実名報道されるのはどんな時?基準を弁護士が解説

実名報道とは

実名報道とは、事件や事故について被疑者の実名を報道することを言います。

マスメディアは被疑者の実名、年齢、職業、住所、逮捕容疑といった情報や、顔写真や逮捕時の映像などを報じます。場合によっては被害者の実名が報道されることもあります。

実名報道がない場合では、逮捕の事実を家族など一部の間でとどめておくこともできますが、実名が報道されると、インターネット時代の昨今では、被疑者が逮捕された事実が広く知られてしまうことになるので、さまざまな不利益が生じることが予想されます。

 

いつ実名報道されるのか

実名報道が行われるタイミングは、基本的には、逮捕された時、身柄送検時、起訴時、有罪となった場合は判決が出た時が多いとされています。

 

実名報道の問題点

事件そのものに対する影響と、本人や家族の日常生活に対する影響があります。

1 事件そのものに対する影響

被疑者が逮捕された時点では、推定無罪の原則があります。つまり今後の捜査の状況次第で無罪となる可能性もあるということですが、世間一般では実名報道されると、犯罪者として扱われてしまうことが多いでしょう。

2 本人や家族に対する日常生活に対する影響

現在のインターネット時代からすると、一旦、実名報道がされてしまうと、報道記事だけでなく、いわゆる「まとめサイト」などで必要以上にプライバシーが曝されてしまうこともあります。その影響は、本人だけではなく、家族にも及びかねません。

実名報道の基準

実名報道の可能性が高い場合

実名報道に明確な基準があるわけではありませんが、下記のような場合では実名報道されてしまう可能性が高いといえます。

・社会的関心の高い事件

社会的関心の高い事件は実名報道されやすいです。

例えば、持続化給付金詐欺などタイムリーに注目を集めている事件では実名報道の可能性が高いです。

・重大事件である場合

殺人・強盗といった法定刑の重い重大犯罪は、実名報道の可能性が高いです。

・被疑者の職業等社会的な関心が高い地位にある場合

社会的な関心の高い職業についている者や著名な組織に所属している者が起こした事件については、軽微な事件でも実名で報道がされることが多くなります。

例えば、芸能人、医師、弁護士、教師、大手企業の社員、有名大学の学生などです。

実名報道がされない場合

反対に実名報道がされにくいのは以下のような場合です。

・軽微な事件

・一般人の起こした極めて軽微な事件(軽微な万引き、軽い交通事故など)

・被疑者に精神疾患がある場合

・被疑者が未成年である場合

少年法では、年齢が20歳未満の少年については可塑性(今後の更生可能性の高さ)に鑑み、実名や年齢、住居や容ぼうなど個人が特定できる記事や写真を報道することは原則として禁止されています。

もっとも、令和4年少年法改正後は、18歳19歳の少年の実名報道が一部解禁されました。実名報道が可能になるのは、逆送(家庭裁判所が成人と同じ刑事事件として扱う旨を判断して、事件を検察に送り返すことをいいます。)の対象となる殺人・強盗・強制性交等罪といった重大事件の被疑者になります。 

 

弁護士ができること

1 捜査機関への陳情・交渉

弁護士は意見書などを通して警察・検察、報道機関などに対し、実名報道をしないよう求める働きかけをすることができます。

弁護士が実名報道を止めることは簡単ではないですが、被疑者の置かれている状況を陳情するなどして、捜査機関へ働きかけを行うことができます。

 

2 記事の削除要請

多くの場合で事件が報道されるのは逮捕や送検の段階であるため、その後仮に無罪や不起訴となったとしても、インターネット上に逮捕を報じた記事などが残ってしまうことが考えられます。そのような場合でもインターネット上に残っている記事に対し、弁護士が削除請求をすることができます。

 

3 会社・学校との交渉

実名報道されてしまった場合、会社や学校を解雇・退学にされてしまうということも考えられます。そのような場合でも、弁護士が的確に被疑者の置かれている状況を説明することができます。

起訴された場合、身柄事件でなくとも自宅待機となり、判決内容によって、会社や学校が最終的にどのような判断を下すか決めるという組織も多いので、弁護士に依頼し少しでも軽い処分や判決を獲得することが大切です。

 

解決事例

(事例)

死亡交通事故(自動車運転過失致死事件)を起こし、起訴され、被害者参加が行われるなど、被害者の遺族の被害感情が強い事案で、事故直後に逮捕されたときから案件の依頼を受けました。この段階で、既に、被疑者の方の実名は、地元新聞社に報道されている状況でした。

(解決方法)

 まず、被疑者の家族や婚約者の協力を得て身柄引受書を示すなどして、被疑者の方の身柄を逮捕直後に解放していただきました。また、起訴された後も、被害者側に謝罪を重ね、最終的には、裁判所に本人の内省を理解していただき、無事に執行猶予判決を得ることができました。

 この一連の流れを、地元新聞社に伝え、記事の削除を求めたところ、速やかに対応していただけました。

【コメント】

 一連の弁護に早期に携わらせていただいたことで、弁護人としても事件の詳細を把握でき、執行猶予判決を得た後、速やかにマスコミに対して記事の削除の要請をすることができました。

 このように早い段階で事件に関わらせていただくことで、実名報道の被害を最小限に食い止めることができる場合があります。

執筆者

ヴィクトワール法律事務所

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