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DVとは
ドメスティックバイオレンス(DV)とは、一般的に配偶者や恋人など親密な関係にある(あった)者からの暴力又はこれに準ずる言動を指します。DVには、夫から妻への暴力だけでなく、妻から夫、親から子、子から親などさまざまな形があります。
DVは、殴る、蹴るといった身体への暴力行為を指すことが多いですが、これにとどまるものではなく、経済的、精神的、性的暴力も含まれています。経済的DVの例としては、生活費を渡さない、洋服などの生活に必要な物を買わせないといった行為が挙げられます。精神的DVの例としては、発言権を与えない、人前で侮辱する、何を言っても無視をするなどの行為が挙げられます。性的DVの例としては、性行為の強要、見たくないのに性行為の動画を見せるといった行為が挙げられます。
このうち本稿で主に解説するのは、親密な関係にある(あった)者からの身体的暴力行為についてです。
DVで逮捕される場合に問われる可能性のある罪名
暴行罪
相手に暴力を振るうと、暴行罪が成立する場合があります。
暴行罪の刑罰は「2年以上の懲役若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する」と定められています。
傷害罪
相手に暴力を振るいけがをさせると、傷害罪が成立する場合があります。
傷害罪の刑罰は「15年以下の懲役または50万円以下の罰金」と定められています。
強制性交等罪
相手が配偶者であっても、暴行・脅迫を用いて同意なく性交をした場合は強制性交等罪に問われる可能性があります。
強制性交等罪の刑罰は「5年以上の有期懲役」です。
DV防止法(配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律)
DV防止法の保護命令に違反し、相手に接近するなどした場合は、DV防止法違反に問われる可能性があります。
DV防止法違反の刑罰は「1年以下の懲役または100万円以下の罰金刑」です。
本罪の対象は配偶者だけでなく、「生活の本拠を共にする交際(婚姻関係における共同生活に類する共同生活を営んでいないものを除く)をする関係にある相手からの暴力」についても対象になるとしています。
保護命令の対象となるのは、身体に対する暴力や脅迫といった暴行罪・傷害罪に当たるケースです。そのような行為が認められる場合には、接近禁止命令や退去命令といった保護命令が出されることになります。
DV防止法の改正
DVの対策強化のため、身体的な暴力だけでなく、精神的な脅迫や、配偶者などをおそれさせる言動を行った場合も裁判所が保護命令を出せるようにする法改正が2022年現在議論されています。
さらに、接近禁止命令を現行の「6ヶ月」から「1年」に延長する、保護命令に違反した場合の罰則を「1年以下の懲役または100万円以下の罰金」から「2年以下の懲役または200万円以下の罰金」に引き上げることも議論されています。
逮捕の可能性
一般的に、暴行罪の場合は逮捕されることが少ないですが、DVが疑われる事案、すなわち家族や同居の交際相手に対する暴行は、逮捕されやすい傾向にあります。同様に、家族や同居の交際相手に対する傷害は、偶発的に発生した傷害(酔っ払って通行人を殴るなど)に比べて逮捕されやすい傾向が見られます。
逮捕に引き続く勾留の可能性
逮捕されると、48時間以内に検察官の元に身柄が送られ、検察官から事情を聞かれます(「弁解録取」という手続きです。)。弁解録取をした検察官は、逮捕した被疑者を勾留すべきと判断すると、裁判所に対し、勾留請求をします。裁判所が勾留決定をすると、原則として10日間勾留されます。
家族や同居の交際相手に対する暴行・傷害の場合、偶発的な暴行・傷害の場合に比べて、勾留される傾向にあります。
弁護士ができること
逮捕・勾留されてしまった場合、被疑者は警察署の留置施設に身体を拘束されてしまい、自分がどのような状況にあるのかもよく分からないまま、不安な時間を過ごさなければならないことが多いです。
弁護士は、身体拘束された被疑者に速やかに会いに行き(「接見」といいます。)、今後の手続きの流れや取調べへの対応の仕方を説明したり、外部への連絡事項を伝達したりします。
そして、少しでも早く身体拘束が解かれるよう、検察官や裁判官に対し、被疑者には証拠を隠滅するおそれがないこと(「罪証隠滅のおそれ」といいます。)や逃亡のおそれがないこと等を粘り強く訴えかけます。
示談交渉
暴行罪も傷害罪も「人の身体の安全」を保護法益とする犯罪ですから、被害者自身が被疑者(被告人)を許し、示談を受け入れていることは、様々な局面で被疑者(被告人)に有利に働きます。
ですので、被害者の心情に配慮しつつ、早期に示談の提案・交渉をすることが重要です。
当事務所は、示談交渉の経験が豊富です。また、男性弁護士と女性弁護士が在籍していますので、被害者から「同性の弁護士と話がしたい。」などの要望があったときに、速やかに同性の弁護士が対応にあたることも可能です。
解決事例
Aさんは、同居している妻・Vさんとささいなことから口論になり、頭をたたいてしまいました。Vさんが警察に通報したところ、Aさんは臨場した警察官にそのまま逮捕されてしまいました。
弁護士は、速やかに初回接見に向かい、Aさんと話をしました。すると、AさんはVさんの頭をたたいたことは認めている一方で、Vさんにも非があったからそのような行為に出てしまったとしてかなり感情的になっている様子が見受けられました。また、Aさんは有名な企業の正社員として長年真面目に勤務を続けており、突然の無断欠勤で職を失うおそれがあること、上司には自分の置かれている事情は伝えて欲しいけれど、同僚には絶対に知られたくないと思っていることが分かりました。
そこで弁護士は、取調べに対するアドバイスとして、暴行行為を認め、その経緯等をきちんと説明すること、その際、Vさんに対する感情を露わにせず、冷静に対応することを伝えました。そして、接見後すぐにAさんの上司と連絡を取り、欠勤の理由とAさんの状況等を伝えました。事情を知ったAさんの上司は、欠勤理由への配慮だけでなく、Aさんが早期に釈放されるよう、身元引受人になることを快諾してくれました。
続いて弁護士は、Vさんとの示談交渉にも着手しました。
Vさんは、金銭はいらないけれど、Aさんにはしばらく自宅に戻ってほしくないという要望を強く持っていました。弁護士は、すぐにAさんと相談し、Vさんに対しては、もしAさんが釈放されたら、自宅ではなく、一定の期間ホテルで過ごすことを約束することにしました。弁護士はVさんのもとへ赴き、Vさんとの間で、Aさんが釈放されたら一定期間自宅には戻らず、ホテルで過ごす旨の合意書を作成し、示談を行いました。
弁護士は、こうした活動の成果をまとめた書面を裁判所に提出し、裁判官とも面談をして、Aさんの身体を拘束する必要がないことを粘り強く説明しました。その結果、Vさんは勾留されずに釈放となり、後日、不起訴処分となりました。
当事務所では、刑事事件に対する弁護活動のご依頼を頂いた場合、基本的に弁護士2名で対応させていただいております。特に、起訴される前の弁護活動(「捜査弁護」といいます。)では、厳格な時間制限があるなかで、たくさんの活動をしなければなりませんが、担当弁護士が2名いることにより、機動的に対応することが可能です。
ぜひお気軽にご相談ください。