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脅迫罪とは
脅迫罪とは「生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫した」場合に成立します。
刑罰は、2年以下の懲役刑または30万円以下の罰金刑です。(刑法222条第1項)。
脅迫罪の被疑者になってしまった場合でも、前科前歴がなかったり、脅迫の態様が悪質性の低いものであったりすれば、不起訴や略式裁判での罰金刑になる可能性があります。
一方で、過去に盗撮事件で罰金刑に処された被告人が、担当検事の所属する検察庁ホームページに脅迫文言を匿名で入力して送信し、担当検事と盗撮事件における被害者の父に対して脅迫行為に及んだという事案で、被告人が懲役1年2ヶ月の実刑に処されたケース(津地判令和2年8月18日)もあり、脅迫罪は決して軽微な犯罪とはいえません。
脅迫罪の成立要件 害悪の告知とは
会話やSNSのやり取りの中で、乱暴な発言をしてしまうこともあると思います。
そんなとき、「自分の発言は、脅迫罪に該当してしまうのではないだろうか。」、「もし逮捕されてしまったらどうしよう。」とお悩みになる方が多くいらっしゃいます。
乱暴な発言をすることは道徳上問題があるかもしれませんが、当該発言について脅迫罪が成立するかどうかはまた別の問題です。
当該発言が脅迫罪に当たるかどうかを見極めるポイントは、①誰に向けた発言か(客体)、②何に対する害悪の告知か(害悪の対象)、③一般人を畏怖させる程度の害悪を告知したか(程度)の3点です。
それぞれ確認してみましょう。
脅迫罪の対象
脅迫罪の客体にあたるのは、害悪の告知をされている本人とその親族になります。(刑法222条1項、2項)
恋人や友人などは含まれません。そのため、「お前の恋人を殺すぞ。」「お前の友達を殺すぞ。」などと言った場合では脅迫罪にはあたらないことになります。
害悪の告知は相手方に知覚されなければならないため、被害者は自然人でなければいけないとされています。法人に対する脅迫罪は成立しない、というのが裁判例・通説の理解です。
もっとも、法人に対して害悪を告知したところ、それが結果として当該法人の代表者等を畏怖させる内容であれば、その代表者等に対する脅迫罪が成立する余地はあります。
「生命、身体、自由、名誉又は財産」とは
「生命、身体、自由、名誉又は財産」に対する害悪の告知の具体例は、以下のようになります。
生命への害悪の告知 「お前を殺す」「お前の親を殺す」
身体への害悪の告知 「殴るぞ」
自由への害悪の告知 「監禁するぞ」
名誉への害悪の告知 「マスコミにばらすぞ」
財産への害悪の告知 「お前のペットを殺すぞ」
害悪の程度
脅迫罪の脅迫は、「一般的に人を畏怖させるに足りる」程度の害悪の告知だとされています。
告知される害悪は、実現する可能性のない虚偽のものでもよいが、直接または間接に行為者によって左右されると被害者に思わせるに足りるものである必要があります。
行為者が左右しうる事実であれば、適法な事実の告知であっても脅迫に該当しうるとされています。例えば、万引きをした女性に対し、「性交に応じてくれないならば、警察に通報するぞ。」と言うなどした場合です。
他罪との違い
強要罪
脅迫罪は単純に人を脅した場合、強要罪は人を脅かすだけでなく、それにより「人に義務のないことを行わせたり、権利の行使を妨げたりした場合」に成立します。
恐喝罪
恐喝罪が成立するためには、他人に財物を交付させるための手段としての暴行・脅迫と、暴行・脅迫(恐喝行為)によって畏怖した相手方の交付行為による財産の移転、その因果関係が必要となります。
脅迫罪で逮捕されたら
身体拘束が予想される期間
逮捕された場合、身体拘束が予想される期間は下記の通りです。
⇒逮捕されると48時間以内に検察官送致
⇒検察官送致から24時間以内に勾留請求
⇒勾留決定がなされると10日間(勾留延長があれば、最大でさらに10日間)
⇒起訴された場合は保釈が許可されるまで身体拘束が継続
逮捕から検察庁への身柄送致 最大48時間
身柄送致から勾留請求 最大24時間
勾留 10日~20日間
起訴後勾留 期限の定めなし(保釈もしくは執行猶予付き判決が出るまで)
事件の性質上、被疑者が「否認」をしている場合は、逮捕される可能性が高まります。逮捕後、検察官から勾留請求をされ、裁判官が勾留決定をした場合には、原則10日間身体を拘束されることになります。勾留延長請求がなされれば、最大でさらに10日間身体を拘束される場合もあります。
身体拘束から解放されるためにも、早期に弁護士に依頼することが大切です。
脅迫罪の逮捕の可能性
令和5年5月1日、「北海道知事が仕事をしなかったらころしにいきます」とインターネット掲示板に書き込み、北海道知事を脅迫した人物が逮捕されました。この事件は、書き込みがあった翌日に、道庁から「北海道知事に殺害予告している人物がいます」と110番通報があったことで、発覚しました。
また、4月29日には、知人である30代女性に「腹が立ったらぶっ壊す」「言われて欲しくない内容をばらす」などと言ったメッセージを携帯に7回送ったとして、飲食店を経営する男性が脅迫罪で逮捕されたケースもありました。この件は、被害女性が警察に相談したことで発覚しました。
近年、インターネット上での脅迫行為やSNSを用いた脅迫行為について、被害者から被害届が出されたり、第三者が警察に通報したりすることで、刑事事件化したり、逮捕に至ったりするというケースが増えているようです。
脅迫罪は、比較的逮捕されやすい類型の犯罪といえます。
脅迫罪の事例紹介
脅迫罪の報道事例紹介
令和6年6月、男性Aが、脅迫罪及び強要罪で書類送検されました。
男性Aの被疑事実は、役所の担当者の対応に不満をもち、令和5年3月、夜間に職員2人を自宅に呼びつけ、翌日未明まで約8時間、「木刀で後ろからぶち破ってもいい」「家はわかる。いなかったら嫁もいるだろうから待たせてもらう」などと脅したり、謝罪を迫ったりしたというものです。
この事件は、被害者の家族が刑事告発をしたことを契機として、捜査が開始しました。
脅迫罪で逮捕された場合に弁護士ができること
脅迫罪の弁護活動
脅迫行為をしてしまった場合には、相手方に謝罪を申し入れ、示談を試みることが大切です。
もっとも、被害者の方は、加害者と直接話をしたくないという場合が多くあります。
脅迫行為をしてしまった、相手にどう謝罪すればいいか分からない…という方は、ぜひ一度弁護士に相談されることをおすすめします。
また、示談を試みると同時に、捜査機関に対し、当該事件の発生経緯や背景事情等を伝え、適切な処分がなされるよう申し入れる活動を行うこともあります。
日本語は他の言語に比べて、主語や目的語が欠落していても、前後の言葉・会話のニュアンス等から内容を判断するなど、あいまいな言語といえます。脅迫罪にいう「害悪の告知」の多くは、このあいまいな言語たる日本語によるものゆえ、時として、語り手と受け手の認識に齟齬が生じることもあり得ます。
脅迫罪の嫌疑を受けてしまった方の中には、「相手方を畏怖させる目的で発言したわけではなかったのに…」と感じておられる方もいらっしゃるかと思います。
脅迫罪の事件でお悩みの方は、是非、ヴィクトワール法律事務所までご相談ください。