目次
不同意わいせつ罪とは
2023年、性犯罪につき、刑法で大幅な改正が行われました。事件が令和5年7月13日以前に発生したか、それ以降に発生したかで、適用される条文が大幅に異なるのでご留意ください。改正法の施行(令和5年7月13日)以前に行われた行為については、従前の強制わいせつ罪で処罰されることになります。
不同意わいせつ罪とは、被害者が「同意しない意思を形成し、表明し若しくは、全うする」ことが困難な状態でわいせつな行為を行うことです。
2023年6月16日、不同意性交等罪の新設を含む刑法改正案が成立、同年7月13日に施行されました。
従前は「強制わいせつ罪・準強制わいせつ罪」が定められていましたが、それらが一体化し、不同意わいせつ罪となりました。また、「強制性交等罪・準強制性交等罪」も同様に、不同意性交等罪となり新しい犯罪として統合されます。
監護者性交等罪・監護者わいせつ罪
18歳未満の者に対しその監護者(実親・養親など)が影響力に乗じて性的な行為に及んだ場合は、監護者性交等罪・監護者わいせつ罪に問われることになります。
本罪は2017年の刑法改正によって新たに設けられました。
不同意わいせつ罪の刑罰
不同意わいせつ罪の法定刑は「6月以上10年以下の有期拘禁刑」です。
強制わいせつ罪では「6月以上10年以下の懲役」であるため刑は同じですが、刑の種類が異なっています。
「拘禁刑」とは、刑務所での刑務作業が義務付けられていない禁錮刑と義務付けられている懲役刑を一本化したものです。不同意わいせつ罪の施行は2023年7月ですが、拘禁刑についての改正刑法は2025年に施行予定のため、それまでの刑罰は懲役刑ということになります。
強制わいせつ罪からの主な変更点
要件の拡大
不同意わいせつ罪の成立の要件は、被害者が「同意しない意思を形成、表明、全うすることが困難な状態」でわいせつな行為を行うことです。
従来の強制わいせつ罪の場合、「暴行または脅迫」によって、わいせつ行為をすることが要件であり、また従来の準強制わいせつ罪は、被害者が抗拒不能に陥ったこと(酩酊等)により正常な判断ができない状態を利用してわいせつな行為をすることなどが要件でした。しかし、性犯罪において、被害者側が拒否できない状況は、暴行、脅迫、抗拒不能状態たけに限らないという批判があり、今回の改正にいたりました。
今回の法改正の結果、犯罪が成立する範囲がより広くなったと言えるでしょう。
例えば、これまで電車内での痴漢行為は迷惑防止条例違反で処罰されることが一般的でしたが、今回の改正に伴い、今後は不同意わいせつ罪で処罰される可能性が高いです。そして、不同意わいせつ罪には罰金刑がないため、起訴されてしまうと正式な刑事裁判を受けることになりますので、今まで以上に注意が必要です。
性交同意年齢の引き下げ
性交の同意年齢が13歳から16歳に引き上げられました。
これにより16歳未満のこどもは、性交に同意する能力を持たないとみなされ、16歳未満との性交等については同意の有無にかかわらず処罰されることになります。
もっとも、同世代間の行為は罪に問わず、13歳から15歳の場合は5歳以上の年齢差がある相手を処罰対象とすることにしています。
例えば、25歳の成年が16歳の少年と性交渉を行った場合は、同意があっても処罰されることとなりますが、20歳の成年が16歳の少年と性交渉を行った場合は、改めて、「同意しない意思を形成し、表明し若しくは、全うする」状況にあったかどうかを検討することとなります。
公訴時効の延長
また、公訴時効(起訴することができる期間)が7年から12年に延長されました。
さらに犯罪時に被害者が18歳未満の場合には、犯罪が終わってから18歳になるまでの期間が公訴時効に加わります。例えば、被害を受けた時の年齢が15歳の場合には、18歳になるまでの3年間が加わり、被害者が18歳から12年後の30歳の時に時効となります。
不同意わいせつ罪に問われる行為
強制わいせつ罪・準強制わいせつ罪に問われる要件として定められていた、暴行・脅迫、抗拒不能などに加え、以下の8つの類型が要件として明示されました。
下記の原因により、被害者が「同意しない意思を形成し、表明し若しくは、全うする」ことが困難にさせること、相手がそのような状態にあることに乗じる場合に罪に問われることになります。
- ・暴行・脅迫
- ・心身の傷害
- ・アルコール・薬物などの影響
- ・睡眠、そのほか意識が不明瞭
- ・拒絶するいとまを与えない
…いきなり接吻をする場合など - ・予想と異なる事態に直面に起因する恐怖・驚愕
- ・虐待に起因する心理的反応
- ・経済的・社会的関係上の地位に基づく影響力によって受ける不利益を憂慮させた場合
…上司と部下、教師と生徒のように、一方が影響力を持っている関係性において、断ることで生じる可能性のある不利益を恐れて抵抗できない場合など
さらに、わいせつ行為ではないと誤信させること、人違いをさせること、又は相手がそのような誤信をしていることに乗じて性交等を行った場合も罪に問われます。
また、前述のように性的行為に関して自ら判断できる「性交同意年齢」は16歳へ引き上げられたため、下記の場合でも罪に問われることになります。
- ・相手が13歳未満の子供
- ・相手が13歳以上16歳未満の子供で、行為者が5歳以上年長である場合
予想される問題点
同意がない性被害を減らすためにも、今回の法改正は評価されるべきではあります。
しかし他方で、新法の条文には意味内容が不明確な箇所もあり、いかなる場合に犯罪が成立するのか、曖昧といえることも否定できません。
例えば、「予想と異なる事態に直面に起因する恐怖・驚愕」にいう「予想と異なる事態」は何をもって予想と異なるというのかということや、「経済的又は社会的関係上の地位に基づく影響力によって受ける不利益を憂慮させること又はそれを憂慮していること」にいう「憂慮」とは何かといった問題点があります。
このように、一般人では一律に判断できない主観的要件を含んでおり、事案によっては不同意わいせつの有無について、裁判で検察側と弁護側との間で要件を満たすか否かで真っ向から対立する事態も容易に想定されます。
強制わいせつ罪の成立には暴行・脅迫の要件が不可欠でしたが、不同意わいせつ罪ではその要件は必ずしも必要ではなくなりました。不同意わいせつ罪では、被害者が抵抗できる状態であったか否かを基準に判断されることになります。
これは一般の方には中々判断しづらい状況です。当事務所の担当弁護士は各事案の場合に応じて適切な主張を行い、弁護活動を行います。
不同意わいせつ罪の弁護活動
1 捜査段階(起訴前)
不同意わいせつ罪で逮捕された場合は、法定刑が重いのと証拠隠滅(証拠隠滅の可能性は物的証拠だけではく人的証拠(証言等)を含みます)の可能性が認められやすく、基本的に勾留される可能性が高いです。
勾留された場合、少なくとも10日間(延長された場合は20日間)は警察の留置所から出られない状態になってしまいます。この間、会社を無断欠勤することになり、解雇されてしまう可能性もでてきます。ただし、弁護士を通して、被害者との示談交渉を行い、示談が成立し、被害届や告訴状を取り下げてもらえれば、留置所を出ることができる場合があります。早期に釈放されれば、勤務先などに逮捕されたことがばれずに、職場に復帰できるでしょう。
また、合意をしてわいせつ行為をしたのに、相手が「合意していなかった」と言い出すといった場合も考えられます。そのような場合でも相手の言い分を争い、両者合意のもとで行為が行われたことを主張し、証拠を収集し、検察官に意見書を提出するなどして、不起訴処分を目指します。また、不同意わいせつ等罪の場合、当事者がどのような状況・認識でわいせつ行為をしたかが極めて重要になりますので、取調べ対応も弁護士と相談しながら慎重に行わなければなりません。
捜査段階で、早期に弁護士に依頼して、捜査や相手方に慎重に対応することで、示談が成立したり、身の潔白が晴れたりして、不起訴処分を得られる可能性があります。
この場合は、早期に社会復帰が可能となりますので、一早い弁護士への依頼をおすすめします。
2 公判段階(起訴後)
起訴されてしまった場合は、罪を認めるときは、執行猶予付きの判決が得られるように弁護をします。不同意わいせつ罪で執行猶予付きの判決を得るためには、被害者の方に示談書や嘆願書を書いてもらったり、生活環境を改善することや、性犯罪再犯防止のクリニックに通院したり(必要であれば、当事務所が紹介することも可能です)、弁済供託をしたり、家族の監督等反省と再犯防止の意欲を裁判官に伝え、反省の意思をしっかりと示し、情状酌量をしてもらう必要があります。
罪を認めないときは、無罪が得られるように、検察庁に証拠開示を求め、捜査機関が集めた証拠を可能な限り入手し(検察官が裁判に提出する証拠は膨大な証拠のうちのほんの一部であり、裁判に提出されない証拠の中に無罪を立証するための決定的な証拠がないとは限りません。)、無罪を裏付ける証拠(メールやSNSのやり取り、直前・直後の防犯カメラの様子等)を提出する必要があります。被害者、目撃者、警察官等の証人尋問も行われることになりますので、無罪判決に向けて綿密に準備をする必要があります。
相手方から不同意性交等罪・不同意わいせつ罪の主張を受けておられる方は、少しでも早く弁護士による助言・助力が必要といえます。
当事務所は、改正前の強制わいせつ等罪を含め、多くの性犯罪の弁護を扱ってきました。不同意性交等罪・不同意わいせつ罪でお悩みの方は、弊所までご相談ください。