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書類送検とは
刑事事件の中には、逃亡のおそれがない、証拠隠滅のおそれがないなどの理由から、被疑者(警察等の捜査機関から犯罪をしたという疑いをかけられた人)を逮捕する要件を満たさない事件もたくさんあります。また、逮捕の要件を満たすものの、警察が、敢えて逮捕に踏み切る必要がないと判断することもあります。
このような場合、警察は、被疑者を逮捕せず、適宜被疑者を呼び出して取調べをするなどしながら、捜査を進めます。捜査機関が被疑者の身体を拘束せずに捜査を進める事件のことを「在宅事件」と言います。在宅事件の場合、被疑者は、それまでと同じように社会の中で生活を送りながら、何度か警察署へ出向いて、取調べを受けることになります。そして、警察は、取調べの結果などを書類にまとめて検察庁に送る手続を行い、それ以降は検察官が主体となって取調べ等の捜査を行います。これが、いわゆる「書類送検」と呼ばれているものです。
つまり、「書類送検」とは、送検(検察官送致。刑事事件を処理する権限と責任が警察から検察へ移ること。)のうち、その時点で被疑者が身柄拘束されていないもののことです。
なお、刑事訴訟法に「書類送検」という言葉はなく、書類送検とはいわゆるマスコミ用語の一種です。また、「書類送検」は、単に事件を取り扱う主体が警察から検察へ移る手続に過ぎず、最終的な刑事処分ではありません。
微罪処分とは
書類送検と混同されがちな言葉として微罪処分があります。
検察官があらかじめ指定する軽微で訴追の必要性のない事件については、警察限りで訓戒等を施すだけで手続きを終結させることが許されており、これを微罪処分といいます。送検されずに刑事手続が終了するという点で書類送検とは異なります。令和3年度版犯罪白書によりますと、令和2年に微罪処分により処理された人員(刑法犯)は5万2035人であり,全検挙人員に占める比率は28.5%であったと報告されています。そうすると、最近の傾向としては、警察に検挙された犯罪のうち、約7割が送検されているということになります。なお、微罪処分の場合であっても、前歴(捜査機関に犯罪の嫌疑をかけられ捜査の対象にされた経歴)は残ります。
書類送検と逮捕の違い
上記のとおり、「書類送検」とは、送検(検察官送致。刑事事件を処理する権限と責任が警察から検察へ移ること。)のうち、その時点で被疑者が身柄拘束されていないもののことです。
つまり、上記の定義からすれば、書類送検される事件では通常は逮捕されることはありません。ただし、書類送検後であっても正当な理由なく出頭に応じなかったりすれば、後から逮捕される危険性もありますので注意が必要です。
したがって、書類送検の事件では、何度か検察庁に呼び出され、取調べを受け、処分が決まるという流れになります。その期間に時間制限はありません。この点、逮捕・勾留の場合は、合計23日間という捜査機関にとっての時間制限があります。
以上のとおり、 書類送検と逮捕は、捜査機関にとっての時間制限の有無という点で違いがあります。
もっとも、書類送検の事件だから軽い処分になるとか、逮捕の事件だから重い処分になるとは限りません。書類送検か逮捕かは最終処分の軽重とは無関係です。
書類送検されたら前科は付く?
よく、「書類送検なら軽い処分で済む。」と考えている人がいます。確かに、一般的に言えば、被疑者が逮捕された事件と比べると、逮捕を伴わず書類送検された事件は、結果的に軽い処分で終わる場合が多いといえます。
しかし、これは単なる運用上の割合の違いに過ぎず、書類送検だからといって、軽い処罰で済む保証は法律上どこにもありません。書類送検でも前科が付く可能性があります。
実際、逮捕されることなく書類送検がなされたものの、最終的に罰金刑が科せられたり、正式な裁判(公判)にかけられて執行猶予付きの懲役刑、さらには(数は少ないですが)実刑に処されたりすることもあります。
書類送検された場合の弁護活動
書類送検になったということは、あくまで逮捕の要件が満たされなかった(あるいは、要件は満たすものの警察が敢えて逮捕に踏み切らなかった)ことを意味するにとどまり、このことと最終的な処分や刑罰の重さとは、直接は関係がないのです。
書類送検がなされた事件でも、罰金や懲役刑などの処罰を回避するために弁護人を付けて対応すべき事案は多いです。検察官が起訴・不起訴の判断をするまでに,示談交渉といった弁護活動を進める必要があります。起訴・不起訴の判断に当たっては、被害者の被害感情や被害回復の有無も相当程度考慮されるので、明確な被害者が存在する事案では、特に弁護士をつけて、示談交渉を行うことの重要性が高まります。早めの段階で、是非一度、弁護士にご相談なさることをお勧めいたします。
解決事例
1徹底した取調べ対策の結果、書類送検されずに警察限りで事件が終了した事例
ご依頼者様は、別件の被疑事実でスマートフォンを警察に押収されていたところ、その中から児童ポルノ画像が発見され、児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律違反でも捜査されることになってしまいました。
ご依頼者様は、「動画の一括ダウンロードをした際、誤って児童ポルノ映像が紛れ込んでしまっただけであり、警察に指摘されるまでその存在すら知らなかった。」と被疑事実を否認されていました。一般に、被疑事実を否認しているケースでは、捜査機関の取調べが厳しくなる傾向が看取されます。そこで、弊所の弁護士は、捜査機関による取調べの前に弁護士による模擬取調べを行い、徹底して取調べ対策を行いました。警察は複数回にわたってご依頼者様の取調べを行いましたが、最終的に書類送検せず、警察限りで事件を終了させました。
2 早期に示談を成立させ、書類送検を防いだ事例
ご依頼者様は、鉄道会社に対し、放火する旨告げたという被疑事実で、警察から威力業務妨害罪の被疑者として捜査をされていました。
この事例の場合、鉄道会社という明確な被害者が存在しましたので、弊所の弁護士はすぐに被害者である鉄道会社との示談交渉に着手しました。粘り強い交渉の末、無事に示談が成立しました。弊所の弁護士は、すぐさま示談の結果を警察に報告し、書類送検せずに事件を終了させるよう働きかけました。
その結果、本件は、書類送検されず警察限りで終了しました。
おわりに
在宅事件の被疑者になると、処分が決まるまで、いつ捜査機関に呼び出されるか、いつ処分が決まるのか等が一切分からないまま、不安な日々を長く過ごすことになります。書類送検されて、検察に事件が送られれば、不安な日々は一層長く続くことになります。弁護士に依頼すると、書類送検を防ぐ弁護活動を行うことができます。また、弁護士が捜査機関と密に連絡を取り、捜査の見込みを把握することができる場合もあります。ご不安な日々を過ごされている方は、ぜひ一度弁護士にご相談ください。