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クレプトマニア(窃盗症)とは?
物が欲しくて盗むのではなく、「窃盗行為自体を体験したい」という衝動により、万引き・窃盗をしてしまうことが特徴の依存症。盗んだもの自体には興味がないため、窃取品はそのまま放置したり、捨てたりすることが多いと言われています。
クレプトマニアか否かの判断は、心療内科や精神科の診察によってなされますが、クレプトマニアと診断を受けた場合は、心療内科・精神科医師の指導の下、
① どういうときに万引きをしたいと思うのか
② 万引きをしたいという衝動が起きた場合、どのように対処することで、再犯を回避するか
などを身に着けていく治療プログラムが実施されます。
事例で解説 繰り返す万引き・窃盗は『クレプトマニア』・『窃盗症』が原因かも!?
Aさん
「スーパーマーケットで苺1パックとお惣菜2パック、ほうれん草1杷の合計1142円分、万引きしちゃったわ。警備員に事務所まで連れて行かれて叱られました。その後、警察で事情を聴かれましたが、すぐに家に帰ることができ、後で警察官に確認したら、不立件となっていました。」
※ 不立件:事件が正式に検察庁に送られず、警察署内で終了すること。
Bさん
「コンビニエンスストアで雑誌1冊と、おにぎり1個の合計538円分、万引きしちゃったよ。すぐに警察に通報されて、警察署で取調べをされたけど、後日、微罪処分で終わったよ。」
※ 微罪処分:刑事訴訟法及び犯罪捜査規範に基づき、司法警察員が捜査した事件について犯罪事実が極めて軽微で、かつ、検察官から送致の手続をとる必要がないと予め指定されたものについて、送致を行わずに刑事手続を終了させる処分
弁護士
そのとき、あなたは弁護士に相談しましたか?
Bさん
「えーっ!こんな、子どもがするような微々たる犯罪で、いちいち弁護士に相談するわけないよ。」
Cさん
「そうだよ。私はこれまでにスーパーマーケットやコンビニエンスストアで3回、万引きをしたけど、3回目の万引きのときに30万円の罰金を振込用紙で支払ったら、事件が終わったよ。刑務所に入ることにはならなかったし、いちいち弁護士に相談だなんて、大袈裟だよ。」
弁護士
弁護士に相談することは決して大袈裟ではありません!!
万引きしたものの価値がどんなに小さくても、それは『窃盗罪』という犯罪(刑法第235条)に該当します。
確かに、あなたに定まった住所や職場があって、逃亡のおそれがないときや、万引きしたことを素直に認めていたり、万引きしたものの額が小さかった場合などは、逮捕されることなく、在宅事件として扱われ、微罪処分や検察官の不起訴処分、罰金刑などにより、あなたの窃盗事件は終わることもあるでしょう。
しかし、万引きの回数が2回、3回、4回、5回…と重なった場合や、前の万引き事件からあまり日にちを経ていない中で、万引きを繰り返してしまったらどうなるでしょうか?
* 令和3年3月18日 東京地方裁判所立川支部・判決
懲役1年・執行猶予4年(保護観察付)
【事案の概要】
酒が飲みたいという動機の下、約400円のアルコール飲料を万引き
【主な判決理由】
・ 以下、3点の理由により窃盗の再犯可能性が認められる
① 過去に窃盗の罰金前科があること
② 平成30年8月に、万引きによる窃盗事件で執行猶予付き判決を受けてから2年半も経過しないうちに本件万引きを行ったこと
③ 今回の万引きも前回同様、「酒が飲みたい」という同じ動機に基づくもので、常習性が認められる。
* 令和2年9月16日 行橋簡易裁判所・判決
懲役8月
【事案の概要】
ドラッグストアにて、栄養ドリンク2パック(販売価格合計5632円)を万引き
【主な判決理由】
・以下の前科、前歴もあり、窃盗の再犯可能性が認められる
① 平成20年3月の万引き:罰金刑
② 平成21年7月の万引き:3年間執行猶予付き有罪判決
③ 平成26年6月の万引き:4年間保護観察付き執行猶予判決
④ 令和元年9月8日の万引き:微罪処分
・被告人の規範意識は希薄と言わざるを得ない。
Cさん
「えーっ!!万引きも繰り返すと、実刑判決になることがあるんだね。」
弁護士
「ですから、たかが万引きと侮ってはいけません。
Cさん、あなたは3回万引きをしたとのことでしたが、なぜ万引きをしたのですか?お金がなかったからですか?」
Cさん
「いや、どの万引きのときも財布に20000円は入っていたし、払えないことはなかったんだけど…どうして万引きしちゃったのかなぁ…」
Bさん
「俺も、538円くらい払うのは訳なかったけど、なんかさぁ、誰も見ていないから、万引きしてもバレないと思ったし、スリルがたまらないんだよね。」
弁護士
Bさん、万引きが発覚したときのリスクよりも、万引き行為時のスリルを優先するのはなぜですか?それに警察へ連行されたら、帰宅が遅くなるなどして家族に心配をかけませんか?家族に、万引きのことを打ち明けましたか?
Bさん
「そりゃあ、バレたら色々と面倒だし、警察署や検察庁での取調べも緊張するし、嫌だよ。でもさ、なぜか無意識に身体が動いて万引きしちゃうんだよ。あと、家族や友達に万引きのことを打ち明けたら、軽蔑されるだろうから絶対に話すことはできないよ。」
Aさん
「夫に叱られてしまうだろうから、私も万引きのことを打ち明けられないわ。」
万引きを繰り返してしまう理由は?
お金に困っていないのに、万引きを繰り返してしまう方が多くいらっしゃいます。皆さん、好き好んで万引きを繰り返しているのではありません。店員や警察官に見つかってしまった都度、「二度と万引きはやらない!」と心に誓う方がほとんどです。
しかし、なぜか、万引きを繰り返してしまう方がかなりの割合でいらっしゃいます。それはどうしてでしょうか。
Aさんたちはいずれも、「なぜ、万引きを繰り返してしまうのか?」という、万引きをしてしまう理由を突き詰めて、認識できていません。Bさんは「スリルがたまらない」と言っていましたが、「なぜ、スリルを感じたいのか」まで、分析できていません。そして、万引きを繰り返す方々はBさんのように、家族や友人に相談することなく、一人で抱え込まれる方が多いです。
そして、万引きを繰り返される方の中には、『クレプトマニア』(窃盗症)という精神的な病を抱えていらっしゃる方も一定数います。
ヴィクトワール法律事務所の弁護士への相談をお勧めする理由
万引き、窃盗事件について、当事務所の弁護士にご相談いただいた場合は、被害店舗との示談交渉や捜査機関との折衝はもちろんですが、クレプトマニアが疑われる方に対しては、医療機関と連携した上での弁護活動をいたします。
1回目や2回目の万引きの段階で、クレプトマニアを始めとした精神的な問題が原因であることを突き止めることができた場合、主治医も交え、再犯回避のために何ができるのか、ご相談者様と共に模索し、不起訴処分等のより軽い処分を勝ち取れるよう、お手伝いをいたします。
3回以上の万引きの段階でご相談いただいた場合は、ご家族・ご友人による見守り態勢の構築のお手伝いや、主治医と連携の上、再犯回避のためにご相談者様ができること・努力していることを捜査機関等に主張し、より軽い処分を勝ち取れるよう、尽力いたします。
Aさん
「初めての万引きで大ごとにならなかったとしても、一度弁護士に相談することはとても大切なことなのね。」
Bさん・Cさん
「よくわかりました。」
クレプトマニアを始めとした精神的な問題が原因で、万引きを繰り返す方には、大変真面目な方や、人に迷惑をかけまいと精神的に自立している方が多い印象があります。精神的な問題の他、他人に頼らず、一人で抱え込んでしまうストレスも再犯に関係しているかもしれません。
人は一人で生きていくことはできません。他人に相談することで、ご自身の精神的な負担を減らすことが再犯防止、ひいては幸せな明日のための第一歩になると思います。
万引き・窃盗事件を起こされた方は躊躇されることなく、是非、当事務所までお問い合わせください。
解決事例
【事案】執行猶予か罰金か…6回目の万引き事件今井祥子さん(仮名)という75歳の女性から
「万引き事件を起こしてしまい、裁判所から、国選の弁護士を頼むか私選の弁護士を頼むか、回答して欲しいと連絡がありました。どうしたらよいでしょうか。」と当法律事務所にご相談がありました。
【解決方法】
■初回の法律相談~これまでの前科・前歴について
早速、今井さんにご来所いただき、詳しいお話を聞きました。
すると、今井さんが万引き事件を起こすのは今回が6回目であることがわかりました。
今井さんの前科・前歴は以下のとおりでした。
①平成7年4月9日 → 同年5月18日、不送致処分
②平成21年6月22日 → 同日、微罪処分
③平成23年3月1日 → 同年8月23日、起訴猶予処分(不起訴)
④平成25年11月8日 → 平成26年2月15日、略式起訴にて20万円の罰金
今井さんは、令和元年11月3日に近所の金物屋にて、合計853円分の洗濯ばさみ等を万引きし、5回目の事件を起こしていました。そして、なんと5回目の事件で検察官の終局処分が出る前、令和2年1月13日に近所の文房具屋で1203円分のマジックインキを万引きし、6回目の事件を起こしてしまったというのです。
(弁護士)
では、今回の刑事裁判は、5回目と6回目の万引き事件についての裁判なのですね。
(今井さん)はい…
(弁護士)
これまで、家族や友人などに万引きをしてしまったことを話したことはありますか?
(今井さん)
いいえ!そんなことしたなんて、話せるわけないじゃないですか。これまでは何も処分されなかったり、罰金を払うことで事件が終わりになっていたので、誰にも話さないで済んでいました。今回も罰金の払込書がうちに届くかな…と思っていたら、裁判所から、「弁護士をどうするか」という書面が来て、もうすごく驚きました。私、裁判を受けないといけないのでしょうか…。
■心療内科への受診~クレプトマニアの診断
弁護士は今井さんと話すうちに、次のことがわかりました。
- どの万引き事件の際も、財布にお金が1万円以上入っており、支払いができないから万引きをしたわけではなかった。
- 夫と口論した後に、万引き事件を起こしている気がする。夫が定年退職した平成21年から、夫との口論は日常茶飯事となった。
- 万引きした商品は、どれも欲しいものではなかった。
弁護士は、今井さんに心療内科への受診を勧めました。
心療内科を初受診した1か月後、今井さんから「クレプトマニアという診断を受けました。
今、心療内科の医師の指示で、毎日日記をつけています。その日記の中で、万引きの衝動があったかどうか、衝動があった場合は抑えることができたかどうかという2点についても書くように言われました。幸い、今のところ、万引きの衝動は生じていません。」という話を受けました。
■被害店舗との示談交渉
弁護士は、今井さんが万引きをしてしまった金物屋と文房具屋に行き、示談交渉を行い、双方とも示談を成立させることができました。
(文房具屋店主)
「高齢者の万引きは結構多くて、とても悩んでいます。今井さんのように、謝罪を申し入れてくれる人は滅多にいないので、弁護士さんから連絡を受けて、とても驚きました。今井さんが万引きをして、警察を呼んだ時、今井さんから被害品の買取をしてもらっていますから、二度とうちの店舗に来ないと約束してくれればもう充分です。」
■万引きの衝動の根本的原因と向き合う~夫との話し合い
(今井さん)もしもし、先生、私、どうしよう…
(弁護士)もしもし、今井さん、どうされましたか?
(今井さん)
さっき、近所のスーパーマーケットで、欲しくもないスナック菓子を万引きしそうになったの。でも、心療内科の先生の勧めで私、日用品の買い物はすべてネット注文で配達してもらっているし、外出時は絶対に手提げやバッグを持たないようにしているから、危うく万引きしないで済んだけど…。もう病気は治ったと思っていたので、とてもショックで電話してしまいました…
今井さんは、この直前に夫と大喧嘩をしてしまったと、話してくれました。
弁護士は、今井さんと一緒に心療内科の主治医を訪ね、万引きの衝動を生む根本的なストレスを解決することがいかに大切かという話を聞きました。
(弁護士)
今井さん。今回の万引きのことや、過去の万引きのこと、そしてどの万引きも夫との夫婦喧嘩後に起こしていることを、もうご主人に話さないといけないと思います。今ここで、ご主人との関係を見直さないと、今井さんはまた万引きを繰り返してしまいます。今回の裁判では罰金か、もしくは執行猶予判決になるかと思いますが、こんなことを繰り返していたら、いつか実刑判決を得ることになってしまいます。それを回避するためにも、今、ご主人と正面から向かい合ってみませんか。
後日、夫にも事務所に来ていただき、今井さん・夫・弁護士の3名で話し合いを行いました。
夫は、今井さんが万引きをしてしまうほどに夫婦関係に悩んでいたことを初めて知り、とても衝撃を受けていました。
(夫)
ごめんな。俺が、そこまで追い詰めていたんだな。これからはお前が万引きしないように、もっと会話をして、お互い労わり合って暮らしていこうや…。
■いざ刑事裁判~執行猶予判決
夫は情状証人を引き受けてくれ、今井さんを監督しながら、万引きの元凶である夫婦関係の悪化を修正する旨、裁判で固く誓約してくれました。
判決結果は、罰金ではなく、「懲役1年2月、執行猶予3年」という判決でした。
(弁護士)
今井さん、罰金判決を取れなくて申し訳ございませんでした。
(今井さん)
いいえ。今回思い切って、心療内科を受診したり、新しい趣味に飛び込んでみたり、そして何よりも夫にすべてを打ち明けることができて、心底安心することができました。こんな気持ちは何十年ぶりでしょうか。執行猶予判決の方が、次、万引きをしてしまったら実刑になってしまうかもしれないという戒めにもなるので、気にしないでください。
おわりに
刑事裁判に臨むことは、刑事事件を終わらせることだけではなく、今後の生き方や人生を変えるきっかけにもなり得ます。
何度も万引きを繰り返されていらっしゃる方、万引き事件で捜査機関や裁判所から出頭を求められてお困りの方、当事務所までご相談ください。