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業務に対する罪
刑法は、業務に対する罪(刑法第35章)を定め、人の業務を保護するために、虚偽の風説の流布、偽計、威力などを用いて他人の業務を妨害した場合について刑罰を定めています。業務に対する罪には、その手段別に、偽計等業務妨害罪、威力業務妨害罪、電子計算機損壊等業務妨害罪があります。
業務妨害罪における業務とは、一般的に想像されるような仕事だけでなく、利益の追求に関しないボランティアやサークル活動についても該当し得ます。また、無許可で行われている違法営業についても業務に該当するとされた判例があります。
偽計等業務妨害罪
虚偽の風説の流布によるものを含む偽計等業務妨害罪の法定刑は刑法233条に「3年以下の懲役又は50万円以下の罰金」と定められています。
偽計等業務妨害罪の要件
偽計等業務妨害罪が成立するには下記のいずれかの手段による必要があります。
・虚偽の風説を流布する
・偽計を用いる
・いずれかの手段で他人の業務を妨害する
虚偽の風説とは根拠のない風評を不特定多数のものに伝播する行為です。偽計とは、他人に錯誤を生じさせる詐欺的手段を指します。つまり、人を錯誤に陥らせるような手段を用い、根拠のない情報や嘘を広めた場合に偽計等業務妨害罪が成立することになります。
業務の妨害は、実際に業務の妨げとなる被害が発生していなくても、発生するおそれ(危険)があれば成立します。
具体例
・「○○店で買った商品に虫が入っていた」と虚偽の情報をインターネット上に書き込んだ。
威力業務妨害罪
威力を用いて人の業務を妨害した者は威力業務妨害罪に該当する場合があります。
233条の偽計等業務妨害罪と同様に、威力業務妨害罪の罰則は偽計業務妨害罪と同じく3年以下の懲役または50万円以下の罰金です(刑法234条)。
威力業務妨害罪の要件
・威力を用いて
・他人の業務を妨害する
「威力」とは人の意思を抑圧するに足る勢力を指します。殴る・蹴るといった有形力の行使だけでなく、騒音を繰り返す、クレーム電話を何度もかけるといった場合も威力に該当します。
前述のように業務の妨害については、実際に業務の妨げとなる被害が発生していなくても、発生するおそれ(危険)があれば成立します。
具体例
・1日に何百件もクレーム電話をした。
偽計等業務妨害と威力業務妨害の違い
偽計等業務妨害罪と威力業務妨害罪の違いはその手段にあります。業務妨害の手段が、偽計等業務妨害罪の場合は「虚偽の風説の流布」又は「偽計」、威力業務妨害罪の場合は「威力」となります。
例えば、公共交通機関に爆破予告のメールを送り、避難や警備を行うという被害が生じた事案では偽計業務妨害罪と威力業務妨害罪のどちらが成立するのでしょうか。
爆破予告のメールを送る行為は、人を欺く行為であり、かつ人に対する脅迫行為であると言えるので、どちらにも問われる可能性があります。
近年話題の事件について
インターネットやSNSの普及に伴い、デマやフェイク画像が社会問題になっています。気軽にアップしてしまっても、拡散しただけであっても犯罪に問われる可能性があるので注意が必要です。
デマ画像
大雨に伴う水害に際し、静岡県の街が水没したかのような写真が投稿されました。この写真は、AIが作成したフェイク画像でしたが、投稿は拡散され、虚偽の画像を信じ込んでしまう人が続出しました。
このような偽の画像の投稿により、警察や消防等の業務を妨害したと判断される場合は、偽計業務妨害罪に問われる可能性があります。偽画像であることを知らないで拡散してしまった場合、故意がないので刑事罰に問われることはありませんが、民事上の責任追及のおそれはあります。
バイトテロ
飲食店などで働くアルバイト社員が、勤務先で提供する食品を不衛生に扱ったり、備品や調理器具を使って悪ふざけをしたりをしている動画や写真をSNS上にアップし、その会社に損害を与えることが社会問題となっています。当該投稿により、店舗が休業や閉店を余儀なくされたり、会社のイメージダウンに伴う売り上げの低下など経営に悪影響を及ぼす事態も生じることから、バイトテロと呼ばれています。
バイトテロを行った社員には、刑事上と民事上の法的責任が生じることとなります。行為の程度や投稿の内容により、どのような罪に抵触するかは異なりますが、偽計業務妨害罪や器物損壊罪に問われる可能性があります。
回転寿司での迷惑行為
飲食店に来店した客が、共用の醤油差しの注ぎ口を舐めるなどした行為や、アルコールスプレーを寿司にかけるなどの行為等の迷惑行為を撮影した動画をSNS上にアップするという出来事が注目を集めました。動画に写っていた人物、動画を撮影した人物が逮捕されたり、被害に遭った会社の株価が一時暴落するなどさまざまな問題が生じています。
この件では威力業務妨害で逮捕されましたが、この他に偽計業務妨害罪、器物破損罪などの刑事上の責任、更には民事上の損害賠償が生じる可能性もあります。
民事上の責任は、迷惑行為動画拡散によって衛生面等の信頼が損なわれ、結果として当該被害店舗の売り上げが低下した場合や、当該被害店舗の運営会社の株価が暴落した場合などに、これら低下分・暴落分を賠償額として請求される可能性も考えられます。加えて、別途慰謝料請求が加算されることもあり得ます。被害者が企業である例が多いこともあり、その損害賠償請求額は相当高額になる傾向があります。
また、このような迷惑行為を未成年者が行った場合、少年事件として原則、家庭裁判所の下で処遇が決せられます。民事上の責任も、未成年者の監督義務者である親に対し、損害賠償請求がなされる可能性があります。
弁護士ができること
万が一加害者(被疑者)として逮捕された場合には、長期にわたる勾留や、実名報道、起訴され前科がついてしまうなどのおそれがあります。そのような状況になれば、現在の社会生活に大きな影響を与えることは避けられません。
被疑者それぞれの状況によって、警察や検察の判断も異なってきます。逮捕や、長期の勾留、前科がつくことを防ぐためには、早期に弁護士に相談することが重要です。弁護士は警察や検察へ書面や面談を通じた働きかけや、被害店舗との示談交渉、被疑者やその家族のために動くことができます。
専門の知識を持った弁護士は、被疑者とその家族に寄り添い、勾留や起訴、実刑判決を回避するために尽力します。
業務妨害罪の刑事告訴
当事務所では、業務妨害罪の刑事告訴についても被害者側からご依頼をお受けすることができます。業務妨害罪の告訴の対象となるのは、自社の社員、客などさまざま考えられますが、それぞれに適した方法で刑事告訴を検討することができます。
業務妨害罪の解決事例
解決事例1~インターネット上の書き込み
当事務所は、業務妨害罪のうちインターネット上の書き込み、メール等について、加害者側の依頼を受け、刑事弁護を行った実績を多数有しております。
加害者がインターネット上で特定の会社に対し反復継続的に脅迫的な書き込み、メール等を行ってしまっていた事例では、刑事弁護を行い、最終的には被害会社に対する被害弁償、削除等の事後措置の誓約等を行い、加害者は全ての件について不起訴処分となりました。さらに、加害者の所属する会社との間でも、状況の報告及び交渉を行い、加害者は所属する会社を解雇されずに済みました。
解決事例2~いたずらの書き込みと威力業務妨害
自宅のパソコンを使って、鉄道会社のお問い合わせフォームから、「電車を燃やすぞ」、「●月●日、●時に■■駅を爆破する」などといった文言を送ってしまったAさん。Aさんは放火や爆破を本気で行うつもりはなく、悪ふざけのつもりで書き込んでしまったにすぎませんでした。
しかし、鉄道会社はAさんが爆破予告をした日時に当該駅のパトロールを強化するなど、対応を余儀なくされてしまいました。鉄道会社が威力業務妨害の被害届を提出したことをきっかけとして警察の捜査が進み、放火や爆破予告が発信されたパソコンのIPアドレスからAさんの犯行であることが発覚し、Aさんは逮捕されてしまいました。
Aさんの両親から依頼を受けた弁護士は、鉄道会社に連絡を取り、示談交渉を行いました。示談がまとまった結果、Aさんは不起訴処分となりました。
早期に弁護依頼を頂くことによって、当事務所の弁護士は事案に応じた適切な対応を取ることができます。業務妨害を巡るトラブルをお抱えの方は、ぜひ当事務所に早期にご相談ください。