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検察官の経歴をもつ弁護士
検察官と弁護士は,基本的には同じ司法試験を通過していますので,検察官が退官したときは,弁護士として登録することができます。検察官経験がある弁護士のことを,検察官を辞めた弁護士であることから「ヤメ検」と言うことがあります。ただ,あまりきれいな言葉ではありませんね。
検察官は,被疑者を起訴するほぼ唯一の国家機関です。検察官は,捜査機関として被疑者の取調べなどを行い,被疑者につき公訴を提起するかを最終的に判断します。公訴提起後は,基本的には被告人の有罪を立証することを目指して訴訟に関わっていきます。
刑事訴訟の公判におては,一方に検察官が座り,他方に被告人と弁護人が座ることになります。弁護人は,検察官の公訴や立証から被告人を「弁護」する立場であるともいえます。その意味では,検察官と弁護人は対立する関係にあります。
検察官と弁護士の立場の違い
このように,検察官と弁護人は立場が異なりますから,検察官が弁護士になることに違和感を覚える方もいるかもしれません。
しかし,検察官になるための試験も弁護士になるための試験も同じ司法試験であり,検察官になったときと,弁護士になったときの2人を比べると,全く同じ試験を通ってきているともいえます。そこに違いは見いだせません。
もちろん,検察官を退官した後に弁護士登録をするかは本人の自由ですから,弁護士登録をする人もいればしない人もいます。定年前に退官した方は,弁護士登録をする場合が多いようです。
また,検察官と弁護人は立場が異なるのですが,それもそれぞれの役割に基づくものですから,役割が変わればその新たな役割を全うすることになります。弁護士であれば,原告代理人となることも被告代理人となることもありますから,いわゆる訴追官である検察官から弁護人となっても,それほど違和感はないとの話も聞きます。
検事出身の弁護士の特徴
一般の弁護士の業務内容を見ますと,民事事件の割合が刑事事件より多い弁護士がほとんどです。弁護士によっては,刑事事件をほとんど扱わない弁護士もいます。
検察官は,民事事件を扱うことはありませんから,刑事事件のみを担当してきたということもできます。その意味では,検察官の経験のある弁護士は,法律家としての経験をいえば,多くの刑事事件を取り扱っているといえます。
そのような経験は,弁護士として弁護人として行動するときに活かすことができますから,検事出身の弁護士は,検察官経験という強みを持つということができます。
元検事であるためにわかること
検事出身の弁護士は,捜査の具体的な手続きや感覚的なものを,知識ではなく実体験として有しています。検事出身だからといって,特定の事件について特別な情報を得られるわけではありませんが,自らの経験に照らし合わせて,今後の捜査機関の行動を予測するということは考えられます。また,見える範囲の捜査機関の動き方から,捜査機関が考えていることを予測することにも,検察官としての警官は活きる部分はあります。
刑事訴訟法等の改正や,捜査についての社会的問題意識などから捜査の実情は時代とともに変わっていくこともありますが,弁護士となっても弁護人として刑事事件に関わり続けることができますから,検察官側と弁護人側の両方から刑事事件を立体的に見ることができることは,検事出身の弁護士の特徴といえます。
検察官の経験がある弁護士は,検察官と弁護人両方の立場から見て,裁判官の検察官と弁護人の接し方には違いがあるとする人もいます。また,検察官の経験があったとしても,もちろん検察官であれば可能であった可能性のある捜査権能を弁護人として承継することはできません。そして,実際の業務は弁護人として行うわけですから,検察官としての事件処理とはやはり異なるところが出てきます。
検察官の経験を活かしつつ,検察官と弁護人との違いを冷静に受け止めている弁護士は,事件について特徴のある対応を期待できることが多いものと思われます。