段階で最大23日間の身体拘束が予想されます。勾留が決定してしまうと、長期に渡る身体拘束を受けることとなり、職場等への影響は避けられません。

 

逮捕から勾留請求まで

逮捕された警察署で取り調べを受けることになります。逮捕から48時間以内に事件と身柄が検察庁に送致されます。検察官の取り調べで、さらなる身柄拘束の必要があると判断した場合は、裁判官に被疑者を勾留するように請求します。
また、逮捕から勾留が確定するまでの間(最大で72時間)は、弁護士以外の面会は認められない場合がほとんどです。

 

勾留

勾留とは逮捕に引き続き身柄を拘束する処分のことを言います。
勾留するには、「罪を犯したことを疑うに足る相当な理由があること」に加え、以下の3点のうち、ひとつ以上該当することが必要となります。
・決まった住所がないこと
・証拠を隠滅すると疑うに足る相当の理由があること
・被疑者が逃亡すると疑うに足る相当の理由があること
検察官の勾留請求が裁判所に認められ、勾留決定が出された場合には、10日間の身体拘束を受けることになります。さらに、追加の捜査が必要と検察官が判断した場合にはさらに10日間勾留が延長されることがあり、最大で20日間勾留される可能性があります。

 

検察官による最終処分

検察官はこの勾留期間に取り調べの内容や証拠を精査し、起訴か不起訴かを判断します。自殺幇助罪には罰金刑が定められておらず、略式起訴を請求することはできないので、起訴される場合は、正式起訴(公判廷への出廷が必要)になります。
一旦、起訴されれば、かなりの高確率で有罪判決を受け、前科が付くことになります。
しかし、不起訴となれば前科がつくことはありません。もし、被疑者が犯行を認めていたしても、犯行を立証するに足る証拠がない、情状(被疑者の性格・年齢・境遇・行為の動機や目的など)を鑑みて処罰の必要がないなどの理由があれば、検察官が不起訴の判断する場合もあります。

「自殺関与罪を犯してしまったが、殺人罪とされてしまうのではないか。」、「今後の刑事手続きがどうなるか分からず、不安でいっぱいである。」そのような方は、ぜひ一度、弁護士にご相談ください。

 

執筆者

ヴィクトワール法律事務所

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