目次
傷害罪とは
傷害罪は、刑法204条に規定されています。傷害罪は、人の生理的機能に障害を加えた場合に成立します。
傷害罪の客体は他人の体であるため、自分の体を傷つける自傷行為は罪には当たりません。
殴る、蹴る、髪の毛を引き抜くといった有形力の行使をした場合だけでなく、嫌がらせ電話や騒音といった精神的苦痛を与え、うつ病や睡眠障害、PTSD等に陥らせた事案についても傷害が成立するとされています。
傷害罪の刑罰
傷害罪の刑罰は「15年以下の懲役または50万円以下の罰金」と定められています。
また、暴行によって人の生理的機能に障害を加え、その結果として被害者が死に至った場合は傷害致死罪(205条)に当たることになります。この場合、「3年以上の有期懲役」となります。
全治1週間のけがを負わせると罰金?懲役?
例えば被害者に全治1週間程度のけがを負わせてしまったというケースでは、初犯の場合、罰金刑が選択されることが多いです。一方で、前科があったり、行為態様が悪質かつ示談が不成立であったりすると、懲役刑が選択される場合も散見されます。
過去の量刑報告(どの程度の犯罪でどの程度の罪の重さになるかの報告)によると、前科のない被告人が被害者の右目付近を拳骨で殴って全治1週間の右目打撲を負わせた事例で罰金15万円になったケースが報告されています。一方、前科がある被告人が被害者の頭部や顔面等を植木鉢や拳骨で殴って、全治1週間の挫創や擦過創を負わせた事例で、示談も成立しなかったというものでは、懲役1年2月の実刑になったケースが報告されています。
傷害と暴行の違い
傷害罪は、「人の身体を傷害した者」を罰する規定です。一方、暴行罪は、「暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかった」場合に、その者を罰する規定です(刑法208条)。「暴行」とは、人の身体に対し不法に有形力を行使することです。
暴行の程度は、傷害の結果を生じさせる程度のものでなくてもよいとされています。例えば、食塩を他人の顔、胸などに数回にわたって振りかける行為(福岡高判昭和46年10月11日)にも傷害罪が成立します。
また、「暴行」は、人の身体に向けられたものであれば足り、必ずしもそれが身体に直接接触することを要しないとされています。例えば、通行人の数歩手前に石を投げつける行為はたとえ命中していなくても暴行罪が成立するとされています(東京高判昭和25年6月10日)。
なお、「傷害」とは、人の生理的機能に障害を加えることと言われていますから(大判明治45年6月20日)、傷害罪と暴行罪の違いを簡単に言うと、「被害者の生理的機能に障害が生じたか否か」にあるといえます。例えば、「平手で叩く行為」が問題となった事案で、被告人が3歳の幼児の腰付近を平手で1回叩いた行為(福岡高判令和3年1月27日)は暴行罪として処罰されているのに対し、被告人が、刑事未成年である小学生らに命じて、被害児童の背中当たりを平手で多数回殴打させ、その行為により被害児童に全治約5日間を要する背部打撲、腰部打撲を負わせた行為(大津地判平成28年7月20日)は、傷害罪で処罰されています。
傷害罪で弁護士に弁護を依頼し示談をするメリット
傷害罪は、人の身体に対する侵害を内容とするもの、いわゆる身体犯ですから、被害者のいる犯罪です(これに対し覚醒剤取締法違反のように被害者がいない犯罪もあります)。被害者がいる傷害事件で少しでも軽い処分を得るためには、被害者の方と示談をし、被害者方からお許しをいただくことが重要です。ただ、当事者間で示談の交渉するのは困難である場合が多いため、刑事事件の経験が豊富な弁護士に依頼することをおすすめします。被疑者・被告人が身体拘束されている場合、ご本人が示談交渉に動くことは物理的に不可能ですから、弁護士が代理人として示談交渉に動くこととなりますが、この場合の弁護士の必要性は明らかです。
一方、被疑者・被告人が身体拘束されていない場合や身体拘束から途中で解放された場合であっても、被疑者・被告人が直接示談交渉を試みた場合に、これを許す被害者は極めて少なく、弁護士が示談交渉に臨むことには大きな意義があります。
刑事事件で示談をするメリットとして以下の点が挙げられます。
・早期釈放を目指せる
逮捕、勾留されている事件でも、示談によって早期釈放される可能性が高まります。
逮捕され、勾留が決定すると10日間、勾留延長の場合にはさらに10日間勾留されます。勾留決定は、検察が証拠隠滅の可能性や逃亡の可能性などを鑑み判断を下すことになりますが、被害者との示談の成立は、証拠隠滅や逃亡の可能性が低いと判断するに足る材料となります。勾留が却下されると、逮捕から2、3日で釈放されるため、社会生活(対会社、対学校等)への影響も少なく済みます。
・前科がつかない
示談の成立によって、不起訴処分となり前科がつかなくなる場合があります。
検察が起訴か不起訴かの最終処分を判断する上で、被害者に処罰感情があるか、その程度はどれほどなのかという点はとても重要となります。示談が成立しており、被害者から許し(宥恕(ゆうじょ)文言)をもらっている場合には不起訴処分の可能性が高まります。特に、傷害罪は個人の身体の安全を保護法益としているので、法益主体たる被害者が、被疑者・被告人を許していることは、検察官が最終的な処分を判断するにあたり、きわめて有利な事情になります。
前科がついてしまうと、就職や海外旅行、資格など様々な場面において制限を受けることがあります。
・適正な金額・内容での示談成立
加害者である被疑者・被告人の中には、法的知識の不足や自責の念から、被害者側に言われるがままに法外な金額での示談に応じる方が少なくありません。しかし、どのような事件にも適正な金額・内容での示談というものがあります。被疑者・被告人が、必ずしも被害者側に言われるがままに示談に応じる義務はありません。弁護士が示談交渉に臨むことによって、法外な金額での示談に応じることなく、適正な金額・内容での示談が成立する可能性が高まります。
・適正なプロセスでの示談成立
加害者である被疑者・被告人の中には、示談の成立自体を重要視するあまり、無理やりお金を払ってでも示談を成立させようとする方が少なくありません。しかし、示談は被害者の真意に基づくものでなければ意味がありませんし、被害者の真意に基づく書面が作成されていなければ多くの場合意味がありません。少なくとも捜査機関や裁判所には適正な示談として評価されません。弁護士が示談交渉に臨み被害者の意向を酌んだ示談書を作成することによって、捜査機関や裁判所に正当に評価される適正なプロセスでの示談が成立する可能性が高まります。また、それこそが、当事者間の紛争の究極的な解決にもなります。
示談しないとどうなる?
刑事上の責任
示談をしないと、既に逮捕によって身柄を拘束されている場合には、勾留請求がなされたり、勾留が延長されたりして、身柄拘束が長期化するおそれがあります。また、不起訴処分とならずに起訴された結果、罰金刑や懲役刑が科せられ、前科がついてしまうおそれがあります。
民事上の責任
被害者と示談が成立しない場合、民事裁判で損害賠償を請求される可能性があります。裁判では治療費、休業損害などに加え、慰謝料を請求されることが予想されます。民事裁判は判決までに時間を要するため、解決まで数ヶ月ほどかかることも多く、金銭面だけでなく時間的負担や精神的負担も生じることになります。
慰謝料の相場
裁判例を見ると、自宅玄関で両肩を突き飛ばされたことにより肩鎖関節捻挫や腰部打撲等の傷害を負ったという事案で傷害慰謝料10万円(東京地判令和元年10月15日)、交際相手から暴行を受けたことにより非器質性精神障害を負ったという事案で傷害慰謝料100万円(東京地判平成27年1月20日)が認められるなど、認められる慰謝料額にはかなり幅があるといえます。
慰謝料の額は、傷害行為の悪質性、入通院期間の長短、被害者の年齢、被害者の生活に与えた影響等、諸事情が考慮されて決まるものですので、一概には言えませんが、悪質な態様であったり、後遺症が残るなど被害者への影響が甚大であったりしない限り、数十万円から100万円の間で推移するケースが多いように見受けられます。
傷害罪のQ&A
Q.示談をしても起訴される場合として、どんなものが考えられますか?
A.まずは、加害者に前科前歴がある場合が考えられます。
このほか、犯行態様が悪質であったり、被害者に生じた結果が重い場合も、起訴されるおそれがあります。包丁や鈍器といった凶器を用いた犯行や暴行の回数が多い場合には、態様が悪質と評価されることが多いでしょう。また、一般的に全治2週間以上の怪我を負わせた場合には、結果が軽微であると評価を受けることは難しいでしょう。
Q. 正式起訴された後に、示談をしても意味はありませんか?
A. 略式起訴をされ、罰金を支払うことが確定した場合は、示談をしても量刑に影響がない以上、あまり意味はないかもしれません。ただ、この場合であっても示談が成立していれば、後日、被害者から民事訴訟を提起されないというメリットはあります。
では、正式起訴された場合はどうでしょうか。
正式起訴されると、裁判所で刑事裁判を受けなければならなくなります。示談も何もしなければ、当該傷害の悪質性や前科・前歴等が勘案されて、それなりに重い判決が下されるでしょう。
しかし、どんなに遅くとも判決を受ける前までに示談が成立していれば、裁判官は、示談が成立したことや被害者感情が緩和されたこと等、被告人にとって有利な事情も勘案した上で判決を下します。仮に、結審後(あとは判決が下されるだけの状況)に示談が成立したとしても、判決日までに弁論再開の申立て(新たに証拠(示談書)を取調べてもらう手続)をして、示談が成立したことを判決に反映してもらうようにします。
このように正式起訴された場合であっても、示談が量刑上有利な事情となることに変わりはありません。
解決事例 傷害事件で示談が成立し不起訴処分を獲得したケース
【事案の概要】
従来、恋人同士であったカップルの別れ話がもつれ、大学生の男性が女性の顔などを数発殴るなどに暴力をふるい、全治2週間程度の怪我を負わせてしました。また、その後、男性は今まで渡したプレゼント代を清算するように女性に要求をし、5000円の交付を受けました。女性はすぐに被害届を出し、翌日、男性は強盗致傷の疑いで逮捕されました。このまま勾留が長引くと、大学の学びに支障がでるのは明らかな状況でした。
逮捕翌日に、男性のご両親から相談を受け、当事務所が受任しました。
【弁護結果と弁護活動】
不起訴処分
まずは、強盗でないことを捜査機関に理解してもらうため、暴力をふるった時刻と、お金の清算を要求した時刻とが数時間離れていることを、証拠をもって、捜査機関に説明しました。
その上で、被害女性の居場所を確認し、粘り強く話し合いを続けた結果(相手方の親族が連絡役に入り、示談はやや難航しました)、最終処分直前に、男性の立ち入り禁止区を決めるなど被害者女性の安全を全面的に保証することで、相応の金額で示談に応じていただきました。
早い段階でご依頼いただいたことで、ある程度腰を据えて被害女性と交渉することができ最善の結果を得られたことを嬉しく思います。