事案の概要
渡会義雄さん(61歳、男性)は、飲食店を経営していました。
酒屋Aから酒類を卸してもらっていましたが、渡会さんの店の経営が悪化してしまったため、Aに対する令和3年5月分の代金75万円を支払うことができませんでした。
Aから渡会さんに対して、何度も支払いの請求がありましたが、渡会さんは支払いができなかったため、Aからの連絡を一切拒絶してしまいました。
渡会さんが無視し続けるため、令和3年3月、Aは東京簡易裁判所に対して、『支払督促』を申し立てました。東京簡易裁判所から渡会さん宛に、支払督促申立書が届いたものの、渡会さんはどうしたらよいかわからず、裁判所からの書面や連絡にも一切応じずにいました。
更に、Aは令和4年1月、東京簡易裁判所に対し、『財産開示手続』を申し立てましたが、渡会さんはこれにも応じず、財産目録を提出せず、財産開示期日を無断欠席してしまいました。
令和5年2月、警察から渡会さんに対し、「Aさんに対する件で話を聞きたい」という連絡がありました。初回の事情聴取を受けた翌日、渡会さんは、弊所に相談にいらっしゃいました。
弁護活動の流れ
■事実関係の把握
(弁護士)
渡会さん、まず、Aに対して、いつを支払期限とする、いくらの不払いをしてしまったのか、教えてください。また、東京簡易裁判所から届いた支払督促関連の書類や、財産開示手続に関連する書類を見せてください。
(渡会さん)
すみません、Aさんに対して申し訳ないと思っていて、でもどうしたらよいかわからなかったので、裁判所から届いた書類はすべて開封しないで捨ててしまいました。Aさんに対する発注書等も捨ててしまっていて…今となっては私には何もわからないんです…。
弁護士は、渡会さんから委任状をいただき、すぐに東京簡易裁判所にて、支払督促や財産開示手続に関する書類を閲覧・謄写しました。
その結果、Aに対する債務の内容や、支払督促や財産開示手続の中で、どのような出来事が起きていたのか、詳細を把握することができました。
示談交渉
(弁護士)
渡会さん、支払督促に何も対応しなかったために、東京簡易裁判所はAの渡会さんに対する75万円の支払義務を認めました。
その後、Aは渡会さんから75万円を回収するために、強制執行をしようと考えたみたいですが、これが功を奏さなかったため、新たに「民事執行法の財産開示手続」を申し立てていました。しかし、東京簡易裁判所からの、財産開示手続期日への呼出に対して、渡会さんが無断欠席したり、財産目録を提出しなかったため、Aは警察署に対して、民事執行法違反として被害届を提出したようです。
(渡会さん)
えーっ!!民事の問題なのに、刑事事件になるなんて…
私には前科がついてしまうのでしょうか…
(弁護士)
Aに対して、謝罪や支払いと引き換えに被害届を取り下げてもらえれば、不起訴処分になる可能性がありますが…
(渡会さん)
是非、お願いします!幸い、今、経営が上向きになったので、今なら75万円をお支払いすることができます!
弁護士は、Aに連絡をとり、渡会さんの謝罪と支払いの意向を伝えました。
交渉を重ねた結果、示談がまとまりました。
■不起訴処分獲得
その後、渡会さんの事件は東京地方検察庁に送検されました。
担当検察官は、Aに対して、被害届取下げの意思を確認した上で、渡会さんを不起訴処分としました。
最後に
民事執行法改正前までは、財産開示手続への期日を欠席したり、出席しても虚偽の報告をした場合、30万円以下の過料が課されるのみでした。そして、この過料が課せられるケースもほとんどありませんでした。
ゆえに財産開示手続の存在意義が問題となっていたところ、令和2年4月1日、改正民事執行法が施行され、「50万円いかの罰金又は6月以下の懲役」という刑事罰が科されることになりました。
渡会さんのように、「民事手続に反したからといって、刑事事件化することがあるなどあり得ない」と思っておられる方がいらっしゃることと思います。
民事執行法違反の事案で、捜査機関から連絡があった方やお困りの方は、少しでも早く、弁護士にご相談されることをお勧めいたします。ぜひヴィクトワール法律事務所までご相談ください。