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盗撮とは? 盗撮に当たる行為について
「盗撮」とは、通常衣服で隠されている下着や身体の部位をスマートフォン等の撮影機を用いて無断で撮影する行為をいいます。近年の技術の発展に伴い、小型カメラ、ペン型のカメラを用いたものやシャッター音を消すアプリケーションを用いたもの等、その行為態様は複雑かつ多様になっています。
盗撮の罪
「盗撮」は、その撮影場所によって以下の2種類の「盗撮行為」に大別できます。各都道府県の定める条例にもよりますが、その撮影場所によって成立する犯罪が異なる場合があります。
① 電車等の不特定又は多数の人が利用する公共の場所における盗撮行為
② 住居やトイレ、更衣室などの通常人が衣服の全部又は一部を着けない状態でいる場所における盗撮行為
迷惑防止条例違反
①の電車やデパートなどの不特定又は多数の人が利用する場所で盗撮した場合、各都道府県の条例違反(迷惑防止条例違反)となります。迷惑防止条例違反の場合の法定刑は、1年以下の懲役又は100万円以下の罰金です。
軽犯罪法違反
②の住居やトイレ、更衣室などの通常人が衣服を着けない状態でいるような場所で盗撮した場合、軽犯罪法違反となることがあります。
軽犯罪法違反の場合の法定刑は、1日以上30日未満で刑事施設に入るか、1、000円以上1万円未満でお金を徴収されることとなります。
※ なお、東京都の定める「公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例」によれば、人の住居やトイレ、浴場、更衣室その他、人が通常衣服の全部又は一部を着けない状態でいるような場所での盗撮行為も、同条例違反としており、軽犯罪法違反の処罰対象とはならないとしています。
撮影罪(性的姿態等撮影罪)
令和5年の刑法改正により、性的姿態撮影等処罰法が制定されました。
上記のような法令では処罰できないような事案に対し、本罪が適用されることにより処罰の範囲が広がることとなりました。撮影行為だけではなく、そのデータを第三者に提供したり、第三者に提供する目的で保管したりする場合でも処罰の対象となります。
法定刑は、3年以上の懲役又は300万円以下の罰金です。
今までの迷惑防止条例違反と撮影罪がどのような関係になるのかまだ事案が少ないため、今後の運営を見ていく必要があります。
【性的姿態等撮影罪の行為類型】性的姿態等撮影罪第2条
① 正当な理由がないのに、ひそかに、性的姿態等(性的な部位、身に着けている下着、わいせつな行為・性交等がされている間における人の姿)を撮影すること
② 不同意性交等罪の各規定により、同意しない意思を形成、表明又は全うすることが困難な状態にさせ、又は相手がそのような状態にあることに乗じて、性的姿態等を撮影すること
③ 行為の性質が性的なものでないと誤信させ、特定の者以外は閲覧しないと誤信させて、又は相手がそのような誤信をしていることに乗じて、性的姿態等を撮影すること
④ 正当な理由がないのに、16歳未満の子どもの性的姿態等を撮影すること(相手が13歳以上16歳未満の子どもである時は、行為者が5歳以上年長である場合。)
前述の通り、正当な理由がある場合は処罰されないとされていますが、正当な理由があると認められる範囲は限定されています。
法務省が正当な理由がある場合の例として挙げているのは、医師が医療行為として意識不明の急患の上半身裸の写真を撮影するケースや、親が子どもの成長の記録として上半身裸で遊んでいる写真を撮影するケースなどです。
盗撮には当たらない行為
・衣服を着た状態の全身を撮影する行為など
・衣服を着た状態の後姿を撮影する行為など
※ もっとも、千葉県の迷惑防止条例(正式名称:「公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例」)では、令和2年の改正前まで、「何人も、女子に対し、公共の場所又は公共の乗物において、女子を著しくしゆう恥させ、又は女子に不安を覚えさせるような卑わいな言動をしてはならない。男子に対するこれらの行為も、同様とする。」と、広い表現で規制をしており、衣服を着た状態の身体を盗撮する行為も処罰対象となっていました。令和2年改正により、盗撮について明文化され、「人の通常衣服で隠されている下着又は身体を、写真機その他の機器(衣服を透かした状態を撮影することができるものを含む。以下「写真機等」という。)を用いて撮影し、又は撮影する目的で写真機等を差し向け、若しくは設置すること。」が盗撮に該当すると規定されるに至りました。
他の自治体における迷惑防止条例に、「卑猥な言動」を取り締まる規定が存する場合、衣服を着た状態の身体を撮影する行為が、この「卑猥な言動」に該当するとして、被疑者になってしまう可能性がありますので、注意が必要です。
盗撮で逮捕されたら
盗撮が発覚するケース
盗撮が発覚するケースとして一番多いのが、盗撮の被害者や目撃者による現行犯逮捕です。
その他にも、別罪で逮捕・勾留中に、押収されたスマートフォンから盗撮画像等のデータが発見され、これを機に盗撮が発覚し立件されることもあります。
盗撮の証拠
被疑者のスマートフォンやカメラに残っている盗撮画像等のデータが最重要の証拠になります。事件が発覚した際にデータを削除しても、捜査機関に復元されてしまいます。データを削除したことが、証拠隠滅に当たるとして後々不利な事情となることもありますので、削除は控えるべきでしょう。
盗撮事件を起こしてしまったら逮捕される?
現行犯逮捕は別として、被疑者が盗撮行為を認めている場合で、定職があり生活環境が安定しているなら、逮捕されない可能性もあります。その場合には「在宅事件」として、捜査機関(警察署、検察庁)から呼び出しがあれば適宜応じるという条件の下、捜査機関の処分が下されるまでの一定期間、自宅で日常生活を送ることになります。この間に、捜査機関の方で捜査が進み、起訴・不起訴に関する最終的な判断が下されることとなります。
逮捕されてしまった場合は、最終処分(起訴・不起訴)の決定が出るまで最大で23日間の身体拘束の可能性があります。
そのまま放っておいてはダメ
各捜査機関の状況次第ではありますが、在宅事件となった場合、盗撮が発覚してから半年以上、捜査機関から何の連絡もなく、最終的な処分が決まらないこともあります。
そのような場合でも、早期に弁護士にご依頼されることをお勧めします。
特に、被害者が特定されている盗撮事件においては、被害者の方との示談が最終的な処分に大きく影響します。初犯であって、特別な器具を使用していない場合、被害者の方と示談を締結することができれば、事件は不起訴処分になり、前科がつかない可能性が高くなります。不安な状態をできるだけ早く抜け出すためにも、まずは刑事事件に明るい弁護士へ相談することをお勧めします。
弁護士のできること
被害者との示談交渉
被害者が特定されている盗撮事件においては、被害者と示談が成立すれば、前述のように刑事処分が軽くなる可能性が高まります。
しかし、一般的に被害者は、盗撮者本人やその家族に会いたがらないことが多いため、通常は弁護士が間に入って交渉することになります。弁護士が、被疑者の謝罪や事情説明等を、被害者に対して丁寧に重ねることにより、結果として示談が成立する可能性が高まります。
環境整備
盗撮行為が精神的な病気に起因するものであることが考えられる場合では、性犯罪再犯防止のクリニックへの通院など、根本的な解決を目指すために弁護士がさまざまなアドバイスを行うことができます。
弁護士のアドバイスに基づき、生活環境を改善したり、家族の監督等反省と再犯防止の意欲を検察官・裁判官に伝えることで、不起訴や罰金刑、執行猶予付きの判決が獲得できる可能性もあります。
解決事例
被害者との示談で不起訴処分を獲得したケース
【事例】
Aさんはショッピングモールのエスカレーター上で、目の前にいた女性のスカートにスマートフォンを差し入れ、下着の動画撮影をしてしまいました。被害者女性には連れの男性がおり、この男性がAさんの行動に気づき、その場で警察に通報されてしまいました。
Aさんは会社員で、奥さんと子供と同居していたため、警察も逃亡のおそれがないと判断し、Aさんは逮捕されず、東京都迷惑防止条例違反の在宅事件となりました。
【解決方法】
■被害者との1回目の面談
事件から3日後、Aさんから相談を受け、当事務所にご依頼をいただきました。
当事務所の弁護士は、警察署に連絡を取り、被害者に謝罪を尽くしたいこと、被害者と連絡が取れるよう仲介をしてほしい旨を伝えました。
警察官を介して、被害者と連絡を取ることができ、面談の約束をしました。
面談の席で被害者にAさんの反省と謝罪の念を伝えたものの、被害者の怒りは深く、この日はお許しをいただくことはできませんでした。被害者曰く、公共の場へ出かけること自体が怖くなってしまい、事件が起こる前のように、外出を楽しむことができなくなってしまったとのことでした。
■被害者との2回目の面談
Aさんに被害者の気持ちや怒りを報告し、私たち弁護人はAさんと色々と話し合いました。Aさんは自分のせいで被害者が心に傷を負ってしまったことに対し、改めて反省を深め、できる限りの謝罪を尽くしたいと言いました。
Aさんの猛省をきちんと伝えたいと思った私たち弁護人は、被害者に連絡をし、もう一度だけ面談をしていただきたいと頼み込んだところ、被害者から面談の機会をいただくことができました。
2回目の面談において、Aさんの更なる謝罪と共に、Aさんと話し合った内容を精一杯伝えました。その結果、Aさんが再犯をしないよう、家族ぐるみで努力していることが伝わり、被害者からお許しをいただくことができました。
■不起訴処分に
被害者と取り交わした示談合意書を警察に提出してから2か月ほど経過したある日、担当警察官から「事件を検察庁に送致した」と連絡がありました。いわゆる書類送検です。
私たち弁護人はすぐ、東京地方検察庁に連絡し、担当検察官に対して改めて、被害者と示談合意ができていることや、示談合意後のAさんの様子(心療内科クリニックへの通院の様子や妻の監督状況等)をまとめた意見書を提出しました。
それから約1か月後、Aさんは不起訴処分となりました。
Aさんから、「先生たちの弁護活動のおかげで前科がつかなくて済みました。また、被害者の方に私の謝罪の気持ちを伝えていただけて、私の気持ちも少し落ち着きました。先生たちに依頼して、良かったです。」とおっしゃっていただけました。