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詐欺事件の受け子・出し子
SNSや掲示板などを中心に広がる「闇バイト」が社会問題となっています。
特に、受け子・出し子・かけ子などでは「書類を受け取るだけ、ATMからお金を引き出すだけ、電話を掛けるだけの簡単なアルバイトで高収入が手に入る」といった謳い文句で勧誘されてしまうケースが増えています。若者が気軽に加担してしまう例も少なくありません。
受け子とは
受け子とは、銀行員や市役所職員、息子の会社の上司・同僚などを装って被害者宅を訪問し、金銭やカード類を受け取る役割を指します。
出し子とは
出し子とは、被害者をだまして口座に振り込ませた現金をATMから引き出す役割を指します。
かけ子
かけ子とは、被害者に電話をかけて、現金をATMに振り込むよう指示したり、訪問者にカード・通帳を渡すように誘導する役割を指します。
受け子・出し子が問われる可能性のある罪
特殊詐欺の受け子には「詐欺罪」もしくは「電子計算機使用詐欺罪」が適用される可能性があります。出し子は「窃盗罪」に問われる可能性があります。
詐欺罪
詐欺罪とは、①人を欺いて②錯誤に陥れ③財物を交付させ、もしくは財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させる行為を指します。
受け子が、詐欺事件の主犯ではなく「人を欺く」という行為に直接関与していない場合でも、共同正犯にあたると判断されます。
例えば、組織の末端で指示されたことをやっただけであっても、幇助等の罪ではなく、関わった詐欺行為のすべてにおいて詐欺罪の責任を問われることになります。特殊詐欺事件では、同じ特殊詐欺グループが短期間に数十件、数百件の特殊詐欺を行うケースが多いため、「受け子」や「出し子」の役割を担っていた人も、知らぬうちに数十件、数百件の特殊詐欺に加担させられていることが多々あります。
場合によっては、直接的には「出し子」に成立する窃盗罪の責任も加わることがあります。「受け子」の役割しか担っていなかったとしても、特殊詐欺の計画を立てた首謀者や、「かけこ」、「出し子」等、他の役割を担った者と、相互の役割を補充・利用し合って一つの特殊詐欺・窃盗を成立させたといえるからです。
詐欺罪の法定刑は10年以下の拘禁刑です。
罰金の規定はなく、有罪判決になれば執行猶予もしくは拘禁刑が科せられます。
電子計算機使用詐欺
電子計算機使用詐欺とは、コンピューターに虚偽の情報を入力したり、不正な指令を与えて、財産上の利益を得る、または他人に得させる行為を指します。
コンピューターの普及に伴い、機械は錯誤に陥らないため人に対する欺罔行為があることが必要な詐欺罪が成立しないという問題に対処するため、本罪が設けられたとされています。
具体的には、還付金等を受け取ることができると誤信している被害者に指示をして、銀行ATMを作動させ、振込送金の操作と気付かせないまま、特殊詐欺グループが支配・管理する預金口座に振込送金する旨の操作を行わせた場合に、この電子計算機使用詐欺が成立します。
法定刑は詐欺罪と同じで10年以下の拘禁刑です。
組織犯罪処罰法
受け子や出し子として組織的な詐欺行為に加担した場合には、「組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律(組織犯罪処罰法)」が適用される可能性もあります。
組織犯罪処罰法では、以下の点に関して法律が定められています。(1条)
・組織的な犯罪に刑法の規定より重い刑を科すこと
・犯罪組織の犯罪収益の隠匿・収受を規制すること
・組織的犯罪によって得られた収益を没収・追徴すること
組織で行われた犯罪に関わった場合では、個人が犯罪をした場合よりも重い罪に問われることになります。
詐欺罪の場合では、単独犯の場合の法定刑は10年以下の拘禁刑ですが、組織犯罪処罰法が適用されると1年以上の拘禁刑になります。
窃盗罪
出し子に適用されるのは詐欺罪ではなく「窃盗罪」です。
窃盗罪は、「他人の財物を窃取」することによって成立します。
出し子は、人に対する欺罔行為をしていないので詐欺罪には問われないとされています。
窃盗罪の法定刑は、10年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金です。
関わった詐欺事件の被害額が大きく被害弁償が進んでいない場合などでは、厳しい処分が下されてしまう場合もあります。
逮捕されたら
逮捕された場合、検察官による最終処分(起訴・不起訴を決める処分)まで最大23日間、身柄拘束されることがあります。その流れは以下のとおりです。
逮捕から身柄送致 最大48時間
身柄送致から勾留請求 最大24時間
勾留 10日~20日間
起訴後勾留 期限の定めなし(最長判決が出るまで)
逮捕から勾留請求まで
基本的には逮捕された警察署で取り調べを受けることになります。逮捕から48時間以内に事件と身柄が検察庁に送致されます。検察官の取り調べで、さらなる身柄拘束の必要があると判断した場合は、検察官は、裁判官に被疑者を勾留するように請求します(勾留請求)。
また、逮捕から勾留が確定するまでの間(最大で72時間)は、弁護士以外の面会は認められない場合がほとんどです。
勾留
勾留とは、逮捕に引き続き身柄を拘束する処分のことを言います。
勾留するには、「罪を犯したことを疑うに足る相当な理由があること」に加え、以下の3点のうち、ひとつ以上該当することが必要となります。
・決まった住所がないこと
・証拠を隠滅すると疑うに足る相当の理由があること
・被疑者が逃亡すると疑うに足る相当の理由があること
検察官の勾留請求が裁判所に認められ勾留決定が出された場合には、最大で10日間の身体拘束を受けることになります。さらに、捜査が必要と検察官が判断した場合にはさらに10日間勾留が延長されることがあり、最大で20日間勾留される可能性があります。
検察官による最終処分
検察官はこの勾留期間に取り調べの内容や証拠を審査し、起訴か不起訴かを判断します。公然わいせつ事件においては、起訴につき、公判請求(正式裁判の請求)か略式請求(裁判所に書類だけ送付しての罰金刑の請求)の2種があります。
略式請求の場合を含め、一旦、起訴されれば、ほぼ確実に刑事罰を受けることになります。
不起訴となれば前科がつくことはありません。もし、被疑者が犯行を認めていたしても、犯行を立証するに足る証拠がない、情状(被疑者の性格・年齢・境遇・行為の動機や目的など)を鑑みて処罰の必要がないなどの理由から検察官が不起訴の判断をする場合があります。
弁護士のできること
示談交渉
詐欺事件を起こしてしまった場合、被害者に被害額と示談金を支払い、示談交渉をすることが一般的です。
当事務所では、被害者と示談、弁償を尽くし、告訴や被害届が提出されないよう働きかけることに努めます。また、例え告訴や被害届が提出された場合であっても、多くの被害者は、被害回復を第一に考えている場合が多いことから、被害者と示談協議を行い、告訴や被害届の取り下げをしてもらうことで、事件の立件化を防ぐ、もしくは不起訴処分を得るよう努めます。
また、仮に、詐欺罪や電子計算機使用詐欺、窃盗罪等で起訴された後であっても、被害者と示談協議をして、被害弁償をすることができたら、執行猶予判決を得られる可能性も出てまいります。
さいごに
同じ特殊詐欺グループが短期間に数十件、数百件の特殊詐欺を行うケースが多いため、「受け子」や「出し子」の役割を担っていた人も、知らぬうちに数十件、数百件の特殊詐欺に加担させられていることが多々あります。一つの特殊詐欺について逮捕された場合、他の複数の特殊詐欺に関して、再逮捕が複数回続いたり、追起訴が時には10回以上なされることも決して少なくありません。その分、勾留期間が長期化し、心身ともに辛い思いをしてしまう可能性も高いといえます。
特殊詐欺事件の被疑者・被告人という立場におかれてしまった場合は、是非、ヴィクトワール法律事務所までご相談ください。