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教師が逮捕された場合の弁護活動
逮捕されてしまったからといって当然に免職となるわけではありません。
しかし、刑事処分で禁錮以上の刑(執行猶予の場合を含む)が確定すると、教師として働いている方は免職といった大きな不利益を被ることがあります。
刑事処分の結果のよっては、職を失う可能性のある方の弁護活動では、早期の段階から少しでも軽い処分を目指す必要があります。逮捕直後から弁護士に依頼することで、弁護活動の選択肢が広がります。
なぜ免職になってしまうのか?
① 欠格事由にあたる
学校教育法では「禁錮以上の刑に処された者は教員になることができない」と定めています。教員職員免許法では「禁錮以上の刑に処された者には教員免許を授与しない」と定めています。ここでいう「禁錮以上の刑」とは執行猶予付も含みます。
つまり、教員として働いている方が禁錮以上の刑が確定すると、勤務先が公立校であっても私立校であっても免職となり、教員免許も失うということになります。
【参考条文】
〈学校教育法〉
・同法第9条
次の各号のいずれかに該当する者は、校長又は教員となることができない。
一 禁錮以上の刑に処せられた者
(以下略)
〈教員職員免許法〉
・同法第3条第1項
教育職員は、この法律により授与する各相当の免許状を有する者でなければならない。
・同法第5条
普通免許状は、別表第一、別表第二若しくは別表第二の二に定める基礎資格を有し、かつ、大学若しくは文部科学大臣の指定する養護教諭養成機関において別表第一、別表第二若しくは別表第二の二に定める単位を修得した者又はその免許状を授与するため行う教育職員検定に合格した者に授与する。ただし、次の各号のいずれかに該当する者には、授与しない。
一 十八歳未満の者
二 高等学校を卒業しない者(通常の課程以外の課程におけるこれに相当するものを修了しない者を含む。)。ただし、文部科学大臣において高等学校を卒業した者と同等以上の資格を有すると認めた者を除く。
三 禁錮以上の刑に処せられた者
(以下略)
② 懲戒処分で免職になる
不起訴や罰金刑の場合は、教員免許の欠格事由には該当しませんが、教育委員会の判断による懲戒処分を受ける可能性があります。
公立学校の教員が罪を犯した場合、都道府県の教育委員会が懲戒処分を審査することになります。その審査で懲戒免職の処分を受けた場合には、職を失うことになります。懲戒処分については教育委員会で基準が定められており、学校教育の信頼を失わせる行為にあたるとされる体罰やわいせつ行為等に関しては特に厳正に処分することが示されています。
私立学校の教員の懲戒処分は、学校法人が個別に定める就業規則の懲戒規程によって判断されます。その結果懲戒免職の処分を受けた場合、公立学校の教員と同様、職を失うことになります。
例えば、東京都教育委員会作成の「教職員の主な非行に対する標準的な処分量定」には、懲戒処分(免職・停職・減給・戒告)の概ねの基準が掲載されています。免職となる主な例には以下のようなものがあります。
・体罰(児童・生徒に重い後遺症を負わせた場合)
・同意の有無を問わず、児童・生徒・保護者と性交又は性交類似行為を行った場合(未遂を含む)
・交通事故(飲酒運転での交通事故で人を死亡させ、又は傷害を負わせた場合)
・交通事故(飲酒運転以外で人に傷害を負わせ逃亡した場合)
・強盗、恐喝、横領、詐欺、窃盗を行った場合
・麻薬・覚せい剤等を所持又は使用した場合
刑事処分を軽くすること以外で弁護士のできること
懲戒処分の審査でも継続したサポートができる
刑事事件で罰金刑や不起訴処分となった場合でも、それぞれの資格の審査機関において懲戒処分が審議される場合があります。懲戒処分の審査においても弁護士が付添人などとして選任されることが認められている場合があります。適切な主張ができるよう事案をよく理解している弁護士が継続してサポートすることが効果的です。
刑事裁判での判決の内容が懲戒処分の判断に大きく影響を与えます。刑事裁判で主張すべきものを主張し、少しでも軽い判決を取ることができれば、たとえば、免職の可能性もあったところを停職で済むなど、懲戒処分も軽くなる可能性が高まります。そのためには、刑事事件の段階から、懲戒処分まで先を見越すことができる弁護士に依頼をすることが重要です。
また、懲戒処分に不服がある場合、異議の申立や、裁判所に取消訴訟を提起するなどの方法があります。そのような場合にも、弁護士がサポートすることが可能です。
実名報道のリスク回避ができる可能性がある
実名報道について明確な基準があるわけではありませんが、教師など社会的な関心の高い職業についている者が起こした事件については、実名で報道がされることが多くなります。弁護士は要望書などを通して警察・検察、報道機関などに対し、実名報道をしないよう求める働きかけをすることができます。
また、多くの場合で事件が報道されるのは逮捕の段階であるため、その後不起訴となったとしてもインターネット上に逮捕の事実が残ってしまうことが考えられます。そのような場合ではインターネット上に残っている記事に対し、削除請求をすることができます。
このように、弁護士に依頼することで、よりスムーズに社会復帰をしやすくなることが考えられます。
解決事例
【事案】
地方公務員のAさん(公立学校の教師)が自動車の運転中、歩行者優先道路の一時停止の標識がある場所で徐行しており、一時停止せず、道路に入ったところ、自転車に乗った女性と衝突してしまいました。この事故で、女性は脳挫傷、複雑骨折を負い、最初の診断書では全治3ヶ月、最終的には全治約5ヶ月の重症と診断されました。
この件に関し、検察庁は公判請求を行いました。Jさんはこのまま行けば、懲役、禁錮刑になってしまう可能性があります。Jさんは公判請求された段階で当事務所へご相談されました。
【解決方法】
当初、警察からは罰金で済むという見通しを伝えられておりJさん本人も安心をしていました。しかし、急遽、都道府県警察本庁が取り扱う事件になり、当初罰金で済むと伝えられていたものが禁錮刑になる見通しとなりました(本庁は比較的重大事件を取り扱うことが多いです)。その理由としては、下記の2点がありました。
・事故被害者の怪我が重かったこと。
・一時停止を無視していたこと
そこで、Jさんから弁護の依頼を受けた当事務所は、以下の点を念頭に置いて弁護を行いました。
① 果たして、「禁錮刑になることで、職場復帰ができなくなる」ことに値する事件なのか、という点。
② 結果は大きいものの本人の過失自体は小さいという点。
③ 全治期間が当初よりも延び、事故被害者の診断結果がおかしいという点。
そして、改めて③について調べたところ、事故被害者に医療ミスがあり、病院を変えて2度手術を受けていたことが分かりました。
当事務所は、保険会社の調査員と協力し、レントゲン写真の提出、報告書の作成、また証人として、著名な整形外科の医者に証人になってもらうなどの弁護をいたしました。
こうして、最終的に、Jさんは罰金刑で済み、失職を免れました。