その遺言書あやしくない?遺言書偽造とその対応について弁護士が解説

遺言書の種類

遺言書とは、遺言者(被相続人=相続される人)の最終的な意思表示を記した書類のことをいいます。 遺言者が遺言書を残した場合は、自分の財産を意に沿った形で相続人に相続させることができます。
遺言書は、被相続人の最後の意思が尊重されますので、同一人物が作成した遺言書が複数あり、内容が重なった部分で異なる記載がある場合は、その部分については、新しい遺言書によって古い遺言書は取り消されたものとみなされます。
遺言書には、大別して、自筆証書遺言、秘密証書遺言、公正証書遺言があります(民法第967条)。

 

自筆証書遺言

遺言を作成する人が、財産目録を除く全文を自筆で書く遺言書

秘密証書遺言

内容を秘密にしたまま存在だけを公証役場で証明してもらう遺言書

公正証書遺言

遺言者が公証人へ口頭で遺言の内容を伝え、公証人が作成する遺言書

 

※公証人とは、法律の専門家であって、当事者その他の関係人の嘱託により「公証」(正規の権限を有する公務員が職権によってする証明です。)をする国家機関です。公証人は、裁判官、検察官、弁護士など長年法律関係の仕事をしていた人の中から法務大臣が任命します。

最近では遺言書を作成する方も増えていて、平成29年度の法務省の調査では、75歳以上で自筆証書遺言を作成したことのある方は6.4%、公正証書遺言を作成したことのある人は5.0%となっています。なお、公正証書遺言の作成件数が年間およそ10万件であるのに対し、秘密証書遺言は年間およそ100件と殆ど作成されません。

遺言書の作成

遺言書は、遺言者の財産を相続人に相続させるという重要な効果を持つ書類ですから、予め、方式が決まっています。ここでは一番作成される自筆証書遺言について説明します。
自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、遺言書の全文、日付及び氏名を「自書」して、これに印を押さなければならないものと定められています。(民法第968条1項)
したがって、遺言書が全文パソコンで作成してから、氏名の部分にだけ署名捺印をしても自筆証書の方式を満たさず無効となります。
もっとも、昨今の法改正により、遺言書に財産目録を添付するときは,その目録については自書しなくてもよい(パソコンで作成可)ことになりました。作成された遺言は、封緘して、金庫(銀行の貸金庫)や自宅の箪笥の引き出しなどにしまわれることが多いようです。

令和2年7月10日から、自筆証書遺言については、法務局での保管制度(「自筆証書遺言書保管制度」)が始まりました。遺言者が、自筆証書遺言を法務局に預け(「遺言書保管所」)、画像データ化して保管する制度です。これによって、喪失や改ざんのリスクをある程度防げるようになりました。遺言書保管所に保管されている遺言書については、遺言者が死亡した後、相続人等が、遺言書の閲覧や遺言書情報証明書の交付を受けたときには、その他全ての関係相続人等に対して、遺言書保管官が、遺言書が遺言書保管所に保管されていることを通知することとなっており、このような形で相続人全員が遺言書の存在を知ることができるようになりました。

遺言の検認・執行

遺言は、遺言者の死亡の時から効力が発生します。
もっとも、亡くなった人が自筆証書遺言や秘密証書遺言を遺していた場合、その遺言書の発見者は勝手に開封してはなりません。その前に家庭裁判所で「検認」という手続きを受ける必要があります。検認を受けずに勝手に遺言書を開封すると「5万円以下の過料」という制裁が科されます。(民法第1005条)

自筆証書遺言や秘密証書遺言が発見されたとき、放置しておくと発見者が勝手に内容を書き換えたり、破棄したりする可能性があります。そのようなトラブルを防ぐため、家庭裁判所に相続人が集まって内容を確認し、遺言書のそのときの状態を保存するというのが検認の目的です。

検認を終えると家庭裁判所から「検認済証明書」を発行してもらえます。これによって、金融機関における預貯金の払い戻し、預金名義口座の変更等が可能になります。

もっとも、検認はあくまで、検認当時の遺言書の状態を保存するものであって、その遺言書が有効であることを保証するものではありません。

 遺言書の偽造

遺言書の偽造とは、遺言者以外の者が遺言書を作成したり、遺言者が作成した遺言書の本質的な部分を書き換えることを言います。場合によっては、遺言能力がない者(例:重度の認知症)に無理やり遺言を書かせた場合(メモを見せそのまま写させたような場合)も、偽造になりえます。遺言書の偽造が問題となるのは自筆証書遺言が多いです。なぜならば、遺言者が方式に則って自署すれば成立する(方式に則れば訂正も可能)からです。
遺言書の存在及び内容は、遺言者が逝去するまで明らかにならないことが多く、大抵の相続人は、遺言書が発見され検認されたときに初めてその内容を知ることとなります。
そして、遺言書が作成された時期、発見場所、発見経緯、生前の遺言者の言動、遺言書の内容、訂正内容、筆跡などからして偽造が疑われるというケースがあります。なお、公正証書遺言でも偽造が認められたケースがあります(公正証書遺言であるから諦めるのは早計です。)。

偽造が疑われる場合は、是非、専門家である弁護士にご相談ください。

偽造が疑われる際に弁護士ができること

①遺言無効確認訴訟・調停

遺言書の有効性を争いたい場合、基本的に調停を申し立て、調停がまとまらなかった場合は、遺言無効確認訴訟を提起することになります。遺言が無効ということが認められれば、無効となった部分については遺産分割協議をやり直すことになります。
なお、当事務所では、公正証書遺言の偽造が認められた事案も有しており、遺言書の有効性が疑われた場合は、是非、ご相談ください。

②相続人の地位不存在確認の訴え

遺言書の偽造が確定すると、偽造者には、大きな制約が待っています。それは、民法上、相続に関する被相続人の遺言書を偽造し、変造し、破棄し、又は隠匿した者は相続人となることができないと定められているからです(民法第891条5号)。相続人の地位を失う事由を「欠格事由」といいます。
したがって、遺言書の有効性を争う訴訟においては、仮に偽造が認められた場合には、偽造した者は「欠格事由」にあたり、相続人の地位を有しないという主張もしておきます。
ただし、相続欠格となった人に子がいる場合は代襲相続が可能です。この点は、相続放棄(相続放棄した場合は代襲相続できず、子も相続権を失う。)と違うことにご注意ください。

③有印私文書偽造罪で告発

有印私文書偽造罪は,「行使の目的で、他人の印章・署名を使用して、権利・義務・事実証明に関する文書・図画を偽造し、または偽造した他人の印章・署名を使用して、権利・義務・事実証明に関する文書・図画を偽造する」犯罪です(刑法第159条1項)。
遺言書の偽造は,作成権限のない者が他人名義で文書を作成する行為であるため,偽造が認められると有印私文書偽造罪が成立します。
法定刑は3か月以上5年以下の懲役で、時効の成立は偽造行為から5年です。

有印私文書偽造罪に対しては、親族相盗例(一定の親族関係にある者の間で起きた窃盗、横領等については、刑が免除される規定)が適用されないので、相続において、有印私文書偽造罪での告発は、状況によっては、事案解決のための有力な手段となります。

当事務所では、刑事事件を多く手掛けており、告訴・告発のノウハウを多く有しています。その点で、遺言書の偽造の案件において民事のみの対応を前提に考える他の事務所と一線を画するものと自負しております。

まずは経験豊富な弁護士にご相談を

遺言者の字と明らかに筆跡が違うような場合には、専門家に筆跡鑑定をお願いすることもあります。また、遺言者の遺言能力が疑われる場合は、カルテを取り寄せ、医師に鑑定書を書いてもらう必要がある場合もあります。
実際、遺言書の偽造が疑われる事案で、いかなる手段(刑事告発を含む。)が一番有効であり、そのためにいかなる証拠を収集するかは、資料を拝見しつつ、ご相談者様から詳細なお話をお伺いしないと判断できないので、是非、ご気軽にご相談ください。ご一緒に、ご相談者様の疑念・悩みを払拭する手段を考えていけたらと思います。

執筆者

ヴィクトワール法律事務所

刑事事件について高い専門性とノウハウを有した6名の弁護士が在籍する法律事務所です。

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