目次
医師が逮捕されたら
医師(歯科医師も含む)が逮捕された場合、一般の刑事事件と同じプロセスで刑事処分を受けることとなります。
しかしながら医師特有のリスクも少なくありません。刑事処分が科されると医道審議会で行政処分受けることとなり、一定期間の業務停止、最悪の場合には医師免許の取消・剥奪となってしまう可能性があります。弁護士が活動を行うことで、このようなリスクを未然に防いだり、被る不利益の程度を軽くしたりすることができる可能性があります。
この記事では、医師が逮捕された際の刑事裁判や、医道審議会の概要とその際の弁護士の役割について解説していきます。
医師に対する行政処分
行政処分の種類
医師が罰金以上の刑事処分を受けた場合、医道審議会で行政処分を審議されます。医師・歯科医師に対する行政処分には以下のようなものがあります。
・戒告
・医業停止・歯科医業停止(1月~3年以内)
・免許取消
なお、「戒告」よりも軽い処分として、「行政指導としての戒告」もあります。
行政処分の理由となる者
医師法では、心身の障害などの他に以下のような者が行政処分の対象になるとされています。
・罰金以上の刑に処せられた者
・医事に関し犯罪又は不正の行為のあった者
・医師としての品位を損するような行為をした者
罰金以上の刑とは、懲役刑・禁固刑・罰金刑を指し、起訴され有罪判決が確定した場合には厚生労働省に通知され、医道審議会の審査対象、行政処分の対象となります。執行猶予判決の場合も同様です。
不起訴の場合
不起訴となった場合は、基本的に医道審議会で行政処分の対象となることはありません。
ただ、上記に示した通り、医事に関し犯罪又は不正の行為のあった者、医師としての品位を損する行為をした者と認定された場合には行政処分の対象となる可能性があります。
行政処分の判断基準
医道審議会分科会は「医師及び歯科医師に対する行政処分の考え方について」という文章で行政処分の基準を示しています。
行政処分は処分対象となるに至った事実や経緯を個別の事案ごとに判断されます。
刑事処分の判決内容を参考としつつ、以下のような医師に求められる倫理に反する行為をした場合には厳しく判断をされることとなります。
・その業務を行うにあたり当然負うべき義務を果たしていないことに起因する行為。
・医療を提供する機会を利用したり、医師の身分を利用して行った行為。
・他人の生命・身体を軽んじる行為。(業務以外の場面においても)
・自己の利潤を不正に追及する行為。
例えば、職務とは関係のない詐欺窃盗、殺人及び傷害、薬物犯罪についても、上記の医師に求められる倫理に反する行為として厳しく判断されます。
捜査段階での弁護活動
逮捕された場合の流れ
逮捕されると警察署で身体拘束を受けることになります。
身体拘束が予想される期間
⇒勾留が却下されると2、3日
⇒勾留決定がなされると検察官の最終処分まで、さらに10日~20日
⇒最終処分の決定に応じ身体拘束が継続
もちろん事件の内容によっては数日で釈放となる場合もありますが、最長の場合には捜査段階で最大23日間の身体拘束が予想されます。勾留が決定してしまうと、長期に渡る身体拘束を受けることとなり、職場等への影響は避けられません。
弁護活動の方針
逮捕されたからといって必ずしも長期の身体拘束が決定したというわけではありません。
弁護士は専門的知識や経験をもとに弁護活動を行い、少しでも早く社会生活へ復帰できるよう早期釈放や不起訴処分を目指します。
医師の方は、どのような刑事処分が下されるかによって、医道審議会での行政処分の程度が変わってくる可能性がありますので、慎重な弁護活動が必要です。
医道審議会での代理人活動
医道審議会とは
医道審議会は刑事事件の判決確定後、以下のようなプロセスで進行していきます。
刑事事件の判決から1年程度で(もっとも、新型コロナウィルス流行に伴う医道審議会延期等の影響で、2年前後かかっている事案もあります。)医道審議会の事案報告書の提出について連絡がきます。
呼び出しから処分の決定までは2、3週間程度と短期間です。また、処分の決定から発効までも2、3週間程度となります。
代理人活動の方針
医道審議会では弁護士を代理人・補佐人として選任することが認められています。
弁護士が関わることができるのは、医師に意見の機会が与えられている、行政対象事案報告書の提出の段階と、意見・弁明の聴取の段階です。
弁護士は、事案報告書作成のサポートや、医師と共に意見・弁明の聴取に同席し、代理人活動を行います。医道審議会に提出されている情報は医師にとって不利なものが多いため、弁護士が医師に有利な証拠を主張していくことが重要となります。
決定した行政処分に不服がある場合は、異議申立や取消訴訟を提起することもできます。
弁護士に依頼するメリット
不起訴となれば医道審議会での審議を受けることはありません。起訴となった場合は、その最終処分の程度が医道審議会での行政処分の判断に影響を与えることになります。
早期釈放や不起訴処分を目指すためにも、逮捕からすぐに弁護士に依頼することが重要です。
逮捕直後の接見で今後の見通しを立てることができる
弁護士は逮捕されている被疑者と、時間等の制限なく接見をすることができます。特に、逮捕直後は弁護士以外の接見は認められていないため、詳しい状況を把握するためには、弁護士に接見を依頼することが必要です。
当事務所では、基本的に弁護士は依頼を受けたその日のうちに接見へ向かい、被疑者の現在置かれている状況の確認をします。
取調べのアドバイスをすることができる
取調べでは、警察や検察は被疑者に事件に関する供述を求め、被疑者の話した内容を調書にまとめます。この調書は、捜査において重要性の高い証拠となります。一旦、作成した調書の内容を覆すのは、簡単ではありません。弁護士と取調べへの対応について慎重に話し合い、適切な対応をしていく必要があります。
また、脅迫や誘導などの手段による不当な取調べが行われた場合には、弁護士が警察や検察、裁判所に抗議をすることもできます。
早期の身柄解放を目指すことができる
早期の身柄解放ができる可能性が高いのは、勾留が決定するまでの逮捕から2~3日の間です。この段階では、弁護士は意見書の提出や面談などを行い、検察官や裁判官に勾留の必要性がないことの説明や、身柄解放の交渉を行います。
被害者との示談交渉ができる
被害者に対し怪我や損害を与えてしまった事件の場合、相手方と示談が成立すれば、最終処分が軽くなる可能性が高まります。その後の医道審議会においても、示談の成立や被害弁償がなされていることは医師にとって有利な証拠となります。
しかし、被害者は被疑者本人やその家族に会いたがらないときが多く、また被疑者の身柄が拘束されていれば被害者と会うことが物理的にできませんので、通常は、弁護士が間に入って交渉することになります。弁護士が、被害者の立場にも理解・共感を示しつつ、丁寧な事情説明等により被害者のストレスを軽減し、結果として示談が成立する可能性が高まります。
医道審議会でも継続したサポートができる
医道審議会では付添人・補佐人として弁護士を選任することが認められています。
本人に聴聞の機会が与えられているため、その際に証拠や主張を示すなど、事案をよく理解した弁護士が、少しでも行政処分か軽くなるよう働きかけを行います。
また、刑事裁判での判決の内容が医道審議会の判断に影響を与えます。刑事裁判で少しでも軽い判決を取ることができれば、医道審議会での行政処分も軽くなる可能性が高まりますので、刑事事件の段階から弁護士に依頼をすることが重要です。
行政処分に不服がある場合、厚生労働大臣への異議の申立や、裁判所に取消訴訟を提起するなどの方法があります。そのような場合にも、弁護士がサポートすることが可能です。
実名報道のリスク
実名報道について明確な基準があるわけではありませんが、社会的な関心の高い職業についている者が起こした事件については、実名で報道がされることが多くなります。医師や歯科医師、医学生などはこれに該当します。
弁護士は意見書などを通して警察・検察、報道機関などに対し、実名報道をしないよう求める働きかけをすることができます。
また、多くの場合で事件が報道されるのは逮捕の段階であるため、その後不起訴となったとしてもインターネット上に逮捕の事実が残ってしまうことが考えられます。そのような場合でもインターネット上に残っている記事に対し、削除請求をすることができます。
医学生の場合
医学生が在学中に事件を起こし、罰金以上の刑を受けた場合、退学処分となるか否かは大学の裁量によります。
医師免許の交付について医師法には、「罰金以上の刑を受けた者には免許を与えないことがある」とありますが、これは一律に判断されるわけではなく、個々の事情を鑑み判断されることとなります。
まとめ
医師が逮捕された場合、それに伴う不利益は一般の方よりも大きくなることが予想されます。逮捕されてすぐの段階から、弁護活動を進めることで、早期解決や処分が軽くなる可能性が高まります。また、刑事事件で起訴となってしまった場合でも、医道審議会での代理人活動など継続してサポートすることができます。
医業にかかわる犯罪から、直接的な関係のない犯罪まで、トラブルの解決を専門的知識と経験を持つ当事務所の弁護士がサポートいたします。
逮捕されてしまった医師の方、又は被疑者の立場になった方のご家族・ご本人からのご相談をお待ちしております。