就活ウェブテストの代行・替え玉受検は犯罪?逮捕される?弁護士が解説

ウェブテスト及びウェブテスト代行とは

先日(2022年11月22日)、就職試験で行われるウェブテスト(適性検査)について、就活生になりすまし不正に代行する、いわゆる「替え玉受検」による逮捕者が出ました。ウェブテスト代行をした男性が逮捕され、依頼した就活生も書類送検されました。男性はSNSを利用し、受検代行を希望する就活生を募っていたとされています。

 

〇就活ウェブテストとは

ウェブテストの内容は、一般的に言語分野・非言語分野があり、言語分野では語句の意味や長文読解など、非言語分野では計算問題や数的処理などの問題が出題されます。特別な対策をせずにこのようなテストで点数を取ることは難しく、多くの就活生は就職活動と並行してウェブテストに向けた勉強をすることを求められます。

このようなウェブテストは、企業が大量の応募者を効率良く選別するツールとして活用されることが多いです。企業ごとにボーダーラインは異なりますが、一定のスコアに達していないと、次のステップに進めません。ウェブテストは、選考の最初期に行われることが多く、ウェブテストで点数を取ることが出来なければ、面接を受ける前に落とされてしまう可能性が高くなります。
日経HR「22年卒内定者調査 採用選考編」によると、ウェブテストが実施されるタイミングは、エントリーシート(ES)提出と同じタイミング(58.7%)が最も多く、ESを通過後の1次面接前(27.5%)、ES締め切り前(8.3%)と続き、この3つで95%近くになります。
現在、さまざまな種類のウェブテストがあります。中でも、「SPI(ウェブテスティング)」「SPI(テストセンター)」「玉手箱」といったテストは実施企業が多いです。また、独自のテストを実施する企業もあります。

 

〇就活ウェブテスト代行とは

現在のコロナ禍において、ウェブテストには、テスト会場で試験を受ける以外にも自宅で試験を受けることができるものがあります。カメラを連動させ本人確認してから行われるものもありますが、大量の受検者が予想される企業のウェブテストでは、監視がいないため、「替え玉受検」をしても発覚しにくいといえるでしょう。受検IDとパスワードさえ分かっていれば、本人でなくても受検できてしまうというのがウェブテストで替え玉受検が発生する要因になっています。

現在、SNS上にはウェブテストの代行を募る業者・個人が多数存在しています(今回の逮捕の報を受け、現在、多くの業者SNSアカウントは削除されているようです。)。気軽に受検代行をしたり、依頼してしまったりした方もいるかもしれませんが、これらの行為は犯罪に問われる可能性があります。

 

 

どのような刑事罪に問われる可能性があるか

一般的に、代行を請け負った人と依頼した人には、依頼した人を主犯とする共犯関係が成り立ちます。では、ウェブテスト代行にはどのような犯罪が成立するのでしょうか。

 

〇私電磁的記録不正作出・同提供罪(刑法第161条の2第3項)

今回の事件では「私電磁的記録不正作出・同提供罪」に問われました。

本罪は、「人の事務処理を誤らせる目的で、その事務処理の用に供する権利、義務又は事実証明に関する電磁的記録を不正に作った者、不正に作られた電磁的記録を不正な目的で人の事務処理の用に供した者」について処罰されるとしています。(刑法第161条の2第3項)

ウェブテストは、本来、本人の能力を測るためのものですから、当然、本人が受検することを前提としています。しかし、ウェブテスト代行行為は、本来、その企業を受ける就活生が受けるべきウェブテストの解答(点数)を、代行業者が、替え玉受検目的という不正な目的で作ったと言えるので、捜査機関は本罪を適用したと考えられます。

なお、同罪の法定刑は「5年以下の懲役又は50万円以下の罰金」で、公訴時効は5年です。上限刑が5年ということで、有印私文書偽造にも類すべき重い犯罪です。

 

〇偽計業務妨害罪(刑法第233条)

本罪は「虚偽の風説を流布し、又は偽計を用いて、人の信用を毀損し、又はその業務を妨害した者」について処罰すると規定しています。(刑法233条)

今回のような場合、特に偽計業務妨害の成立が問題となります。
「偽計」とは、人を欺き、あるいは、人の錯誤・不知を利用したり、人を誘惑したりするほか、計略や策略を講じるなど、威力(人の意思を制圧するような勢力)以外の不正な手段を用いることをいいます。つまり、人を錯誤に陥らせるような手段を用い、相手の仕事などの邪魔をした場合に、偽計等業務妨害罪が成立することになります。
「業務」は、営利を目的したものである必要はなく、精神的・文化的なものでも良いとされています。したがって、政党、労働組合、慈善団体の行う事務、学校における教育事業なども「業務」といえます。そして、「妨害」の程度については、実際に業務の妨げとなる被害が発生していなくても、発生するおそれ(危険)があれば成立します。

今回のような「替え玉受検」のような場合、通常は、業務の「公正」を害するにとどまり業務の遂行そのものを「妨害」するような性格ではないとも考えられますが、大量の「替え玉受検」が発生するなど、不正の規模が大きく、再試験を実施する必要が発生した場合には、試験の実施自体の妨害する危険を有するものとして「偽計」による「妨害」と判断される場合があります。

なお、同罪の法定刑は「3年以下の懲役又は50万円以下の罰金」で、公訴時効は3年です。本罪の法定刑は、前述の電磁的記録不正作出・同提供罪よりも軽いので、電磁的記録不正作出・同提供罪が成立しない場合に、本罪に問われる可能性があると言えるでしょう。

 

 

刑事事件化、逮捕の可能性

〇受検代行業者の(だった)方

実際に代行業者として対価を得て代行を行っていた方は、捜査機関に露見した場合は、比較的刑事事件化及び逮捕される可能性が高いと言えます。依頼者を逮捕するだけでは、いわゆる「いたちごっこ」になるだけで、代行業者を罰した方が、ウェブテスト代行という違法行為を根絶しやすいからです。

昨今は発信者情報開示も容易になりましたので、SNS上で匿名のやり取りをしていたとしても、特定される時期は早いかも知れません。また、社会的関心も高い事件であるため、積極的に捜査が行われ、逮捕された場合には実名報道となる可能性も考えられます。

 

〇受検代行を依頼した方

受検代行を依頼しただけでは、すぐに刑事事件化しない可能性もありますが、代行業者が摘発された場合は、いわゆる「芋づる式」で刑事事件化する可能性が高いです。この場合は、依頼した方は基本的に在宅事件で捜査されることが多いでしょう。
もっとも、在宅事件といえども捜査機関が、事情を確認し証拠を集めるため、会社に問い合わせる可能性が高いので、書類送検となった場合でも、刑事処分される可能性がある上、会社にも事実が露見し処分される可能性があります。

 

 

弁護士ができること

〇受検代行業者の(だった)方

ウェブテスト代行が明るみに出た現状においては、即刻、対応した必要が良いでしょう。ご自身がしたことを証拠化した上で、その顛末を文書化しすることをおすすめします。その上で、件数が少ない場合には、自首等自ら捜査機関に申告することも検討する必要があります。
また、インターネットリテラシー(インターネットの情報や事象を正しく理解し、それを適切に判断、運用できる能力)を高める教育を受けることも重要となるでしょう。
いずれにしろ、状況に応じて、とるべき対応が異なってきますので、至急、当事務所までご相談いただければと存じます。

 

〇受検代行を依頼した方

代行を依頼した方は2つのことを考えなければなりません。それは、①対捜査機関と②対会社です。
①対捜査機関については、先ほど述べたとおり、自らが依頼した業者が摘発されない限り、個別に立件される可能性は高くないかも知れません。もっとも、業者が摘発された場合に備え、準備しておく必要があります。
どのような準備が必要かなどは、事案や状況によっても変わってきますので、お気軽にお問い合わせください。
②対会社については、ウェブテスト代行を依頼して試験を受けた会社から内定を得て就職した場合、会社に対し業者に代行を依頼した事実が明らかになった場合、懲戒等の処分を受ける可能性があります。
必要に応じては、会社のコンプライアンス部に自ら申告すること等も考えられますが、どのような方針を取るべきかは、そのときの状況や就職試験の内容次第とも考えられますので、お問い合わせください。

 

Q&A

Q友人の受検代行をしてしまったのですが、逮捕の可能性はありますか?

金銭のやり取りが発生していない場合は、刑事事件化されない可能性も考えられますが、何かの拍子に刑事事件化しないとも限りません。いずれにしろ違法行為ですので、差し控えることをオススメします。

 

Qウェブテストの解答集を作成し販売していたのですが、逮捕の可能性はありますか?

著作権者の許諾を得ていることは想定できませんので、無断二次的創作となり著作権法違反(10年以下の懲役もしくは1000万円以下の罰金)となります。その他に、損害賠償請求を受けることが考えられます。
また、そのような解答集が違法にアップロードをしていることを知って、ダウンロードすることも著作権上違法となり、損害賠償請求等を受ける可能性があるのでご注意ください。

執筆者

ヴィクトワール法律事務所

刑事事件について高い専門性とノウハウを有した6名の弁護士が在籍する法律事務所です。

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