事案の概要
川崎さん(仮名)は、大人気アイドルグループAの10年来のファンで、ファンクラブにも入会していました。Aのライブチケットは、ファンクラブの抽選で当選しないと入手困難なチケットだったため、川崎さんは家族や友人にAのファンクラブに入ってもらい、毎回チケットに応募してもらっていました。そのおかげで、川崎さんは、毎回平均して3枚から5枚のチケットを入手できるようになりました。
川崎さんは日本全国のライブに出かけていたため、交通費や宿泊費等の出費も多かったことから、これらの経費を賄いたいという思いが芽生えました。そこで川崎さんは、チケット転売サイトにてチケットを定価の10倍の値段で出品するようになりました。
川崎さんは、令和4年1月にB県で実施されたAのライブチケットをチケット転売サイトを介して、定価の10倍の価格で転売しました。
その翌年、令和5年3月に突如、B県警察C警察署の警察官が、東京の川崎さんの自宅にやってきて、捜索差押がなされました。また、川崎さんの自宅近所の警察署にて、川崎さんの事情聴取もされました。
突然の出来事に驚いた川崎さんは、捜索差押と事情聴取がなされた翌日、弊所に相談にいらっしゃいました。
弁護士は、直ちにC警察署に対し、川崎さんの弁護人選任届を提出し、弁護人としての活動を開始しました。
もっとも、捜索差押から約半年後、川崎さんはC警察署に突然逮捕されてしまいました。川崎さんは東京に住んでいましたが、B県で行われたライブのチケットの転売で逮捕されたため、東京から離れたB県のC警察署に移動させられることになりました。
弁護の流れ
身柄の早期解放
弁護士は、すぐにC警察署に赴いて、川崎さんと接見をしました。
逮捕の翌日に、B地方検察庁での弁解録取手続と、B地方裁判所での勾留質問が実施されるのに合わせて、弁護士は、「勾留の必要性はないこと」、特に、任意の取調べと捜索差押から逮捕までの約半年間、川崎さんは逃亡も罪証隠滅もしておらず、むしろ川崎さんの側から次の取調べの予定を確認するなど、捜査協力の態度を示していた旨の意見書をB地方裁判所に提出したところ、裁判官も「勾留の必要性がない」として、川崎さんはこの日のうちに釈放となりました。
転売で得た利益の返還
弁護士は、担当検察官に連絡をし、川崎さんが反省していることや罪を認めていることを伝えた上で、チケットを購入した方にチケット代金全額を返金したいと考えていることを話しました。
担当検察官経由でチケットを購入した方に連絡をとったところ、「是非、チケット代金全額を返金してもらいたい。」という回答だったので、弁護士はその方の住む福岡県まで赴き、川崎さんから預かったチケット代金全額を返金しました。
不起訴処分獲得
その後、川崎さんは2、3回ほどC警察署にて任意の取調べを受け、福岡地方検察庁でも一度、任意の取調べを受けました。
担当検察官は最終的に、川崎さんを不起訴処分としました。
最後に
チケット転売サイト等では、毎日何十件、何百件もの興行チケットの高額転売がなされています。不正転売をしている人が全員、検挙されているわけではありませんが、だからといって、「みんながやっているから、私も不正転売しても大丈夫だ。」と思うのは危険です。
いつ、どのタイミングで捜査機関から連絡が来るかわかりません。
また、チケット不正転売に憤りを感じている芸能事務所も多く、その強い被害感情を酌んで、捜査機関が積極的に動くケースも多くみられます。逮捕に至るケースも決して少なくありません。
この事案では、不起訴処分を得ることができました。
しかし、チケット不正転売禁止法は、「チケットの適正・公平な流通を守る」という社会的法益を保護する法律です。興行主との間で示談等が成立しない限り、チケットの適正な流通秩序を乱したことに対する補填はなされていないとして、略式起訴になっていた可能性も否定できない事案でした。
チケット不正転売禁止法違反の事案で、捜査機関から連絡があった方やお困りの方は、少しでも早く、弁護士にご相談されることをお勧めいたします。
ヴィクトワール法律事務所までご相談ください。