捜査の端緒とは?刑事弁護に詳しい弁護士が解説

捜査の端緒とは

捜査は、捜査機関が「犯罪があると思料するとき」に開始されます。
捜査機関が特定の犯罪事件の存在に関する嫌疑を抱くきっかけを「捜査の端緒」と呼び、以下に列挙したものがその代表例になります。
捜査の端緒は様々ありますが、統計上は、被害者からの届出(被害届・告訴)をきっかけに捜査を開始することが多くなっています。

1 職務質問

警察官は、異常な挙動その他周囲の事情から合理的に判断して、①何らかの犯罪を犯し、もしくは犯そうとしていると疑うに足りる相当な理由のある者、又は、②既に行われた犯罪について、もしくは犯罪が行われようとしていることについて知っていると認められる者を停止させて質問することができます(警察官職務執行法2条1項)。
職務質問は任意捜査であり、犯罪の予防・鎮圧等の目的達成のため、必要最小限の範囲で行われなければなりません。

2 所持品検査

判例は、職務質問に付随する行為として所持品検査を許容していますが、所持品検査は職務質問と同じく任意捜査にあたりますので、無理矢理検査することは許されません。
例えば、職務質問を受けた人が所持品について口頭で説明したり、自ら進んで所持品を見せたりした場合には、職務質問に付随する行為として、適切なものと言えるでしょう。
一方、警察官が対象者のポケットに無理やり手を差し入れて所持品を取り出したり、勝手にカバンを開けて中身を確認したりする行為は、もはや職務質問に付随する行為の範囲を逸脱した不適切なものと考えられるでしょう。

3 自動車検問

警察官が進行中の自動車を停止させて、当該運転手などに質問をし、犯罪の予防・検挙をはかることをいいます。
自動車検問には、交通違反の取締りを目的とする交通検問、不特定の一般犯罪の予防・検挙を目的とする警戒検問、具体的な犯罪が発生した場合に、犯人検挙と情報収集のために行われる緊急配備検問があります。

4 現行犯逮捕

罪を行っている者および現に罪を犯した者を逮捕することです。警察官だけでなく一般人が行う現行犯逮捕も認められています。
もっとも、最近は、いわゆる私人逮捕系Youtuberなどが行う過激な現行犯逮捕が社会的問題にもなっています。現行犯逮捕の要件を満たさない私人による逮捕行為が逮捕罪に当たってしまったり、真犯人ではない人をあたかも犯人であるかのように捕らえた映像を放送・配信する行為が名誉毀損罪に当たってしまったり、逮捕者自身が刑事事件に巻き込まるおそれもありますので、十分にご注意ください。

5 検視

死体が発見された際、捜査機関がその死亡が犯罪によるか否か判断するため、その死体の状況を見分することです。
検視には、法医学的知識も必要であり、刑事調査官あるいは検視官と呼ばれる特殊な訓練を受けた司法警察員が、医師の立会いをもとめて、検視をしているのが実情です。
なお、検視は外表検査を行うものであり、医師による死体の解剖とは異なります。

6 自首

犯罪が全く捜査機関に発覚していない場合や犯罪が発覚しているが、
その犯人が誰であるか全く発覚していない場合に、捜査機関に発覚する前に出頭をすることで、その刑を減軽することができるとされています。
自分では自首に当たると思っていても、実は水面下で捜査が進んでいて、犯人が誰であるかが既に特定されている場合もあります。しかし、自ら進んで犯罪を申告した事実は、検察官による終局処分や裁判官による判決の際に、有利な情状事実になりますので、法律上の自首が成立しないからといって、申告行為が無駄になるとは言えません。

7 告訴

被害者その他一定の者が、捜査機関に犯罪事実があったことを申告し、処罰(訴追)を求める意思表示をいいます。
基本的には書面を提出して行います。
刑事訴訟法242条は、告訴を受けた司法警察員は、速やかにこれに関する書類及び証拠物を検察官に送付しなければならないと定め、同法260条では、検察官は告訴のあった事件について終局処分をしたときには速やかにその旨を告訴人に通知しなければならないと定めています。
このように、告訴受理後の捜査機関の責任は重大なものであるため、捜査機関は、告訴を受理することに対し、やや消極的な姿勢が見られます。告訴の受理には高いハードルがあるのが現状ですので、告訴をお考えの方は、まず弁護士にご相談されることをおすすめします。

8 告発

告訴権者および犯人以外の者が、捜査機関に犯罪事実を申告し、その訴追を求める意志思表示です。告発が大きな犯罪を掘り起こす契機となることもあります。

9 被害届

犯罪にあった被害者が、捜査機関に犯罪の被害にあったことを届け出ることです。
処罰を求めることまでは、要求されません。
口頭による届出もできますが、その場合は警察官等が内容を確認して書面にしています。
被害届には、極めて簡単な事実しか記載されませんが、内容に誤りがないかどうか、よく確認してから署名・押印しましょう。
被害届を受理してもらい、その後、捜査が進展した場合は被害状況について詳しく聞かれ、
供述調書に署名と押印を求められることがあります。供述調書への署名・押印時も内容をよく確認し、誤りがあったら、警察官に対し、修正や削除を依頼してください。また、再現実況見分といって、事件当時の状況を再現し、その様子を写真撮影することもあります。
このようにして収集された証拠は、被疑者を逮捕したり、取り調べたりするときの資料として使われることがあります。

10 通報

警察は、通報を被害届と並んで捜査の端緒としています。被害届は被害にあった人からの届出ですが、通報は被害者以外でも犯罪の疑いがあるようなものであれば、電話による匿名の通報でも受け付けています。
書面による必要はなく口頭でも受け付けてくれます。
しかし、匿名の通報では、誰からの通報か確認できませんし、捜査を開始するかどうかも警察の判断によることになり、捜査の進行状況や結果も教えてもらえないことになります。
「いつ、どこで、どんな事件が起こっているのか」をきちんと伝えるようにしましょう。

11 聞き込み

犯罪捜査規範59条は、警察官は、「新聞紙その他の出版物の記事、インターネットを利用して提供される情報、匿名の申告、風説そのほか広く社会の事情に注意するとともに、警ら、職務質問等の励行により、進んで」犯罪に関する情報収集に努めなければならないとしています。
犯罪が発生しなくとも、周辺の方々の家を訪問し、世間話をしながら犯罪の存在を聞き出し捜査の端緒としている場合や、犯罪が発生した段階で、犯人を特定するため、周辺の方々から当時の状況、特に目撃の有無や目撃状況等を尋ね、その過程で犯人を絞り込んでいく場合も捜査の端緒といえるでしょう。

さいごに

犯罪被害に遭ってしまうことも、被疑者の立場に置かれてしまうことも、人生においてそう多くはないと思います。どちらの立場に立ったとしても、専門家の支援を受けつつ、適切な対応をしていくことが大切です。
刑事事件に巻き込まれてしまった場合には、ぜひお気軽に弁護士までご相談ください。

執筆者

ヴィクトワール法律事務所

刑事事件について高い専門性とノウハウを有した6名の弁護士が在籍する法律事務所です。

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